事業主が忘れがちな扶養控除等申告書について 内容・注意点を徹底解説
年末調整を行うときに必要な書類のひとつに、扶養控除等申告書があります。給与所得者の所得税計算の基礎となる情報が集約されているものですが、ここでは扶養控除等申告書について、書き方や注意点など詳しく解説していきます。
この記事の目次
扶養控除等申告書とは?
個人や法人に関わらず事業を営み、社員やアルバイト、パートなどを雇用し給与を支払った場合には年に一度、年末調整をしなければなりませんが、年末調整をするに際して必要な書類の一つに扶養控除等申告書というものがあります。
この扶養控除等申告書の正式名称は「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」といいます。
扶養控除等申告書はなぜ必要なのか
扶養控除等申告書には、給与を受け取った方(給与所得者と表記します)が家族を扶養している場合に、その家族の氏名や生年月日などを記載してもらいます。もし扶養控除等申告書を受け取っていない場合には、様々なデメリットが生じてしまいます。
扶養控除等申告書がない場合のデメリット
年末調整に際して扶養控除等が正確に計算されないことにより、本来よりも多い税額を負担させてしまう可能性があります。扶養控除というと38万円のイメージが先行してしまいがちですが、その扶養の内容によって扶養控除等の金額が異なります。もし誤って計算してしまった場合には、再度年末調整して提出する方法と確定申告により正確な情報を提出する方法がありますが、いずれにしろ手間がかかってしまいます。
なお、事業主はそもそも扶養控除等申告書がないからと言って年末調整自体を行わない場合には、雇用者には所得税法(190条)の定めにより罰則が科されることがありますのでご注意ください。
扶養親族と控除対象扶養親族の違いと関係
扶養親族とは、その年の12月31日現在、以下4つの要件の“すべて”に当てはまる人のことをいいます。そして、扶養親族の中から所得税法上の控除対象扶養親族に該当する方を判定していくことになります。
- 配偶者以外の親族(6親等内の血族および3親等内の姻族をいいます)、または都道府県知事から養育を委託された児童(里子等)や、市町村長から養護を委託された老人であること
- 納税者と生計を一(扶養しているかどうか)にしていること
- 年間の合計所得金額が38万円以下(令和2年分以降は48万円以下)であること(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)
- 青色申告者の事業専従者として、その年を通じて一度も給与の支払を受けていないこと、または白色申告者の事業専従者でないこと
(引用:国税庁「No.1180扶養控除」)
控除対象扶養親族の内容とその範囲
控除対象扶養親族は、扶養親族のうち「その年の12月31日現在の年齢が16歳以上の人」とされています。さらに扶養控除の対象となる方の中に大学生活などで特にお金がかかる人や高齢者がいる場合、障害をお持ちの方がいる場合には多くの所得控除を受けることが出来ます。また扶養親族の範囲からは外れていますが、配偶者と死別してしまっている場合には寡婦控除などもあります。
間違えの中で多いのは、「その年の12月31日現在の年齢が16歳“未満の人” 」を控除対象扶養親族の範囲に含め、月額の源泉徴収に際して少なめに徴収してしまって、年末調整時に年末調整不足として追加徴収するケースです。16歳未満の人は「年少扶養親族」としており所得税法上では控除の対象にはなりません。一方で住民税の計算に際しては16歳未満のお子さんも税額計算に関係してきますので、扶養控除等申告書には記載するようにしてください。
控除対象扶養親族内容による所得控除金額
給与所得者のお子さんに関する扶養控除等の内容は、主に以下の2つです
- 扶養親族のうち「その年の12月31日現在の年齢が16歳以上の人」は一般の控除対象扶養親族となり38万円の控除
- 扶養親族のうち「その年の12月31日現在の年齢が19歳以上23歳未満の人」は特定扶養親族に区分され63万円の控除
給与所得者のご両親に関する扶養控除等の内容は、主に以下の2つです。
- 扶養親族のうち「その年の12月31日現在の年齢が70歳以上の人」は老齢扶養親族に区分され48万円の控除
- 上記老齢扶養親族のうち、給与所得者もしくはその配偶者の直系尊属(父母・祖父母など)で、普段同居している場合には同居老親等に区分され58万円の控除
【控除対象扶養親族の控除額】
区 分 | 控除額 | |
一般の控除対象扶養親族 | 38万円 | |
特定扶養親族 | 63万円 | |
老人扶養親族 | 同居老親等以外の者 | 48万円 |
同居老親等 | 58万円 |
給与所得者、その配偶者又は扶養親族が所得税法上の障害者に当てはまる場合には、‘年齢に関係なく’特別に控除が受けられます。また、障害の度合いによって受けられる控除金額が異なり、27万円と40万円に区分され、特別な要件を充たし、かつ同居している方がいる場合には75万円の控除がうけられます。この控除については、扶養控除等に上乗せで計算されることになります。
また、給与所得者自身が一般の寡婦の場合には寡婦控除27万円が適用されます。以下の3つを充たす場合に特別の寡婦として35万円の控除を受けられます。
- 夫と死別し又は夫と離婚した後婚姻をしていない人や夫の生死が明らかでない一定の人
- 扶養親族である子がいる人
- 合計所得金額が500万円以下であること
一方で寡夫控除については、上記特別の寡婦の要件を充たした場合(夫を妻と置き換える)には27万円の控除が受けられます。寡夫控除については35万円の控除はありません。
これ以外に、給与所得者自身が勤労学生に該当する場合に勤労学生控除27万円を受けられます。この場合は130万円まで所得税がかからず給与収入を得ることが出来ます。
扶養控除等申告書の書き方
扶養控除等申告書の令和2年(2020年)様式は以下が用いられています。税制や様式が毎年少し変わる場合があるので、国税庁のホームページからダウンロードする事をおすすめします。なお扶養控除等申告書は今年と翌年の分の2枚を配り、所定の箇所に記載の上、受け取るようにしてください。
「令和2年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書 入力用」(国税庁)
「令和2年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の記載例」(国税庁)
様式上部が個人情報を記載し、順に配偶者の情報や控除対象扶養親族の情報、その他控除対象となる情報を記載するとともに、下部では年少扶養親族の情報を記載することになります。扶養控除等申告書を渡す場合には、給与の支払者の名称や支払者の個人番号など上部左側の情報を記載の上、配布するようにしてください。
事業主の記載が必要な箇所の書き方
事業主は、以下の部分を扶養控除等申告書の上部左側に記載する必要があります。
- 所轄税務署長等は毎年決算の報告をしている税務署の場所
- 給与の支払者の名称(氏名)は法人名若しくは個人事業主の場合事業主の氏名
- 給与の支払者の法人(個人)番号は、国税庁管理の法人番号若しくは事業主のマイナンバー
- 給与支払者の所在地(住所)は、法人の場合は登記住所、個人の場合は確定申告をしている納税地の住所
給与を受け取る方(従業員)の記載方法について
給与を受け取る方からの質問に備えて、簡単にその方法を記述します。
・個人情報(上部右側)
氏名、生年月日、住所、世帯主や配偶者の有無などを記載してもらいます。左上にある市長の欄には給与所得者が住む市名を記載します。捺印箇所については、シャチハタや認印で問題ありません。なお、マイナンバーの記載については現状では絶対に必要とはされておりませんが、なるべく貰えるようにしておいた方が後の国勢を踏まえ良いと考えられます。
・源泉控除対象配偶者
個人情報を同様に記載の上所得の見積額を記載するように指導してください。注意点として、ここは「所得」と表記されていますので、厳密には収入とは異なります。配偶者の所得が給与のみの場合には給与所得控除後の数字を記載する形になっていますので、その点留意するよう伝えてください。
・控除対象扶養親族
前述の通り「その年の12月31日現在の年齢が16歳以上の人」を対象としています。該当する場合には個人情報をこの区分に記載するようにしてください。また同居老親や特定扶養親族に該当する場合にはチェックマークを入れるように指導してください。
・障害者、寡夫、寡婦又は勤労学生の区分
前述の要件を充たす場合には同様にチェックを入れてください。
・他の所得者が控除を受ける扶養親族等
必ずしも記載する必要はありません。夫婦共働きなど家族に複数の所得者がいる場合で、本人ではなくパートナーが控除扶養親族として所得控除を受ける場合のみ記載が必要です。
・16歳未満の扶養親族
「その年の12月31日現在の年齢が16歳未満の人」の個人情報を記載します。住民税では税額計算の際に調整を行ってくれますので、もれなく記載するよう伝える必要があります。
なお、もし書き間違えてしまった場合には再度、国税庁ホームページから印刷してもらう以外に、二重線にて訂正してもらい、空欄箇所に記入してもらっても大丈夫です。この場合には訂正印などは必要ありません。
国税庁「申告書の記載例」を参考にしてください。
※ 本ページに記載されている情報は2020年3月6日時点のものです。
まとめ
- 扶養控除等申告書は年末調整する前に必ず揃えておく
- 扶養控除等申告書は前年と今年の二部を渡しておく
- 給与収入と給与所得を間違えて記載しないよう指導する
- 16歳未満の子供がいる給与所得者へは予め説明する
- 間違えてしまったとしても二重線で大丈夫
事業をはじめると、年末調整やら決算、確定申告など様々な義務が付きまといます。年末調整一つ取っても、扶養控除等申告書や配偶者控除申告書、保険料控除申告書が必要になり、年に一度の事なので忘れてしまいがちですが、“事業主の義務”ですので、忘れずに対応しましょう。
※この記事は公開時点、または更新時点の情報を元に作成しています。
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この記事を書いた人
福島 悠(ふくしま ゆう)経営コンサルタント/公認会計士
公認会計士、税理士。経営改革支援認定機関/SOLA公認会計士事務所 所長。
上場企業の顧客向け税書類の監修や経営コンサルティング、個人事業の事業戦略支援と実行支援まで幅広く対応。顧客収益最大化を理念に掲げ起業家を徹底サポート。多種多様な企業の税務顧問と年間約30件の戦略立案を行っている。