STORYストーリー
日本では馴染みのないドイツ料理の奥深さを伝え、自分がよいと思うものを表現するレストランに。
- Blauer Engel
- 山口雅鷹
- (やまぐちまさたか)
2023年6月5日、市ヶ谷にオープンした「Blauer Engel(ブラウアー エンゲル)」は、ドイツ・オーストリア料理の専門店だ。日本では「ドイツといえばソーセージ」のイメージが強いが、店主の山口雅鷹さんは、あえて「ソーセージのないドイツ料理」をコンセプトに掲げた。「日本ではあまり馴染みがないのですが、ドイツには手の込んだ伝統料理や、旬の食材を取り入れた季節感のある料理も数多くあります。ドイツ料理の奥深さと美味しさを、ゆったりと楽しんでいただける空間が作りたいと思いました」。カウンター主体の落ち着いた店内。知る人ぞ知る隠れ家レストランのような「Blauer Engel」には、開店直後から、ドイツ・オーストリアに縁のあるお客様や、旅行先での思い出の料理を懐かしむお客様が訪れ、本場を再現した味に舌鼓を打っている。山口さんがドイツ料理人になろうと決めた理由、お店を開店するまでの経験について話を聞いた。
原点は母親に料理をほめられたこと
なぜ料理人になったのか。ふりかえると小学生の頃、調理実習で習った野菜炒めを、母親にほめられたことが原点だと思います。「自分がつくったもの」をほめられたことが嬉しくて、「料理人になりたい」という気持ちが早くから芽生えました。高校に進学するタイミングでは、調理師免許が取れる専門学科のある農業高校を選択しました。料理人を志す人には、イタリアンやフレンチのシェフが人気です。お店の数も多く、修業先にも事欠きません。でも私は日本では馴染みのないドイツ料理に興味を持ちました。父親がドイツの機械を輸入販売する会社のエンジニアをしていたこともあり、来日したドイツの方を接待するときについていったり、お土産をいただいたりと、身近に接する外国人がドイツ人だったことが影響していたと思います。でもそれだけではなく、なんとなく「これがいい!」という直感のようなものがありました。
はじめて体験した本場のドイツ料理
高校卒業後、最初に就職したのはドイツのビールとソーセージを輸入販売する会社のレストラン部門です。そこには13年間ドイツに住んでいたシェフがいました。料理人になるための厳しい修業が続くなかで、今まで食べたことのなかった多くの料理を知り、「ドイツ料理の美味しさ」を実感する機会が増えていきました。そして20歳のとき、初めて念願のドイツに旅行をしました。自然の風景も、歴史ある街並も美しかった。そしてレストランに入り、本場のドイツ料理を食べたとき、美味しくて心から感動しました。同時に、日本でシェフに教わったり、自分で研究したりしていたドイツ料理の味とも、そう遠くないところにあることもわかりました。「ドイツ料理人になることは間違いじゃない」と確信できた瞬間です。
「ドイツ料理=ソーセージ」じゃない!
日本ではドイツといえばソーセージのイメージが強いですよね。でも実際にドイツに行ってみると、ソーセージはあくまでもビアホールや屋台で食べるような軽食です。レストランで提供されているドイツ料理には、塩漬けした肉を煮込んだアイスバイン、チーズを使ったパスタのシュペッツレ、ドイツ風カツレツのシュニッツェルといった伝統的な料理から、旬のアスパラやキノコ等を使った季節感のある料理まで、手の込んだ料理が数多くあります。またヨーロッパ大陸は国境で厳密に各国料理の特徴が分けられるわけではなく、オーストリア、フランス、ポーランド、イタリアといった国境を接する地域と、ゆるやかに食文化がつながり多様な料理が存在しています。こうした豊かなドイツ料理の奥深さが楽しめるレストランを「いつか自分で経営してみたい」、そう心に思い描くようになり、ドイツに関わる複数の料理店で経験を積んできました。
初めて自分がオーナーとなる料理店
ドイツビールやワインの輸入会社が経営するレストラン、ドイツ文化会館に併設されているレストランでの店長・料理長を経て、2023年6月5日、初めて自分がオーナーとなって経営するドイツ・オーストリア料理店「Blauer Engel」を市ヶ谷にオープンしました。これまではどちらかと言えば、お酒を飲む方を中心とした客層だったのですが、料理を中心にすることで、お酒を飲む方はもちろん、そうでない方にも気軽にお越しいただけるレストランを目指しました。とはいえ自分自身もお酒好きで、ソムリエ資格なども取得してきたので、提供する料理に合うお酒にも徹底してこだわっています。厳重な品質管理で輸送した本場のドイツビールや、日本では手に入りにくいドイツ語圏のワインを多数そろえ、ドイツ料理に合う日本酒も厳選して提供しています。
料理人として力を発揮できるように
オーナーとして店舗を経営するには、提供する料理や飲み物のことだけではなく、ヒト・モノ・カネの管理も考える必要があります。そこは正直、得意な部分ではないので、開店準備をしていたときに、効率化できることはできるだけアプリなどのシステムの力を頼ろうと思いました。POSレジアプリの「Airレジ」や、キャッシュレス決済ができる「Airペイ」は以前から利用していて、操作にも慣れていたので、迷わず導入を決めました。また予約の電話が鳴るたびに仕込みの手を休めたくないので、お客様がいつでもネット予約できる「レストランボード」も導入しました。
オーナーとなって新たな観点となったのは、アルバイトの採用や管理をどうするかということ。アルバイト採用については、SNS等で働きたいという声を直接いただいたのですが、書類選考など、しっかり手順を踏んで応募・選考をしたかったので「Airワーク 採用管理」を活用しました。給与の支払いについても確実に行うために「Airワーク 給与支払」の利用も決めました。オーナーとしてやらなければいけないことは多いですが、Airのサービスを存分に使わせてもらうことで、料理人としてやりたいことに使う時間が確保できていると思います。
丁寧に情報発信し、ファンを増やしたい
オープン後、当初予約を入れてくださった方の多くは、ドイツやオーストリアに行った経験がある方でした。「ソーセージのないドイツ料理」というコンセプトは、知らない人には尖って見えるかもしれませんが、現地に行ったことのある方であれば違和感はないし、実際、もう一度本場の味を食べてみたいという方も多いのではと思います。つい先日も年輩のご夫婦が「このカボチャスープ、懐かしいね」と言いながら料理を楽しんでいました。他には日本在住のドイツやオーストリアの方がいらっしゃることも多いですね。そもそも日本にはドイツ料理のお店が少ない。ドイツ料理を志す若い料理人も少ない。その意味で、ドイツ料理で勝負をするということは挑戦ではありますが、未開拓だからこそオリジナリティがあって、飲食店としての可能性があるとも言えます。とはいえ自分は気負わずにやりたいタイプなので、あまりガツガツはせず、丁寧に情報を発信しながら、新しくドイツ料理ファンとなってくれる方を着実に増やしていきたいと思っています。
自分がよいと思うものを表現していく
日本の食材を使ったドイツ料理が楽しめることも当店の特徴のひとつです。旬の美味しい日本の魚や野菜をドイツ料理の手法で調理することで、新しい体験も提案できるし、今後インバウンドのお客様が増えることも考えると、ユニークな価値になると思っています。いまドイツでは若い人を中心にビーガンが増えていて、豆腐が人気です。当店でも長野県にある老舗豆腐店「田浦屋」の豆腐やおからを、料理やパンに使っています。実はこの豆腐店は、ドイツ機器のエンジニアだった父が、最近縁があって経営を引き継いだ場所です。父とは会話がそれほど多くなく、ドイツ料理人の道を選んだことについても、何かを言われたことはなかったのですが、こうした不思議な縁ができて最近は話をするようになりました。
店名の「Blauer Engel」は英語ではBlue Angel(青い天使)です。ドイツ語の響きがキレイだし、“青”には“青ざめる”が転じて“酔っ払った”という裏の意味もあり、含みがあります。型にはまらずドイツ料理を選ぶような、少しマニアックなことが好きな自分にも合っている店名で気に入っています。「自分のつくった料理で喜んで欲しい」それが料理人としての原点です。このお店で「自分がよいと思うもの」を存分に表現していきたいと思っています。
- Blauer Engel(ブラウアー エンゲル)
- 東京都千代田区三番町18-19
- 03-6826-9856
この記事を書いた人
羽生 貴志(はにゅう たかし) | ライター
ライター。株式会社コトノバ代表。「コトのバを言葉にする」をコンセプトに掲げ、いま現場で起きていることを、見て、感じることを大切に、インタビュー記事や理念の言語化など、言葉を紡ぐことを仕事にしています。
https://www.kotonoba.co.jp前康輔(まえ こうすけ) | 写真家
写真家。高校時代から写真を撮り始め、主に雑誌、広告でポートレイトや旅の撮影などを手がける。 2021年には写真集「New過去」を発表。
前康輔 公式 HP http://kosukemae.net/