自分らしいお店づくりを応援する情報サイト

Airレジ マガジン > 経営ノウハウ記事 > みんなが幸せになれることを守りながら地元に愛される和菓子屋として長く続けていきたい。五穀祭菓をかの 榊萌美(さかきもえみ)

みんなが幸せになれることを守りながら地元に愛される和菓子屋として長く続けていきたい。五穀祭菓をかの 榊萌美(さかきもえみ)

五穀祭菓をかの 榊萌美(さかきもえみ)

埼玉県桶川市の「五穀祭菓をかの」は、明治20年創業の和菓子屋。地元のお客様に愛され続けてきた老舗だ。しかし時代の移り変わりとともに、商店街の賑わいも減り、新しいお客様を増やすことも難しくなってきた。そんなお店の経営の転換期に、6代目として後を継いだのが榊萌美さんだ。榊さんは大学時代、夢のある将来像が描けず自信を持てない日々を過ごしていた。そんなある日、知り合いの言葉をきっかけに、小学校の卒業式の映像を見る。そこには、「お店を継ぎます!」と堂々と語る自分の姿があった。「そうだ、私がしたかったことは大好きな地元の、大好きな人たちに愛されてきた、大好きなお店を継ぐこと」だった。それが、人の役に立つ仕事がしたいと思う原点だったのだ。その後、「をかの」に入社。それから6年、いま老舗の6代目として榊さんが目指していることを聞いた。

自分を育ててくれた商店街にいつか恩返しを

私は和菓子屋の娘として生まれ、商店街で育ちました。小さい頃から店の手伝いをしてお客様と会話をしたり、三輪車でいろんなお店に遊びに行ったり。両親が忙しくて構ってくれないときも、地域の人たちが遊んでくれました。お客様も、お店をやっている人も、みんなが家族のような存在で、この商店街のみんなに育ててもらったようなもの。いつか地元の大好きな人たちに恩返ししたい。そんなことを漠然と思い描いていたように思います。

でも年齢を重ねるにつれ、交友関係が広がり、部活も忙しくなります。大事な気持ちはどこかに忘れ去られていきました。進学のタイミングでは、人の役に立つ仕事がしたいという想いから、なんとなく教師を目指して大学に入学しました。でも、そもそもの動機が弱かったし、本当にやりたいことじゃなかった。勉強に身も入らない。周りには将来への意識が高い人もいる。その一方で自分は遊んでばかり。「いったい何をしているのだろう」と、どんどん自信をなくしていきます。

小学生の頃の自分の姿がかっこよかった

大学2年の春のこと。コンビニに向かう途中で、小学校の同級生のお母さんから「萌ちゃんはお店を継いだの?」と言われました。「えっ、継がないよ。なんでそんなこと聞くの?」「だって卒業式で言っていたよね」と。覚えていないけど、すごく気になり急いで引き返しました。当時のビデオを探し出して再生すると、そこには真っ白いスポットライトに照らされ、背筋をピンと伸ばして、大きな声で「をかのを継ぎます!」と宣言する自分の姿がありました。「なんてかっこいいんだろう」。それにひきかえ今の自分はなんだろう。やりたいことがわからずかっこ悪い今の自分よりも、小学生のときのかっこいい自分を信じてみたい。そう思いました。すぐにお店を継ぐことを決意して、大学を辞めました。とはいえ社会人経験もなければ、敬語もまともに話せません。そこでアルバイトしていたアパレルの会社で2年間社会人経験を積んでから、「をかの」に入社しました。

何からはじめたらいいのかわからなかった

五穀祭菓をかの 従業員

勢い込んで入社したものの、もとからいる従業員も、私に何をさせればいいかわからないし、私自身も何からはじめたらいいかわからない状態です。まずは自分の強みを活かすことからはじめました。私が得意なことは初対面の方とすぐに打ち解けられること、お客様との関係を築くこと。そう自覚していたので、初めてのお客様でも、常連のお客様でも、積極的に会話をしました。たとえば、どんな商品を探しているのかお聞きして、商品のよさを伝え、納得いただいたうえで買っていただくようにしました。でも商店街の衰退とともに、お店の売上もお客様も減っている状況です。ただ日々を過ごすだけでは、売上を大きく増やすことも、新しくお客様を増やしていくことも難しい。このままじゃだめだと思い、一歩ずつ改革を進めていくことにしました。内装に統一感を持たせたり、ディスプレイを見やすくして商品説明をつけたり。資金がないし、人もいないので、お金をかけずにやれることから変えていきました。

やってよかったと思うことは、不採算アイテムを思い切ってやめたこと。それまで商品数がとても多かったのですが、手作りの和菓子を多品種用意することで、職人さんに大きな負荷をかけることになり、原価面でもマイナスがあります。売れる商品に注力することで、お客様は人気商品をいつでも買える状態になり、お店の負荷を減らすこともできました。

ヒット商品を生み出したことで起きたこと

溶けないアイス「葛きゃんでぃ」

老舗の和菓子屋として、格式は下げずに敷居を下げることも必要だと思いました。普段和菓子を買うことがない若い人にも興味を持ってもらえるような商品として、溶けないアイス「葛きゃんでぃ」を発売しました。テレビ番組で取り上げていただいたこともあり、商品は大ヒット。それは嬉しかったのですが、ひっきりなしに注文が入り、生産が追いつかなくなりました。「いつになったら買えるのか」といったクレームも毎日入るようになりました。職人である従業員が「俺らはアイスを作りにきているんじゃない」と辞めてしまうこともありました。お店の雰囲気が最悪になってしまった。そのなかで気づいたことは、自分の責任でやれることからはじめて、まずは体制を安定させることが必要だということ。そこではじめたのが自分でも店頭でつくれる自家製シロップの「かき氷」です。コロナ禍となり、夏祭りがなくなったことで、こどもたちには夏の思い出がなくなり、商店街も困っていました。使う場所がなくなっていた氷を仕入れることにして、お茶屋さんからお茶を仕入れてシロップをつくることで、少しでも地元のためになればという思いもありました。

お客様に喜んでもらえることは何だろう

かき氷の販売をはじめても、最初は全然来てもらえませんでした。味の評価も低くて、菓子職人の父に味見してもらったら全然ダメだなと。でも私には力がないから想いをぶつけるしかなくて、毎日来てくださったお客様に「どうしたらよいか、ヒントがあればください」と聞いて、言われたことを改善していきました。そこから少しずつ美味しいからとリピートしてくれる人や、接客を通じてお店のファンになってくれる方が出てきました。かき氷をきっかけに、他の和菓子を買ってくれる方や、帰省土産として選んでくれるような方が増えてきました。

当初は、売れる商品をつくるという考えにとらわれていた。でも、それじゃダメだと気がつきました。今は、売れるものではなくて、お客様に何が求められているのか、しっかり耳を傾けて、喜んでくれることは何かを考えることが一番大切だと思って商品づくりをしています。

経営を続けるためにも変えていくこと

五穀祭菓をかの Airレジ Airペイ

店舗のレジはアナログな手打ちから、Airレジに変えました。これにより日々の売上げはもちろん、どの商品が売れたのかもボタンひとつで把握できるようになりました。レジの操作はシンプルで、誰でも簡単に使いこなせるところもよかった。併せてAirペイでキャッシュレス決済にも対応しました。和菓子屋さんには馴染みがなく今までは気軽に立ち寄らなかったような方も、キャッシュレスに対応することで、ふらっと入って豆大福を1個だけピッと買っていく。そんな気軽な買い物もしていただけるようになりました。

売上が見えることで原価管理もしやすくなります。値上げしなければ採算の合わない商品も見つかりました。売値を140円から180円にする。そんなことをしたら買ってもらえなくなるという声もありました。でも「をかの」の和菓子は、原材料にこだわり、職人がひとつひとつ手作りした価値ある商品です。価格を下げて無理をしていたら、お店を続けていくことができなくなる。結果、好きな商品が買えなくなってお客様を悲しませることになります。誰も幸せになれない。だから、価格に見合う価値をちゃんと伝えることが大切だと思うし、そこに納得できれば、お客様にも喜んで買っていただけます。実際、値上げをしても売上が減ることはありませんでした。

どんどん試して、成功も失敗も発信していく

五穀祭菓をかの 商品陳列

私には小さい頃から、面倒をみてくれる大人が周りにたくさんいたし、今も大勢の人と関わり、いろんなことを教えていただきながら、新しいことにチャレンジできています。恵まれた環境にいることに感謝して、絶対に自分の力を過信しないようにしています。ひとりじゃ何もできないことがわかっているし、今ご飯が食べられているのも、誰かが商品を買ってくれているおかげ。そういう当たり前のことを忘れないように。そして人の話をしっかり聞いて、自分でやれることがあればどんどん試してみます。やってみなければ結果はわからないし、成功しても失敗しても、経験談としてみんなに話すことで、誰かの役に立てばいいなと思って、積極的に日々の取り組みをSNSで発信しています。

私自身のチャレンジは、「をかの」とは切り分けて、個人の和菓子ブランドとして「萌え木」を立ち上げ起業しました。和菓子業界の入り口を広げる新しい提案と、ここで得た知見を、お客様やお店、業界にも還元することを目指して活動しています。うまくいかないことも多く、試行錯誤の毎日。時間はかかるかもしれないけれど、高いところを目指してがんばることで、還元するスピードを速めたいと思っています。

地元で長く愛されるお店として続けていきたい

五穀祭菓をかの 榊萌美(さかきもえみ)

先日、70年以上「をかの」に通ってくださっているお客様と話をしました。戦後すぐ、妹さんをおぶって1カ月に1回「をかの」の和菓子を買うことが楽しみだったこと、人生の節目節目とお菓子の記憶が結びついていること。「私が生きてきたなかで、一番好きなお店が、こうして残っている。それって幸せなことね。残してくれてありがとう」と。その言葉を聞いて、お客様の目の前で泣いてしまいました。そのときにすごく思ったんです。私がやりたいことのためではなく、お店を愛してくれるお客様のためにこそ、お店を長く残したいと。

「をかの」は135年、地元の方に愛されて育ってきたブランドです。私がやりたいことをやったらエゴになる。従業員を巻き込むことになるし、お客様にも昔と変わったと思われる。経営を続けていくために変える部分はあるけれど、お客様の言葉を近くで聞いて、何かあれば改善していけるぐらいの規模感でやっていくのがいいと思っています。無理はしないで確実に、お客様の幸せと、従業員の幸せを守れるような体制をつくりたい。小さくてもいいので、長く、愛されるお店として「をかの」を続けていきたいなと思っています。

五穀祭菓をかの

五穀祭菓をかの
埼玉県桶川市南1-6-6
048-771-1432

※この記事は公開時点、または更新時点の情報を元に作成しています。

この記事を書いた人

羽生 貴志(はにゅう たかし)ライター

ライター。株式会社コトノバ代表。「コトのバを言葉にする」をコンセプトに掲げ、いま現場で起きていることを、見て、感じることを大切に、インタビュー記事や理念の言語化など、言葉を紡ぐことを仕事にしています。https://www.kotonoba.co.jp

この執筆者の記事一覧

前康輔(まえ こうすけ)写真家

写真家。高校時代から写真を撮り始め、主に雑誌、広告でポートレイトや旅の撮影などを手がける。 2015 年には写真集「倶会一処」を発表。

前康輔 公式 HP http://kosukemae.net/