STORYストーリー

2024年12月19日

連載第2回

お店の灯りを点すことを続けていれば、
必ずお客様が訪ねてくれる。

この記事は2024年9月12日の取材時点の内容を
もとにしています。
現在の状況とは異なる場合がありますが、
復興に向けたその時々の歩みや思いを
そのままお伝えします。

7月からは能登島でのカフェ営業に注力

こんにちは。能登島マリンリゾートの坂下さとみです。7月からのお店の出来事をご報告します。4月から6月までは、和倉温泉の屋台村に出店し、ドーナツの出張販売をしてきました。売上も好調でしたがスタッフとも相談し、7月からは能登島にあるカフェ「海とオルゴール」での営業に注力することを決めました。最初はお客様は少ないかもしれない。でも目の前にある澄み切った海と空を眺めて、癒されたいお客様は必ずいるはず。それがお店をはじめた原点だし、その方たちをここで待ちたいと思ったからです。

「やっぱりここはいいわ」という言葉が嬉しい

例年であれば夏の能登島は観光シーズンで繁忙期です。でも遠方からの観光客はほとんどいなくなってしまいました。いまカフェにお越しになるのは、近隣の石川県や富山県からのお客様です。SNSでの情報発信をキャッチしてくださったり、テレビで取材された放送を見て、「海とオルゴール」が営業していることに気付いてくれたお客様が、カフェを目指して来てくださることが次第に増えてきました。ゆっくり海を眺めてお茶をしながら「やっぱりここはいいわ」「ずっと続けてください」といった言葉をかけていただけることが嬉しくて、震災前まではお客様との会話はなるべく控えていたのですが、自然と話をするようになりました。

15年ぶりに訪れたお客様から伝えられた言葉

そんな中でも、富山から来られた男性のお客様がとても心に響きました。窓際の席に座り、海を眺めながら黙ってコーヒーを飲んでいました。その方が帰り際、お会計のときポツリポツリと話をされたのです。15年前、4歳のお子さんを連れてここを訪れたこと。今では19歳になっているお子さんにとって「海とオルゴール」が思い出の場所であるということ。能登で震災があったとき「海とオルゴール」を真っ先に思い出したこと。だからテレビで今も営業していることを知り、会いにきてくれたのです。「お母さん、無事でよかった」と涙を流されました。そんなお客様がいることに私はとても支えられています。お店でお客様を待つことにしてよかったと実感しています。

「イルカに会いたい」というお客様の夢は変わらない

夏休みに入り、イルカと一緒に泳ぐドルフィンスイム体験の予約が増えました。イルカが大好きで“いつか一緒に泳いでみたい”という夢を持っている人は全国にいます。他にもいろいろ調べてみたけれど、叶えられるのは「海とオルゴール」しかないと。そうした方々は、私がSNSで投稿しているイルカの写真や動画をよく見てくれていて、震災の後も変わらずに、ここでイルカと泳げることを知って予約をしてくれます。イルカと泳ぐ夢を叶えたお客様の顔を見ると、私も嬉しい気持ちになります。お客様の数は昨年の10分の1ですが、ここで体験できることの価値は何ひとつ変わっていません。

能登島の明るいニュース。今はイルカの赤ちゃんに夢中

9月10日にイルカの赤ちゃんが生まれました。春頃にお母さんイルカが妊娠していることに気がついてから、今か今かと待ちわびていました。18頭目の家族の誕生です。能登島の明るいニュースに、テレビ局や新聞社から取材の依頼もありました。私自身、嬉しくて嬉しくて、早朝から海に入って、写真や動画を撮りまくっています。日々成長していく赤ちゃんの変化を目に焼き付けています。イルカに会いにくるお客様にとっても、今は最高のタイミング。SNSにもどんどん動画をアップしています。可愛いイルカの赤ちゃん、たくさんの方に見て欲しいです。

地域が元気を取り戻せるように頑張っていくしかない

私の実家は輪島で民宿を営んでおり、毎週のように帰って手伝いをしています。道路が壊れ、震災当日は車で6時間以上かかった輪島も、今では修復され行き来はしやすくなりました。しかし、壊れたままの住居が残る風景を毎日見ていて、気晴らしのためにどこかに出かけようと考える気分になれない人も多いだろうと正直感じます。それでも誰かが熱をもって、地域で前を向いてがんばっていることを発信していかなければ、いつまでも元気になれない。だからどんなに苦しくても、私は声をあげ続けます。

灯りを点すことを続けていれば必ず来てくれるお客様がいます。最近も、全国を獅子舞をしながら回っている方や、ウクレレを演奏する方がカフェに来て、無償でライブをしてくれました。その人たちが違う場所で「海とオルゴール」の話をしてくれたことで、「○○さんに聞いて来たよ!」と、新しいお客様がここへ来てくれることがありました。こうしたことを地道に繰り返していくしかない。最初に書いたように、お客様にかけていただく言葉が本当に力になっています。もっとできる。やるしかない。まだまだ頑張らんならんな、と思っています。

海とオルゴール(能登島マリンリゾート)
石川県七尾市能登島曲町2部乙2-7
https://www.umi-to-orgel.com/

※この記事は公開時点、または更新時点の情報を元に作成しています。

この記事を書いた人

執筆

羽生 貴志(はにゅう たかし) | ライター

ライター。株式会社コトノバ代表。「コトのバを言葉にする」をコンセプトに掲げ、いま現場で起きていることを、見て、感じることを大切に、インタビュー記事や理念の言語化など、言葉を紡ぐことを仕事にしています。

https://www.kotonoba.co.jp