STORYストーリー
2025年11月27日
連載第6回
守ってきた灯りにお客様が戻り始めた。
復興に時間はかかっても諦めずに挑戦し続ける。
もとにしています。
現在の状況とは異なる場合がありますが、
復興に向けたその時々の歩みや思いを
そのままお伝えします。
野生のイルカに会える奇跡を求めて
2024年1月に発生した能登半島地震、そして、同年9月の豪雨により、能登エリアは甚大な被害を受けました。それから1年半以上が経過した今も、まだまだ地域は復興の途上です。それでも明るい兆しが、少しずつ見えてきました。野生のイルカに会える「イルカウォッチング」と「ドルフィンスイム」は、開店休業状態だった2024年に比べれば、予約のお客様が大幅に増えました。
私はSNSで、イルカの家族に赤ちゃんが産まれたことや、念願叶ってイルカとたわむれた方の声を積極的に発信しています。そうした投稿を見て「いつかイルカに会いたい!」と夢見ていた方が、「能登を応援したい」という思いとともに、能登島を訪れてくれるようになりました。野生のイルカは日々居場所を変えるので、出会えること自体が奇跡です。私たちは海のどこにイルカが移動しているのか、毎日探して把握しており、ご予約いただいたすべてのお客様にイルカに出会ってもらえたことは、この夏の大きな喜びでした。
イルカの事業を大切に守っていきたい
冬の間は天候が不安定となり、海も荒れ模様となるため、イルカのアクティビティは休業します。2026年春からの再開に向けて、私自身の新たなチャレンジとして操船技術の特訓をしています。これまで船長は事業パートナーに任せ、私自身は経営とインストラクターとしての役割に徹していました。でも事業の先を見すえたとき、今後も安心してお客様をお迎えしていくためには、船長の確保が重要となります。そこで私自身も操船技術を磨き、船を出せるようにしたほうがいいと考えました。
震災からさらに前、コロナ禍となる以前にはお客さまの数がピークでした。その当時は、イルカが好きな若手のインストラクターも「海とオルゴール」で働いていました。そうした新規スタッフの採用も今後に向けて計画しています。すぐには以前の状態に戻らないとしても、イルカへの強い思いを持つ方がたくさんいることを、この夏の営業を通してあらためて実感しました。お客様のために、そしてこれから仲間となるスタッフのために、この事業を大切に守り続けていきたい。先手を打って、やれることから取り組んでいきます。
カフェのお客様が少しずつ戻ってきた
能登島のカフェは、震災から1ヶ月後には再開していましたが、お客様は1日1組や2組という状態が1年以上も続いていました。事業の関係者からは、私ひとりで営業をしたほうがよいのでは、と言われていました。それでも私は諦めたくなかった。たとえ経営が苦しくても「海とオルゴール」への強い思いを持って働いてくれているスタッフとともに、なんとしてもお客様が戻ってくる日々を待とうと決め、前と変わらず営業していることを発信し続けました。
閑散としていた状況が少し変わってきたのは2025年のゴールデンウィーク頃から。観光のオンシーズンである夏には、カフェが満席となりお客様をお断りしなければいけない日もありました。コロナ禍を経てテーブルの数を減らしたので、以前ほどの混雑ではないとしても、昼時には、臨時のスタッフを雇う必要があるほどの忙しさでした。ほら、『Airレジ』を見れば、昨年よりお客様がこんなに増えたってわかります。営業を続けてきてよかったと本当に思います。
解体した自宅の跡地では新たな試みを
震災で傾いてしまい住むことができなくなった自宅は、今年1月に解体をして更地になりました。そこには事務所を兼ねた新たな店舗を再建します。いま考えていることは、イルカを愛する人たちが集まるコミュニティスペースと、翌日「ドルフィンスイム」を予約しているお客様が簡易的に泊まれる施設をつくること。参加者が集まっていれば、早朝ツアーでの車の出迎えもしやすくなりますし、伊豆方面の御蔵島にこうした宿泊施設があり、参加者同士が仲良くなれたというお客様から聞いた話も参考にしました。イルカを求めて旅をする人が、お互いにコミュニケーションをとれたり、気軽に能登まで来られるような設備を整えていきたいと思っています
能登の復興にはまだまだ時間がかかる
近隣の状況をお伝えすると、和倉温泉街の被害は大きく、港の護岸工事も予定より長引く可能性があります。温泉街の賑わいはなくなり、お客様だけでなく、旅館や飲食店などで働いていた人も遠くへと行ってしまいました。最近、以前勤めていた加賀屋のベテランスタッフと、たまたま顔を合わせることがあり、苦渋の表情で辞めることを伝えられたときには、なんとも言えない辛い気持ちになりました。
実家のある輪島には毎週のように通っています。途中の道路状況は以前よりはよくなりましたが、今も工事が続いています。のと里山街道を走れば、地震の被害がどれほど大きかったかよくわかると思います。美しかった輪島の街並みは地震と火事で失われてしまった。1年を経てようやく解体が進み、これから再建となりますが、心情としても街が以前のように戻るにはまだまだ時間がかかります。それでも能登で事業を営む私たちは、諦めずに、やれることをやっていくしかない。その気持ちはずっと変わりません。
たくさんの人の応援が力になっている
強い気持ちを持ってがんばっていけるのは、たくさんの方が応援してくれているから。「イルカウォッチング」と「ドルフィンスイム」は、能登にボランティアで来られた方や、イルカ好きなダイバーが口コミで広めてくれたり、実際に誰かを連れてきてくれることで少しずつ予約が入るようになっていきました。能登島のカフェには、過去に来店されたことのある方や、SNSでの発信を見てずっと気にかけてくれていた方が、遠くからでも来てくださるようになりました。テレビや新聞で取材をされる機会もあり、能登島の美しさ、野生のイルカと会える奇跡、人の温かさを知って、「海とオルゴール」を初めて訪れてくださる方も増えました。
私は膝が悪くお店に立てる時間が限られるため、直接お会いできないこともありますが、カフェにいらしたら目の前に広がる美しい海を眺めて、ゆっくりと時間をお過ごしください。一棟貸切の宿「コテージのとじま春菜」も隣にあり宿泊できます。和倉温泉に4月にオープンした「海とオルゴール」和倉店では、地元の旬の魚や野菜を使った日替わりの定食をメインに、スイーツやドリンク、テイクアウトできるお惣菜の販売等をしています。まだまだ大変なことは多いけれど、私たちはなんとか能登で頑張っています。ぜひ会いに来てください。お店の灯りを点し続けて、あなたを待っています。
海とオルゴール(能登島マリンリゾート)
石川県七尾市能登島曲町2部乙2-7
https://www.umi-to-orgel.com/
この記事を書いた人
羽生 貴志(はにゅう たかし) | ライター
ライター。株式会社コトノバ代表。「コトのバを言葉にする」をコンセプトに掲げ、いま現場で起きていることを、見て、感じることを大切に、インタビュー記事や理念の言語化など、言葉を紡ぐことを仕事にしています。
https://www.kotonoba.co.jp