給与計算のためにタイムカードを効率的に集計するには?法律で守るべき注意点も解説


スタッフを雇うと、毎月の労働時間の実績に応じて給与を計算する必要があります。給与計算を正確に行うには、勤怠管理で用いているタイムカードの集計業務が必須です。この記事では、給与計算のためのタイムカード集計について、法律観点で押さえておきたいことや実際の手順、効率的に集計する方法などをご紹介します。
この記事では主に時間の管理に言及しています。実際の勤怠管理では休日の管理なども発生するため、法令をご確認の上ご対応ください。
給与計算のためにタイムカードを集計する方法
タイムカードの集計は、電卓などを用いた手集計で対応することも不可能ではありません。しかし、その場合はどうしても時間がかかってしまい、ミスも起こりやすくなります。
ここでは、店舗オーナーや店長が、なるべく時間をかけずミス無くタイムカードを集計するために、有効な方法を2つ紹介します。
表計算ソフトに勤怠情報を入力して集計する

タイムカード集計も表計算ソフトを活用すれば新たなコストが発生せず、新たに覚えることも少なく済みます。また、表計算ソフトであれば、あらかじめ関数を組み込んだ集計表をつくっておくことで、所定の枠に勤怠情報を入力するだけで、自動で集計できます。
ただし、表計算ソフトは集計の手間を効率化することができるものの、タイムカードから情報を転記する作業が発生します。また、法改正があった際には、テンプレートの変更や計算式の修正などを適切に行わないと、誤った給与額を支給することになりかねません。すべてを店舗オーナーや店長が独力で行うには、それなりの専門知識を学ぶ必要がある方法です。
勤怠管理システムに蓄積されたデータを使用する

勤怠管理システムを用いると、スタッフがタイムカードなどで打刻した情報がシステム上に自動で反映・蓄積されていくため、給与計算のための集計の手間を大幅に効率化できます。
具体的には、当該月の勤怠情報の反映がすべて完了したタイミングで、勤怠管理システムのデータをダウンロードし、給与計算に活用することが可能です。手入力に比べてスピードも正確性も格段に向上するでしょう。
勤怠管理システムは、システム利用料として月々のコストがかかりますが、クラウドサービスの場合は1スタッフあたり月数百円程度で始められるものもあります。料金はサービスによりさまざまですので、各サービスの内容を吟味した上で効率化のメリットが費用に見合うかを考えて導入を検討しましょう。
給与計算にあたってタイムカード集計で気を付けるべき注意点

1分単位で集計する(端数の切り捨てはNG)
労働基準法では、「労働の対価として賃金を全額支払う」ことを雇用主に求めています。そのため、端数の労働時間を切り捨てて「5分単位」や「15分単位」で勤怠をつけることは、法令に違反した行為とみなされます。
実態に即した勤怠管理を行うことはもちろん、給与計算の上でも端数は切り捨てず1分単位で足し上げましょう。
ただし、1カ月における時間外、休日、深夜のそれぞれの時間数の合計について1時間未満の端数がある場合に、30分未満の端数を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げる処理だけは例外的に認められます。
割増賃金の発生ロジック
割増賃金には、「時間外(残業手当)」「休日(休日出勤手当)」「深夜(深夜手当)」の3種類があります。
そのうち、時間外手当については、日・週・月でそれぞれ設定されている法定労働時間を超えた場合に発生するため、複数の条件がある点に注意しましょう。
時間外
・1日8時間または週40時間を超過した分……25%以上割増
・法定時間外労働が月60時間を超過した分……50%以上割増(※)
(※)従来は大企業のみに適用されていましたが、2023年4月1日から中小企業も同条件となり割増賃金率が引き上げられています。
休日
・法定休日に勤務した場合……35%以上割増
店舗ではスタッフの休日が固定でない場合が多いですが、雇用主は週1日以上の休暇を与える必要があるため、連勤の日数とタイミングに注意が必要です。
例えば日曜から土曜までの1週間で7連勤になった場合は、本来休日になるべき1日に出勤をさせたことになり、休日出勤の割増賃金が発生します。
深夜
・深夜(22時~翌5時)に勤務した場合……25%以上割増
所定労働時間は超過しているが、法定労働時間内の場合
所定労働時間とは、雇用主とスタッフ間の雇用契約(就業規則)で定められた労働時間のこと。法定労働時間とは、労働基準法で定められた労働時間の上限(1日8時間/週40時間)です。
例えば、1日の労働時間を7.5時間と定めている会社で、8.5時間働いた場合。8時間を超えた30分は法定労働時間の上限を超えているため、1.25倍の割増賃金が発生します。しかし、7.5時間から8時間までの30分は法定労働時間の上限以内であるため割増賃金は必須ではなく、「超過時間×時給×1.0倍」でも問題ありません。
ただし、「計算が複雑になる」「スタッフに誤解が生じやすい」といった理由から、所定労働時間を超えた残業代は一律1.25倍と就業規則で定めている事業者も少なくありません。もちろん厳密に法定労働時間以内/以上でわけて給与計算を行っている場合もあります。各々の企業が事業運営におけるさまざまな事情を考慮して、合理性の高い方を選択しているのが実態です。
管理監督者でも割増賃金が発生するケースがある
管理監督者とは、経営者と同等の地位や権限があるスタッフのことで、労働基準法で定められた労働時間や休憩・休日の制限を受けることはありません(時間外および休日の割増賃金は発生しない)。
ただし、管理監督者でも22時~翌5時に働いた場合の割増賃金は発生するため、給与計算のためにタイムカードを確認・集計する必要があります。
表計算ソフトでタイムカードを集計する手順


【Step1】勤怠情報を表計算ソフトに取り込む
紙の出勤簿やタイムカードなどに勤怠をつけている場合は、まずその情報を表計算ソフトに転記します。
転記時に起こる打ち間違いのミス軽減を目的として、打刻情報をデータとして蓄積し、パソコンに取り込めるタイプのタイムレコーダーを導入しているお店も多いです。この場合は、サーバなどに蓄積されているデータを取り出せば、表計算ソフトに一括で取り込むことができます。
【Step2】記入漏れや明らかな間違いがないかを確認する
表計算ソフトに勤怠情報を取り込んだら、始業時刻や終業時刻に漏れがないか、エラーが起きている箇所がないかをチェックしましょう。こうした現象の原因としては、スタッフの打刻忘れや打刻ミスの場合が多いです。該当するスタッフに実態を確認し、出退勤時刻を入力・修正しましょう。
【Step3】労働時間を集計する
勤怠情報が表計算ソフト上で整理できたら、ここからは下記のような手順で給与の支給額に関わる各時間を算出していきます。
なお、あらかじめ計算式が組み込まれたテンプレートを使用する場合は、勤怠情報をシートに入力するだけで集計作業は不要となります。
1:月の総労働時間を集計する
1日の労働時間は、終業時刻-始業時刻-休憩時間で割り出せます。
出勤日数分の1日の労働時間を足し合わせることで、総労働時間が集計できます。
2:1日の超過勤務時間を集計する
出勤日ごとに労働時間が8時間を超えている分を割り出し、合計時間を集計します。
3:深夜労働時間を集計する
出勤日ごとに22時~翌5時の間に働いた時間を割り出し、合計時間を集計します。
深夜労働が発生しているときは、休憩を取った時間帯に注意してください。22時~翌5時の間に休憩を取っていれば、その分は除外しましょう。
4:休日の労働時間を集計する
休日出勤に該当する日があれば、その合計時間を集計します。
5:週の超過勤務時間を集計する
1日ごとの法定時間外労働と休日出勤の労働時間を除いた、1週間の総労働時間を集計します。その値が40時間を超えている分は、週あたりの法定外労働時間としてカウントします。
6:法定時間外労働が月60時間を超過している分を集計する
月の総労働時間から法定労働時間を引いた値が60時間以上になった場合、超過時間を集計します。
【Step4】給与計算の担当者に集計データを共有する
タイムカードの集計が終わったら、給与計算の担当者が別にいる場合(本社の労務担当や、社外の社会保険労務士に委託している場合など)は、表計算ソフトのファイルを給与計算の担当者に共有しましょう。
勤怠管理システムでできること

勤怠管理システムでタイムカードの集計を行う場合、表計算ソフトで必要だった業務手順のほとんどが下記のように自動化・省力化されます。
勤怠情報が随時自動でシステムに蓄積される
勤怠管理システムは、タイムカード打刻の機能が搭載されている場合が多く、スタッフの勤怠情報がそのままシステムに反映されるため、手入力で取り込む必要がありません。
エラーを検知してくれる
勤怠管理システムを導入する場合でも、タイムカードの打刻を人の手で行っている限りは打刻忘れやミスは発生するため、チェック作業を完全になくすことはできません。
しかし、必要な項目に不足がある場合などおかしな点があればシステムがエラーを検知してくれるため、目視でチェックするよりも手間の削減と、精度の向上が期待できます。
労働時間を自動集計してくれる
勤怠管理システムでは、時間外労働の算出など複数の条件が絡む労働時間の自動集計が可能です。所定労働時間など、就業規則や雇用契約の内容によって変動する自店舗特有の条件を、あらかじめ設定できるシステムもあります。
また、勤怠管理システムはクラウド型サービスが主流であるため、サービス提供会社が随時機能をアップデートしてくれるのもメリットのひとつ。法改正への対応漏れを防ぐことができます。
給与計算システムとの連携が可能な場合もある
勤怠管理と給与計算はどちらもクラウド型のサービスが普及しており、クラウド上のデータをボタン1つで連携できるものも登場しています。
例えば店長から店舗オーナーや本社の労務担当などに都度メールで勤怠情報を共有する必要がなく、すみやかに勤怠情報を引き渡すことが可能です。
労働時間の実績は、シフトやオペレーションに活かすこともできる
タイムカードに記録されている勤怠情報には、店舗運営を改善するヒントが詰まっています。
例えば、残業が多かった日・時間帯があれば、売上データと突き合わせてみましょう。売上が予想よりも多かったのであれば、同様の傾向がある日は人員を増やすことも検討した方が良いでしょう。
また、業務手順やオペレーションにおいて、実は見えないところで問題が生じて業務に時間がかかっている可能性もありますので、勤怠情報をもとにスタッフと対話してみましょう。
監修者ひとことコメント
給与計算のためのタイムカード集計には複数の方法がありますが、どれが正解と一概に言えるものではありません。ただし、この業務はスタッフに支払う給与額にダイレクトに影響してくるものです。なるべく間違いが起こりにくい仕組み・方法で運用することをおすすめします。
また、正確な集計を実現するには、スタッフに正しく打刻してもらうことも欠かせません。出退勤時に忘れずに打刻できるよう仕組みを整備することも必要ですし、「制服に着替える時間は勤務時間に含む」など打刻タイミングの統一ルールをつくって周知徹底しておくことも、タイムカードの正しい運用には大切です。
監修者プロフィール
渋田 貴正(しぶた たかまさ)
税理士/社会保険労務士/司法書士
社会保険労務士法人V-Spirits 社員社会保険労務士大学卒業後、大手食品メーカーや外資系専門商社に在職中に税理士、司法書士、社会保険労務士の資格を取得。2012年独立し、司法書士事務所開設。
https://v-spirits-startup.com
その後、税理士法人V-Spirits、社会保険労務士法人V-Spiritsの立ち上げに参画し、現在は経営者支援の最前線で業務にあたる。
本ページに記載されている情報は2023年11月時点のものです。