リスティング広告はインハウスで運用したほうがよい?よくある失敗ポイントについて詳しく解説
多くのユーザーが情報収集にインターネット検索を活用している現在、「検索結果画面」は極めて重要なメディアだといえます。そのため、SEOに多くの企業が力を入れており、上位表示する難易度が日に日に高まっています。
また、検索結果画面に広告を表示できるリスティング広告をはじめる企業も増えています。リスティング広告の運用は、多くの場合、代理店に一任されていますが、将来的にはインハウス化(内製化)を目指している企業も存在しています。
今回は、「リスティング広告のインハウス化」について、メリットやデメリット、インハウス化が成功、または失敗するポイントなどを解説していきます。
リスティング広告をインハウス化するメリット
リスティング広告の運用には、一定以上の工数がかかるうえに、ある程度の専門知識も求められます。競合他社の出稿状況、入札状況を考慮して、自社の出稿条件を調整する必要があるほか、効果測定を行なって方針を検討していくことも求められます。そのため、多くの企業はリスティング広告の運用を外注していることが多いとされています。
しかし、この数年、リスティング広告の運用をインハウス化したいという声も聞かれます。その理由にはどのようなものがあるのでしょうか。まず、インハウス運用と外注の違いを見てみましょう。
インハウス運用 | 外注 | |
---|---|---|
コスト | 運用費はかからない | 運用費がかかる |
人材 | 広告に詳しい人材や組織が必要 | 広告に詳しい人材は必須ではない |
工数 | 社内で多くの工数がかかる | ほとんど社内工数はかからない |
運用品質 | 人材による | 一定の品質が担保される |
業界知識 | 詳しい | 知識がないケースもある |
ノウハウの 蓄積 |
可能 | 困難 |
対応スピード | 速い | 遅い場合もある |
外注している企業は、このなかでも「コスト」「対応スピード」での課題を感じるケースが多く、そのような代理店への不満からインハウス化を考えることがあるようです。
以下では、まずインハウス化のメリットについて、解説していきます。
運用手数料がかからない
インハウス化を目指す理由として、まず挙げられるのが「コストメリット」です。一般的に、代理店にリスティング広告の運用を依頼した場合、広告費に対して15~25%程度の運用費用(代理店手数料)が発生します。
たとえば、月間の広告費が100万円だった場合、運用費が20%だと20万円になり、総費用は120万円になります。その費用をすべて広告費に回せたらと考えるのも無理はありません。
業界知識を持った人材が運用できる
リスティング広告を運用する際には、「検索キーワード」の設定が必須です。これには、業界知識が不可欠です。自社サービス、製品を求める人はどのような人、企業なのか、どのような課題を持っているのか、実際にどのような単語で検索するのか。そういった仮説を立てるには、一定以上の業界知識は欠かせません。
しかし、代理店の担当者は業界の専門家ではないため、専門家のレベルに達するのは容易ではありません。結果として、代理店が提案するプランに対して、社内で修正を加える必要が生じることがしばしばあります。社内の担当者のリソースが想定以上に割かれてしまうというケースも珍しくないようです。
インハウス化すれば、もともと業界知識を持った担当者が運用できることになり、上記の課題は発生しないということになります。
社内にノウハウが蓄積される
インターネット広告のノウハウを持った代理店にリスティング広告の運用を委任すれば、社内に知識がなくても、運用は可能です。ただし、言い換えれば、社内には何のノウハウも残らないということを意味します。代理店にいわれるままになってしまい、自社の広告はいまどういう状況なのか、正しく把握できなくなってしまう可能性もあります。
一方、インハウス運用では、最初は効果的な広告出稿は難しいですし、ミスの発生は避けられないかもしれません。しかし、根気よく運用を続けていくことで、社内にノウハウが蓄積されていき、次第にミスは減り、効率のよい運用が可能になっていくはずです。
運用改善のスピード感が速い
リスティング広告の運用を外注している場合、多くのケースでは週一回、あるいは隔週、毎月といったペースで定例会議を行います。代理店が作成したレポートで、それまでの結果を共有してもらい、今後の改善施策を提案してもらったのち、検討、実行していくといった流れが一般的です。となると、代理店が課題を発見してから改善施策を実施するまで、最低でも1~2週間はかかってしまうことになります。
しかし、インハウス化して担当者が毎日数値をチェックすれば、リアルタイムで広告の効果を把握することが可能です。改善施策も社内の会議で共有、承認されればいいので、スピーディに取り組むことができるでしょう。このスピード感を求めて、インハウス化を目指す企業も多いです。
リスティング広告をインハウス化するデメリット
一方で、リスティング広告の運用をインハウス化するにはデメリットも存在します。そもそもインハウス化するデメリットがあるからこそ、多くの企業は運用を外注しています。では、そのデメリットを見ていきましょう。
社内に専門知識を持つ人材を用意する必要がある
まず、大きなデメリットは、人材面の課題です。リスティング広告の運用には、 Yahoo! ディスプレイ広告 (以下、 YDA)や Googleディスプレイネットワーク (以下、 GDN)を一定以上に使いこなすノウハウが求められます。加えて、効果測定に関する知識や問題が発生したときの知識などがなければ、効果的な運用は難しいでしょう。
こういった人材が社内にいるケースは稀です。人材を育成するのも大変ですし、新たに採用するのも時間とコストがかかります。特に最近では、インターネット広告運用が可能な人材の需要は高まっており、採用は難しくなっているという側面もあります。せっかく採用した、または教育した人材が転職してしまうというリスクも無視できません。
運用ノウハウの蓄積に時間がかかる
代理店が持っているノウハウ、知識は大きなアドバンテージです。何社もの広告運用を担い、多業種、多業界の経験を持つ代理店が持っているノウハウは、容易に得られるものではありません。
自社だけで運用していく場合、運用経験から得られるノウハウや知識には限界があります。それを埋めるための勉強会や情報収集に一定以上のリソースを割く必要もあるでしょう。代理店が請求する運用費には、こういったノウハウの費用も含まれているといえます。
社内リソースが必要になる
前述の、「社内に専門知識を持った人材を用意する必要がある」でも触れましたが、社内でリスティング広告を運用する場合、一定以上の「社内リソース」が必要です。大きな組織であっても、リスティング広告の運用だけを担当できる社員の確保は難しいでしょう。他のマーケティング業務との兼務が一般的ですが、リスティング広告の運用は思った以上にリソースを必要とするものです。
最近では「一人マーケ」という言葉も出てきているように、中堅以下の規模の企業では、実質的にマーケティング担当者が1名、ないし2名程度という企業も多いです。そんな環境でリスティング広告の運用をインハウス化すると、マーケティング担当者が業務過多に陥りかねません。その結果、リスティング広告の運用がまともにできないという状況も考えられます。
情報収集に時間がかかる
リスティング広告を運用する場合、YDAやGDNでの運用がほとんどです。これらの媒体では、定期的に仕様変更や機能追加などが発生します。実際の運用にあまり影響がない軽微なものから、即対処しなければならない変更まで内容はさまざまです。
それらの情報をいち早く入手し、適切に対応をしていく必要があります。代理店では、そもそもそういった情報収集や対応策の検討は日常的に行なっています。それを社内で行なっていくのは難しいといえるでしょう。
インハウス化に失敗する、よくあるポイント
リスティング広告のインハウス化を導入する企業は増えていますが、なかには失敗してしまったというケースもあります。よく話を聞いていくと、失敗した企業にはある共通したポイントがあるようです。そのポイントについて3つほど、解説していきます。
コスト意識だけに目がいきがち
まず、大きなポイントは「コスト」の問題です。運用費が高いから削減したい、という理由だけでインハウス化を実行する企業では、うまくいかないケースが多いようです。その理由として「運用費を削った結果、広告運用に必要な知識やノウハウ、情報が入ってこなくなった」「社内に必要な人材が揃わなかった」などが挙げられます。
簡単にいえば、リスティング広告の運用費が何に対する対価なのか把握できていなかったということです。ノウハウや知識の提供、人的リソースの提供がそれに当たるのですが、なかなか目に見えにくいものではあります。代理店への外注を止め、それを社内で賄おうとした場合に、どれだけのコスト負担や人的負担がかかるのかを深く考えなかったケースでは、失敗に至るようです。
広告運用が属人化されてしまう
仮に、リスティング広告の運用の知識やノウハウを持つ人材が社内にいたとしましょう。すると、先述の「コスト意識だけに目がいきがち」にある課題は解決できます。
しかし、そこにも落とし穴は存在します。もしその人が突然辞めてしまったらどうなるでしょうか。転職だけではなく、介護離職、育休、体調不良など、さまざまな要因で、いままでと同じ働き方ができなくなるケースがあります。リスティング広告をはじめインターネット広告の専門家、特に運用経験がある専門人材は、業界全体で不足傾向にあります。優秀な人材であれば、他社から引き抜かれてしまう可能性もあるでしょう。
優秀な人材であればあるほど、多くの業務を任せてしまいがちです。いなくなった結果、「他の人にはわからない」「他の人にはできない」状態に陥ります。これが属人化です。あとに残された人材では業務が回せなくなったという話は決して珍しいことではありません。
担当者の能力、知見に左右される
属人化に関連する問題ですが、中堅規模の企業では、専門的なマーケティング知識を持つ人材は限られます。それが一人だった場合、実際の広告運用、効果測定、分析など、ほとんどの業務がその人に集中します。
いくら優秀な方でも情報収集には時間がかかるため、競合よりも業界の最新情報を取得するのが遅くなることもあるでしょう。また、一人の視点では見逃しや判断の偏りが発生する可能性も否定できません。
組織においては人材の固定は、硬直化を招きます。複数の担当者が、同等の業務を担当できる状態にすることが望ましいです。
インハウス化を目指すべき企業とは
ここまで「インハウス化」のメリット、デメリットと同時に、インハウス化の難しさも解説してきました。コストが許すならば、代理店に運用を外注することにもメリットはたくさんあります。しかし、その難しさをおいても「インハウス化」を目指したほうがよいケースもあります。以下では、インハウス化を目指すべき企業とはどのような企業かを解説していきます。
スタートアップ企業や小規模企業はまず運用してみる
スタートアップ企業や数人から数十人程度の企業ならば、まずはインハウスでリスティング広告の運用にチャレンジするほうが現実的です。その理由として、小規模な企業ではそもそも広告費の総額が小さいため、運用費の負担が大きいこと、代理店から広告費が少ないことから運用を断られるケースがあることが挙げられます。
この場合は、インハウス化のデメリットである「属人化」「情報不足」を避けるために、担当者を複数配置して負担を軽減する、担当者に任せきりにしないといった対策をとる必要があります。
社内運用するなかで、どうしても手が回らない、うまくいかないという場合に、「何が問題でうまくいかないのか」を明確にし、そのうえで代理店に相談していけば、効率的な課題解決が可能になるでしょう。
長期的な視点で取組むことができる
リスティング広告の成果は、一朝一夕で出るものではありません。まして、社内で経験が浅い、専門知識についても専門家には及ばない人材で運用する場合、彼らの成長を待つ意味でも、一定の時間を考慮する必要があります。
広告の成果はもちろん、社内にインターネット広告の専門家を育成するという目標を持って、中長期的な視点での取組みだと認識する必要があります。
属人化を避ける社内の仕組みがある
いままで説明してきたとおり、インハウス化を実現する第一関門といえるのが、「専門人材の確保と育成」です。しかし、たとえ優秀な人材でも、たった一人では属人化リスクから逃れることはできません。その人が急に病欠しても問題がない、そんな組織づくりが不可欠です。
対策としては、業界知識に長けたベテランと新たに採用したインターネット広告に詳しい人材を組み合わせる、数名のチームで学んでいける環境づくりなどが考えられます。
また、それまでマーケティング担当者がいなかった場合、評価基準が社内で整備されていない可能性もあります。短期的に成果が出にくい仕事でもあるため、それに見合った社内での評価制度を整備する必要もあるでしょう。
インハウス化成功のポイントとは
前項でスタートアップ企業、小規模企業はインハウス化したほうがよいと解説しましたが、中堅以上の規模の企業でもインハウス化が望ましいケースがあります。それは「マーケティング部門が組織化されている」、つまり属人化される懸念が少ない場合。かつ一定以上の広告予算が予算化されているケースです。
そういった会社の状況を踏まえてリスティング広告のインハウス化を進めたい場合、おすすめの取組み方があります。
代理店の伴走支援やインハウス支援サービスを活用する
ポイントは、「いきなり全部社内でやろうとしない」ことです。まず、代理店に外注し、ただ任せるだけでなく、手間をかけても社内の担当者が代理店と密にコミュニケーションをとり、ノウハウを学んでいくようにするのです。それも、できれば2~3人の担当者が学んでいくようにします。そこで、一定のノウハウを学んだところで、インハウス化に移行するのです。
代理店側も、インハウス化を支援するメニューを用意しているところもあります。また、完全にインハウス化せず、より専門性が高い部分について依頼できる体制をつくる、また最新情報の共有を前提としたアドバイスを求める契約をするという方法もあります。このようなサポートサービスを利用することで、専門知識やノウハウの習得への不安は少なくなるでしょう。
インハウス化は、全てを自社で行うことだけを意味するわけではありません。必要に応じて、専門家の知識を借りるというスタンスが、インハウス化を成功に導く鍵になります。「半内製化」という言葉もあります。自分たちでできること、やることを明確にし、できないこと、外注したほうが効率的なことを見極めることが重要です。