STORYストーリー
2025年7月16日
連載第5回
それぞれの目的と想いを持って、
能登島を訪れるお客様が増えてきた。
もとにしています。
現在の状況とは異なる場合がありますが、
復興に向けたその時々の歩みや思いを
そのままお伝えします。
イルカに会いにしっかり準備をして
春から夏へと向かう季節は、能登島の気候も穏やか。漁場も豊富になることからイルカたちも機嫌がよく、カフェの前の海でもよく飛び跳ねて遊んでいます。イルカに会いに来るにはちょうどいいタイミングでもあり、震災と豪雨以降、ほとんど途絶えていたイルカウォッチングとドルフィンスイムの予約が、2025年ゴールデンウィーク頃から少しずつ入るようになってきました。1日1便での限定したご案内で、出航時間等の注意事項も多くなりますが、「どうしてもイルカに会いたい!」という気持ちで、能登エリアを調べ、前日は周辺の民宿を選んで泊まる方もいます。しっかり準備をして能登島までいらっしゃるお客様と会話をすると、イルカを想う人がたくさんいることを実感して嬉しく思います。

全国から「海とオルゴール」を目指して
カフェは天気がよければ満席になる日もありました。震災以降1日1組か2組という日々が続いていたことを考えると大きな変化です。もちろん、以前のように能登島に観光客が戻ったわけではありません。周辺はとても静か。通るのは復興工事のトラックばかり。ただこれまでとの違いは、近隣のお客様だけではなく、全国からお客様がいらっしゃるようになったこと。SNSには、私が日々感じたことを綴っています。それを読み、いつか「海とオルゴール」に行ってみたいと思ってくれて、北海道や沖縄から、実際に訪れてくれるお客様がいました。目の前に海が広がるテーブルに座り、ゆっくりと時間を過ごしているお客様の後ろ姿を見て「お店を続けてきてよかった」という想いがこみあげてくることが何度もありました。

アクティビティ拠点を飲食店に改装し4月オープン
「海とオルゴール」和倉店は、イルカウォッチング等のアクティビティ拠点でしたが、護岸工事がはじまり和倉港が使えなくなったことから方針転換し、飲食店として営業をすることに決めました。内装や飲食スペース等、自分たちで工事をして2025年4月6日にオープン。店長も提供するメニューづくりも娘に任せることにしました。これからの能登をつくっていく若い人たちに、チャレンジできる場をつくることが、地域の未来のためにも必要だと思うからです。娘は私に似て、採算を考えず定食のおかずをつい数品増やしてしまうような傾向があるのですが、まずはお客様を増やすこと、地域で愛されるお店にしていくことを、自身の責任でやっていけるよう応援しつつ、見守っていきます。オープン後、さっそく地域の雑誌で紹介されたり、それを見て来店するお客様がいたりと、まずは順調なスタートが切れています。

継承した焼肉店も自分たちらしく
七尾市内にある昔なじみの焼肉店「スタミナ軒」から相談があり、4月に経営を継承しました。イルカクルーザーの船長が、新しい店長としてもお店を切り盛りしています。地元から愛されている店舗の味を受け継ぎながら、私たちらしいお店づくりに取り組んでいる最中です。新しいメニューを開発することもそうだし、注文から会計までのオペレーションも、より便利な方法に変えようとしています。具体的には、紙と鉛筆で注文を受けるアナログな方法から、オーダーシステム『Airレジ オーダー』で注文を受け、POSレジアプリ『Airレジ』で会計するまで、一連の流れをシステム構築して業務を効率的にするべく実行中です。以前に「海とオルゴール」で導入した経験が役に立ち、メニューなどもすべて自分で設定できました。操作マニュアルもつくり、若い人がアルバイトで来てもすぐに教えられるようにしました。未来に向けて、便利なサービスを活用しながら、時代に合わせたお店づくりもしていきます。

復興への道のりは決して容易ではない
急なお弁当の注文が入ることも多く、目の前の作業に追われ、能登半島の中でも行けていないエリアがあったのですが、先日、母の生まれ故郷がある輪島の奥に位置する名舟(なふね)へ足を運びました。海が隆起したことで、かつて海だった場所が陸地となり、そこに住人が通行するための細い道が応急的に作られていたり、祭りのとき神輿を船に乗せて向かう海の上の鳥居が壊れていたり、あまりに変わり果てた風景に大きなショックを受けました。実家がある輪島でも、行く度に見知った家がなくなっています。和倉温泉街の老舗旅館も、一部工事のはじまったところはありますが、護岸工事が終わらなければ建設を始められない旅館もあり、まだ先の見通しは立っていません。復興への道のりは決して容易ではない。それでもここで事業を営む私たちは、美しい自然を求めて足を運んでくださるお客様を待つしかない。お客様に来ていただくために、できることには何でも取り組んでいくしかないと思っています。

能登島に泊まりたい人のために
「海とオルゴール」の目の前に広がる海は、湾内にあるため波も静かで水も澄んでいます。時間帯によって刻々と色も変化します。緑色になったり、青色になったり、虹色の光が射したり。カフェのお客様はそんな海を眺めたくて、窓辺のテーブルに座り、ゆっくり海と会話をしているんだなと感じます。でもここが美しいのは昼間だけではありません。夜になれば満点の星空が頭上に広がります。能登島に泊まらなければ見ることのできない美しい風景。そんな体験をしてもらえるよう、カフェの前にキャンピングカーなどのRV車が充電して車中泊ができる設備をつくりました。ペットと泊まることができる小さなホテルも完成しました。目的はなんだって構いません。能登はみなさんが訪れてくれることを待っています。

海とオルゴール(能登島マリンリゾート)
石川県七尾市能登島曲町2部乙2-7
https://www.umi-to-orgel.com/
この記事を書いた人

羽生 貴志(はにゅう たかし) | ライター
ライター。株式会社コトノバ代表。「コトのバを言葉にする」をコンセプトに掲げ、いま現場で起きていることを、見て、感じることを大切に、インタビュー記事や理念の言語化など、言葉を紡ぐことを仕事にしています。
https://www.kotonoba.co.jp