【店舗開業の融資】日本政策金融公庫「新創業融資制度」の申請の流れと注意点
お店の開業をするときの数ある資金調達方法の中で、最も有名なのが日本政策金融公庫(以下、公庫)の融資です。中でも、新創業融資制度は最も活用されている融資制度でしょう。ここでは、公庫の新創業融資制度を利用するために必要なステップと注意点を解説していきます。
この記事の目次
新創業融資制度の概要をおさえよう
まずは、新創業融資制度の概要についておさえましょう。
1.お金の使いみち
お店の開店時または開店後に必要となる事業資金です。設備資金と運転資金になります。
- 設備資金とは
車両、パソコン、内装工事など、初期投資のハード面にかかる資金のことです。 - 運転資金とは
仕入、人件費、その他の諸経費など、売上が入金されるまでに出ていく毎月の経費です。おおよそ2~3ヶ月分程度が融資で借りられる金額の目安です。
2.融資限度額
3,000万円(うち運転資金1,500万円)
3.返済期間
設備資金 20年以内<うち据置期間2年以内>
運転資金 7年以内<うち据置期間2年以内>
据置期間とは?
据置期間とは、元本の返済を待ってくれる期間です。その間は利息だけを払います。
4.担保・保証人
公庫の新創業融資制度は、担保と保証人を原則不要としており、新規開業者に有利な制度です。
担保とは?
担保とは、借り入れする人や親族が保有する不動産を金融機関に示し、万が一返済できなくなったときは、その不動産を返済に充ててもらう制度です。保証人とは、借り入れた人が、万が一返済できなかったときは、保証人にも返済を請求できる制度です。担保や保証人があると、貸し出す金融機関としては有利ですが、借りる人には不利になります。
形式的な要件を理解しよう
この制度を利用するためには、次の1~3の要件を満たしているかが問われます。その上で、事業そのものがうまくいって返済が可能かどうか、社長としてふさわしい人物かなどの実質的な審査があります。まずは形式的な要件を満たせるかを確認しましょう。
1.創業の要件
利用できるのは、新たに事業を始める人、または事業開始後、税金の申告を2期終えていな人です。これからはじめる人だけでなく、開業してから間もない人も対象になるということです。
2.勤務経験などの要件
次の1~9のどれかに該当する人が対象です。
- 人を雇うような事業を始める方
- 技術やサービスなどに工夫を加え、多様なニーズを満たす事業を始める人
- 現在勤めている企業と同じ業種の事業を始める人で、次のいずれかに該当する人
・ 現在の企業に継続して6年以上お勤め人
・ 現在の企業と同じ業種に通算して6年以上お勤めの人 - 大学等で修得した技術に関連した職種に継続して2年以上お勤めの人で、その職種と密接に関連した事業を始める人
- 産業競争力強化法に規定される認定特定創業支援事業 ※1を受けて事業を始める人
- 地域創業促進支援事業 ※2による支援を受けて事業を始める人
- 公庫が参加する地域の創業支援ネットワークから支援を受けて事業を始める人
- 民間金融機関と公庫による協調融資 ※3を受けて事業を始める人
- 既に事業を始めている場合は、事業開始時に1~8のいずれかに該当した人
(※2)地域創業促進支援事業とは、国が「創業スクール」を開講し、創業希望者の基本的な知識の習得からビジネスプランの策定までを支援する事業です。
(※3)協調融資とは複数の金融機関が一緒になって融資を行うことです。複数の金融機関で融資を行うことで、一行で行うときよりもリスクが分散するため、金融機関が融資しやすくなります。
3.自己資金の要件
事業開始前、または事業開始後で税務申告を終えていない場合は、創業時において創業資金総額の10分の1以上の自己資金を確認できる人が対象です。ただし認定特定創業支援事業の受講を修了している場合は、この要件を満たしたものとして扱われます。
申込みのステップ
申込みのステップを確認していきましょう。
1.申込み書類の作成
申込みには次の書類が必要となります。
- 借入申込書
公庫所定の借入申込書です。代表者名や会社名、所在地、借入希望額、借入希望日、家族構成などを記載します。借入申込書は公庫各支店窓口で貰うかホームページからダウンロードもできます。 - 創業計画書
公庫所定の創業計画書です。起業の動機やこれまでの経歴、取扱商品・サービス、取引先などについて記入します。創業計画書は公庫各支店窓口で貰うかホームページからダウンロードもできます。 - 定款の写し(法人の場合)
法人設立登記の際に作成した定款をコピーします。 - 履歴事項全部証明書(法人の場合)
法人設立登記後、法務局で入手できます。 - お金の使い途に設備資金がある場合は見積書
内装工事の施工会社や設備導入予定の会社から貰います。 - その他の補足資料
公庫所定の創業計画書はA3・1枚の用紙です。これだけで自分の開業に掛ける思いが伝わりますでしょうか。事業計画書や店舗の地図や物件の資料などを添付しましょう。
2.申込書類の提出
公庫のホームページから自分の開業する地域を管轄している支店を調べ、該当する支店に申込書を持参します。
3.担当者の決定
公庫内で担当者が決まり、以後その担当者が窓口となり、審査手続きが始まります。
4.審査
これまでの経験や個人信用情報、事業計画書の内容などが審査されます。並行して面談審査があります。
5.面談
事前の面談時の持ち物の案内が郵送されますので、必要な書類などを揃えて指定された日時に支店を訪問します。担当者と申込者の1対1で面談を行います。面談時間は1~2時間程度で、これまでの経験や行おうとする事業の内容などが聞かれます。
6.不足資料の提供
担当者から不足資料の開示を求められたら滞りないように準備し、提供します。
7.結果の連絡
融資審査が通過したかどうか結果の連絡があります。
8.契約手続き
審査に通過した場合は、契約手続きに進みます。金銭消費貸借契約書や銀行引き落としに関する書類などを記名、押印し提出します。融資が実行される日程もここで概ねわかります。
9.融資実行
融資が実行され、指定された銀行口座に入金されます。月々の返済や利息もその口座から引き落とされます。
申込にあたっての注意点
融資申込にあたっての注意点を紹介します。
法人設立の場合は、原則設立後に申し込む
法人として開業を行う場合は、原則として法人設立後の融資申込となります。一般に融資したお金を資本金にすることはできません。それを行わせないために法人での開業の場合は、法人設立登記後に入手できる履歴事項全部証明書を提出しないと融資申込が行なえません。履歴事項全部証明書が手に入るまでに1週間程度かかるため、その時間を考慮しておきましょう。
形式的要件と実質的要件
新創業融資制度の申込要件にも形式的なものと実質的なものがあります。
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経験年数
開業しようとする事業の経験年数を6年以上としておりますが、実際には6年なくても審査に通っている場合も多くあります。経験年数は概ねの目安で、重要なのはその期間どのように取り組んだかを評価します。例えばアルバイトとして社員の指示のもとで配膳作業のみを行ってきた人と、料理人として、メニュー開発や食材の調達を行い、その後店長としてお店の損益管理や人材採用、育成まで任された人とでは、当然ながら後者の方の評価が高くなります。全く経験のない業種で開業したい場合は、最低でも1年くらい修行することも検討しましょう。ただし女性の開業で、300万円以内の融資の場合は、経験年数の要件を不要とする特例があります。
-
自己資金
新創業融資制度では1/10以上の自己資金が求められます。認定特定創業支援事業の認定を受けると自己資金要件がなくなります。だからと言って1/10で良いか、全くなくて良いかというとそうではありません。以前の新創業融資制度での自己資金要件は1/3でした。実質的には1/3程度の自己資金が目安と考えておきましょう。
自己資金は踏み絵と捉えましょう。金融機関は、本気で開業するのだったら、お金をコツコツと貯金するだろう、またお金を貯められる人は返済ができる人だろうとみるのです。開業を考えたらその日から毎日コツコツと貯金していきましょう。
まとめ
- 新創業融資制度に申し込むにあたって形式的な要件と実質的な要件がある
- 新創業融資制度は基本的に無担保・無保証人の制度である
- 新創業融資制度の申込は定形の書式の記入・作成が必要となる
- 法人設立後の申込や自己資金、経験年数要件の考え方と対処方法を理解する
新創業融資を活用するにも自己資金が必要です。開業を考えたらコツコツとお金を貯めましょう。コツコツと貯めてきた実績は、融資審査でとても評価されます。個人信用情報にも細心の注意を払いましょう。
※この記事は公開時点、または更新時点の情報を元に作成しています。
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この記事を書いた人
中野 裕哲(なかの ひろあき)起業コンサルタント(R)
起業コンサルタント(R)、税理士、特定社労士、行政書士、CFP(R)。起業コンサルV-Spiritsグループ/税理士法人V-Spirits代表。年間約200件の起業相談を無料で受託し、起業家をまるごと支援。起業支援サイト 「DREAM GATE」で11年連続相談数日本一。「一日も早く 起業したい人が『やっておくべきこと・知っておくべきこと』」など、起業・経営関連の著書・監修書多数。http://v-spirits.com/