STORYストーリー
原点は奈良への貢献。無二の柿の加工品に挑み、果実としての魅力を広めたい。
- 柿の専門
- 石井和弘
- (いしいかずひろ)
「柿の専門」はその名の通り、柿の加工品に特化した柿の専門店だ。丁寧に仕立てた干し柿から、和菓子の「柿もなか」「柿ようかん」、洋菓子の「柿けーき」「柿プリン」、日常食の「柿ジャム」「柿酢」、また柿の葉から抽出したお茶等々、40種類以上のラインナップすべてが柿の加工品で構成されている。「石井物産はもともと梅や茗荷の漬物で商売をしていました。柿の加工品へのチャレンジを始めたのは親父です」と語るのは3代目の石井和弘さん。傷ついて捨てられる柿があることを知った父親が、農家の困りごとを解決したい、食材を無駄にしたくないという想いから、柿の加工に取り組んでいく姿を見てきたそうだ。石井さんは大学卒業後、洋菓子チェーン勤務を経て1995年(当時26歳)に石井物産に入社。開発・製造・品質管理の土台を築きながら、全国の百貨店で催される奈良フェア等への出展を通じて、柿の魅力を広める役割を担ってきた。2016年にはブランド名を「柿の専門」に変更し、自社製造した柿の商品のみを販売していく方針を定め、2018年には社長に就任した。石井さんが柿にこだわる理由、「柿の専門」が目指していることを聞かせていただいた。
ものづくりが好きな父親の影響
生まれは奈良の橿原市です。子どものころはスポーツや体を動かす遊びが好きでした。あとはものづくりですね。当時、親父が総合電機メーカーの設計エンジニアをしていて、家でもよく工具を手に、壊れた家電の修理や、日曜大工をしてました。必要なものがあれば、何でも自分でつくってしまう。僕も横から手を出したくなるのですが、こだわりのある親父は直接は触らせてくれません。代わりに、身近にいた大工さんに頼んで、何か作業を手伝わせてもらっては「ぼん、うまいな!」と褒められて、「せやろ」と調子に乗ってました。
小学生の頃は柿が大嫌いでした。「皮に栄養があるんや」と、剥かずに食べさせようとする先生がいたんです。その皮がまずくてね。もどしてしまって、それがしばらくトラウマになってました。今でこそ柿が大好きで、年中柿のことばかり考えている僕ですが、出会い方が悪いとダメなことを知っている。だからこそ、「柿の専門」は品質を重視して、美味しい柿を提供することにこだわっています。家業の石井物産が柿を扱うようになったのは、僕が高校生の頃のこと。奈良の西吉野村で、農協の組合長と村長をしていた祖父が、地域の農家さんが規格外で売れない柿があり困っていると、親父に話をしたことがはじまりです。
柿の加工で地域の困りごとを解決
放っておけば廃棄されてしまう柿は、少し傷があるだけで味は変わりません。でもブランド柿の値崩れを避けるためには廃棄をするしかない。もったいないし、農家のためにもならない。地域の困っていることを解決したい。そんな思いから、2代目として家業を継いでいた親父が、柿の加工への挑戦をはじめました。家に柿の入った大きな樽を置いて柿酢をつくったり、何かに応用できないかと熱心に試している親父の様子を、横で眺めていました。
当時高校生だった僕は、頭の片隅にぼんやりと家業を継ぐ未来がありました。でもまだ遊びたい盛りで、先のことは考えたくない。その頃、興味があった地球環境に関わることがしたくて、大学は農学部を選びました。すると、そこに柿の研究で有名な先生がいたんです。運命ですよね。だったらもう柿をやろうかなと。そこで脱渋(渋みを感じなくさせる技術)など、科学的な側面から柿の研究をバリバリやってました。
会社を継ぐまでに身につけたこと
柿の商品開発をしていくときに役に立つ経験が積めると思い、大学卒業後は大手の洋菓子チェーンに就職しました。でも希望していた開発部門ではなく、製造部門に配属されてしまいました。正直がっかりしたのですが、厳しい品質基準が求められる会社で、製造ラインの管理や設計、原価計算といった、今でも直接活かされている実践的な知識を身につけることができ、本当によい経験となりました。
1995年、26歳で石井物産に入社をしました。もともとの漬物販売から、柿の加工へと次第に事業を移行させていたのですが、当時はまだ漬物や、梅ジャムといった商品も販売していました。僕の役割は、柿の加工品の販路拡大、品質向上、会社の基盤固めだと考えて、前職での経験も活かしながら改善に取り組みました。親父とはよく喧嘩しましたね。親父はものづくりが好きだから、次々と技術を習得しては、新しい商品を開発してくる。でも売ることはあまり得意ではない。「こんなのどこで売るの?」「なんぼで売れるの?」と意見すると、「おまえと話すのはおもろないわ!」と言い返されたりしていました。
技術の蓄積が商品開発に活かされる
でも振り返ると、親父が商売を抜きにして、さまざまなものづくりに挑戦してきたことには意味があったんです。柿を加工するには、品種や熟度の違い、生はもちろん、いろんな乾燥状態を扱えることが重要です。技術の蓄積があれば、それを組み合わせて面白いように新しい商品が開発できる。それは一朝一夕では真似することのできない、うちの大きな強みです。柿に応用できるものはないかなと常にアンテナを張っているのですが、何か思いついたときに、すぐに試せる機械が、現場に揃っているのは親父のおかげですね。
2016年にブランド名を「柿の専門」に変更しました。柿の加工品のみを販売していくことを決め、柿という果物の魅力を、奈良から日本全国へと発信していく存在になるべく「柿をステキな果物に」「柿を科学する」というブランドメッセージを掲げました。僕自身は2018年に社長に就任。やっていることは変わらないのですが、親父がなかなか認めてくれなくてね(笑)。肩書きにはこだわってなかったのですが、社長となったことでブランドの想いを外へと発信していく自覚を強く持つようになりました。
背景にある物語に命を吹き込む
それぞれの商品に開発のストーリーがあります。中でも思い入れがあるのは、看板商品の「郷愁の柿」。西吉野原産の「法連坊柿」から作る「つるし柿」を使った商品です。「つるし柿」というのは、地域で何百年も作られてきた小さな干し柿なのですが、高齢化が進み、また干し場の維持も必要なことから、安定した供給先がなければ長年の伝統文化が失われてしまう危機がありました。地域の食文化を後世に残したいという想いで、3年以上の月日をかけて開発した商品です。
完成した「郷愁の柿」を多くの人に広めようと、観光庁主催「世界にも通用する究極のお土産」に出品しました。商品が生まれた背景を必死で審査員にプレゼンし、受賞ができたことは大きな励みになったのと同時に、知名度があがり、全国のお客様から注文をいただくきっかけにもつながりました。ただ商品を売るのではなく、物語を伝えることがいかに大切か。私も含めてスタッフが商品の一番のファンであり、お客様と話すときにも物語に命を吹き込むことを大事にしています。
原材料は美味しい柿にこだわる
店舗のディスプレイは主役である商品が引き立つよう、白をベースに日本の伝統色である柿色が映えるようにしました。昔から柿に馴染みのある高齢のお客様がやや多いですが、若い人も洋菓子の新商品を出すと反応してくれます。こだわりは柿がメインの原材料だからこそ、美味しい柿を使うこと。もともと地域の農家さんの下支えとなることからはじまった事業で、二人三脚で美味しい柿を栽培してきました。有機JAS認証を受けた自社農園も経営しており、最近は、若い人が意欲的に美味しい柿づくりに挑んでくれていることが嬉しいですね。
店舗では『Airレジ』と『Airペイ』を利用しています。もともとは複数の決済端末を置いていたのですが、『Airペイ』に一本化したことで、データ連携がスムーズになり売上管理がしやすくなりました。『Airレジ』は3店舗の売上がどんな場所にいても把握できることが便利だし、商品ごとや季節ごとの売上集計を、商品の生産計画に有効に役立てています。
柿を通じて奈良に貢献するチャレンジを続けたい
自分にとって柿とは? そうですね、あまり考えたことなかったけれど、柿って奥が深いんですよ。僕自身、大学時代に柿の研究をしましたが、一生をかけて柿渋の研究に打ち込んでいる先生もいます。実、へた、葉っぱ、それぞれに使い途があるし、木もゴルフのクラブヘッドに使われる。捨てるところがない果物の木は柿だけと言われてます。干し柿づくりも本当に奥が深くて、完熟させつつ、乾燥させていく。その過程で渋が抜けていくのですが、ちょうどいいバランスを見極めるのが難しい。手間がかかるから大手も参画してこない。だからこそ僕らが、奈良の特産品である柿の生産が持続できるよう、もっとステキな果物にしていかないとね。
「石井さんところの柿は、何食べても美味しいな」と言ってもらえることが最高の褒め言葉です。多くの商品を開発していくなかでファンが少しずつ増えてきました。いま働いてくれているパティシエもその一人。「柿の専門」が好きで、入社をしてくれたスタッフが他にもいます。熱心だし、好きを原動力に成長してくれる人材が出てきた。「ものづくり」から「人づくり」へ、社長としても注力することをシフトしつつあります。でも、いずれにしてもチャレンジを続けたい。地域が困っていることを解決するということが原点だし、もっと奈良に貢献する会社になっていくために、まだまだやれることがあると思っています。
- 柿の専門(石井物産株式会社)
- 奈良県五條市西吉野町八ツ川458
- 0747-34-0518
この記事を書いた人
羽生 貴志(はにゅう たかし) | ライター
ライター。株式会社コトノバ代表。「コトのバを言葉にする」をコンセプトに掲げ、いま現場で起きていることを、見て、感じることを大切に、インタビュー記事や理念の言語化など、言葉を紡ぐことを仕事にしています。
https://www.kotonoba.co.jp
前康輔(まえ こうすけ) | 写真家
写真家。高校時代から写真を撮り始め、主に雑誌、広告でポートレイトや旅の撮影などを手がける。 2021年には写真集「New過去」を発表。
前康輔 公式 HP http://kosukemae.net/