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クラウドファンディングで約493万円を調達 漁師の思いを届ける居酒屋「魚谷屋」とは

近年、資金調達の手段として注目を集めているクラウドファンディング。企業や投資家から投資を受けたり銀行から融資を受けたりする従来の資金調達と違い、個人または法人の支援者を募りインターネット上で資金調達をおこなう方法です。

今回取り上げるのは、クラウドファンディングで493万円の資金を集めた中野の漁師居酒屋「魚谷屋」。この店舗は開業資金、約1500万円のうち約3割をクラウドファンディングで集めることに成功しました。どのように資金募集を呼びかけたか、また、お店にかける想いを、店長の魚谷さんにうかがいました。

この記事の目次

宮城県の復興支援の一環として魚谷屋をオープン

魚谷さん(以下、魚谷) 魚谷屋は「宮城県の良さを発信したい」という思いから始まったお店です。

私はもともと飲食店で働いており、独立を考えていたとき、東日本大震災がおこったのです。私は中学3年生で阪神淡路大震災で被災したとき、ボランティアの方々にお世話になりました。その経験から、東北の方々に貢献したいと思ったのです。

お店の開店準備はひとまず保留。はじめは石巻市で2週間のみボランティアで滞在する予定でした。しかし想像以上に現地の課題は山積みで、活動に終わりが見えません。もっと被災地の方々の役に立ちたいと思い、長期間ボランティアに携わることを決めました。

1年半ほど団体ボランティアで活動しているうちに、ふたつの課題がみえてきました。ひとつは、東日本大震災による被害復興の課題。もうひとつが震災前から抱えていた集落の過疎化問題です。

私は地元の青年と一緒に、過疎化への対策を考えました。まずは集落を活性化させるべく、近隣住民が集まる場を作ろうと計画。そこで宮城県石巻にある集落の古民家を改築し、カフェを開始しました。集落で暮らしているのは2世帯のご家庭でしたが、近隣の街から人が集まる場となりました。

宮城県で暮らしはじめて4年。次は、宮城県の良さを県外に発信しようと考えたときに、もともと抱いていた飲食店経営の夢を掘り出したのです。人口が多く、宮城県から魚の鮮度が高いまま輸送できる流通事情を考え、お店の場所を都内に決定。2016年に魚谷屋をオープンさせました。

プロフィール
魚谷浩
1979年、兵庫県神戸市生まれ。学生時代から飲食業界に携わり、卒業後も飲食店に就職。独立を夢に見ながら修行。2011年より東日本大震災による復興支援ボランティアに従事。2016年、株式会社フィッシャーマン・ジャパン・マーケティングの一員として、宮城県をはじめ、地方活性化のモデルケースを目指し「魚谷屋」をオープンさせる。

情報発信の場としてお店をオープンさせる

魚谷 魚谷屋で実現したいことは2つあります。

ひとつは、宮城県の人と消費者、生産者・漁師さんの情報交換をする場となること。加工業者や卸業者、飲食店経営者が漁師さんと話す機会はあっても、消費者との接点はまだ十分にはありません。だから、漁師さんが消費者の生の声を直接聞ける機会があるといいなと考えたのです。そこで魚谷屋では、月に1〜2度漁師さんをお店に呼んで店頭に立ってもらっています。そこで「食材に対してのこだわり」や「漁業に対する熱意」の話などをしてもらうのです。

また、漁師さんたちとお話できなかったとしても、魚谷屋を通じて宮城県の魅力を知ってほしいと考えています。少しでもお客さんが興味を持ち、宮城県に足を運んでもらえたら嬉しいです。

もう一方で、宮城県の方が情報をインプットする場としても機能してほしいです。魚谷屋は漁師さんだけでなく、宮城県の料理人志望の方も招きます。魚谷屋をはじめ、都内のいろいろな店舗を見て、工夫を凝らした調理法を宮城県へ持ち帰ってもらえたら、と考えています。

宮城県沿岸部は、食材そのものの味で勝負するお店が多い。裏を返せば、素材を活かして一工夫するお店は少ないといえます。自分のお店でオリジナリティのある料理を提供すれば、観光客にも気に入ってもらえると思うんです。

漁業の衰退を防ぎたい

魚谷 もう1つ、実現したいのは「漁業の衰退を防ぐこと」です。

私が震災ボランティアをしていたとき、日本の水産業自体が衰退してしまっていると実感しました。飲食店や卸業者のなかには、収益を残す手段のひとつとして仕入れ値を下げるため、生産者から買い叩きをするケースがあります。水産業の利益が少ないので生業として成り立たなくなったり、賃金の低下により後継者不足に陥ったりという現状を目の当たりにしました。

漁師さんたちは賃金だけを目的に漁に出ているのではありません。彼らはプライドを持ちながら漁業に携わり、後継者を育てたいと考えています。しかし、後継者を育てられる環境を用意できないのです。

利益を増やすために数多く売ろうとすると、最高のクオリティに届かず、妥協しながらモノを売ることになってしまいます。このままでは飲食店が利益を出していたとしても、美味しい海産物が食べられなくなってしまうでしょう。

取材日に届いたのは「ホヤ」。宮城県の生産量は全国トップクラス

魚谷屋では、そういった事態を引き起こす買い叩きはおこないたくありません。漁師さんに敬意を払い、かつスタッフも漁師さんたちと話すことで食材の知識を持ち、食材に愛情を持ちながら日々働いてほしいと考えています。

クラウドファンディングで開業資金を集めて出店

魚谷 こういった想いを実現させるために始めた魚谷屋ですが、直面したのは開業資金の問題です。2011年までに貯めていた僕の独立資金はほとんど底をついていました。開業資金は外から調達しなければなりません。

魚谷屋は「株式会社フィッシャーマン・ジャパン・マーケティング」という組織で運営しています。ただ、当時は企業として設立年数が浅く、自己資金が乏しいなかで銀行の融資がおりるかどうかすら危うい状況でした。

そこで考えたのが、クラウドファンディングです。

クラウドファンディングなら、数千円単位から支援をいただけます。投資家のように巨額の支援ではないので、気軽に参加してもらえると考えたのです。

これまでのボランティア経験で、宮城県が好きな人、支援したい人はたくさんいると肌で感じていました。石巻市だけでも、2011年から2年間で25万人がボランティアに訪れています。ボランティアの方々は純粋に宮城県を応援したいという思いを持つ人たちばかり。だから、宮城県を支援するためのプロジェクトなら純粋に喜んでもらえるだろうと思ったのです。

また彼らは、FacebookなどのSNSをよく活用します。クラウドファンディングの特性上、SNSなどで情報が拡散されることが重要です。支援者一人ひとりが情報発信源となると予想しました。

加えてクラウドファンディングの「リターン」という支援者への返礼制度があります。オリジナルステッカーや魚谷屋の食事券などをはじめ、宮城県で漁師さんたちとBBQできる宿泊券や魚谷屋1日店長権など、これまで支援してくださった方に面白い恩返しができるなとも考えていました。

クラウドファンディングの募集文でストーリーを語る

魚谷屋のプロジェクトページ。仲間のデザイナーやカメラマンなどと協力し作成した

魚谷 プロジェクトのページを作るとき、ストーリーや想いを盛り込むことを意識しました。まだ完成されていないものにお金を出していただくわけですから、目にした人がイメージの湧かないプロジェクトではダメだと考えたのです。

「なぜお店を始めるのか、何を実現させたいのか」はもちろん、実際の店舗設計やコンセプトまでをすべて記載しました。

一番に打ち出したのは、「生産者の思いをダイレクトに伝えるためのライブステージが欲しい」という僕の想い。わかめが茶色から湯通しして緑色になることを教えていただき、そのわかめの美味しさに感動した経験から、漁師さんと直接話すことの面白さを冒頭で説きました。

続いて記したのは、震災ボランティアを通じて宮城県の食材たちの美味しさ、宮城県という場所のすばらしさに気付いた話。宮城県の魅力を知らない人にも伝わるよう、僕なりに言葉をつくしました。

もうひとつ大切なのは「どんなお店としたいのか」。想いを語っても、実態が見えなくては支援者も集まらない。そう考え、お店の構想を記しました。
オープンキッチンでライブ感を出したいこと、旬の食材をお出ししたいこと、漁師さんと交流してほしいこと……。魚谷屋で実現したいことをまとめました。

また、使用用途不明では不信感が募ると考え、集まった資金の用途を事細かに記しました。

そのかいあってか、クラウドファンディングでは329人の方に支援いただき、493万3千円の金額が集まり、無事魚谷屋をオープンできたのです。

25年、50年続くお店にしたい

毎日食材・料理が変わるため、フードメニューはすべて手書き

魚谷 おかげさまで1周年を迎えた魚谷屋。僕の同世代だけでなく、次の世代に情報を伝えるために25年、50年と続くお店にしたいと考えています。

そのためには、まずは担い手の育成が欠かせません。利益ばかり求めると、メニューやレシピが簡素化されてスタッフが育たない。確かな技術の伝承がおきなければ店は続きません。

魚谷屋では固定のメニューを作らず、スタッフたちがその日届いた魚を前にどんなメニューにしようか考えてもらうようにしています。毎日ルーティンにならずわくわくしながら知識を取り入れ、実践してもらう仕組みですね。

魚谷屋で働いてもらっているからには、知識を蓄え、将来につながるような体験をしてもらいたいと考えています。

誤解を恐れずにいうと、魚谷屋は大きく稼げるお店ではありません。しかし、地道にコツコツと、スタッフやお客さんにとって得となるようなお店をつくっていきたい。それがお店を長く続けるコツだと考えていますし、飲食店側と生産者側で長期的に継続できる関係を築いていきたいと思います。

まとめ

地方を活性化させることで日本文化が継承されていく。魚谷さんがそう考えスタートした「魚谷屋」は、漁師直送の素材を仕入れ、月1〜2程度漁師を店に呼びお客さんと交流してもらうなど、情報を発信する場としても活動しています。

漁師と消費者をつなぐ場として、何世代にも渡って愛されるようなお店を作っていくのでしょう。

魚谷屋
東京都中野駅より徒歩2分に位置する。漁師から直接仕入れた新鮮な魚介類を中心に提供する居酒屋。月に1度は宮城県の漁師が来店し、直接話のできる機会を設けている。

※この記事は公開時点、または更新時点の情報を元に作成しています。

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この記事を書いた人

高根千聖(たかね ちさと)氏

高根 千聖(たかね ちさと)編集者

株式会社ZINEの編集者。編集プロダクションで週刊誌の編集・ライター業務に従事。その後、制作会社にて紙媒体やWEBサイトのディレクション、編集・ライター業務に携わる。得意ジャンルはビジネスやグルメ、芸能など。

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