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個人事業主にとっての税金とその計算方法

規模の大小に関わらず、経営を行う上で欠かすことのできないのが税金に関する知識です。苦労して売上を上げても「納めるものばかりで手元には残らない」では辛いですよね。もちろん、納めるべきはしっかりと納めなければなりませんが、知識があれば賢く節税することも可能です。税金のしくみは「知らない=損」と心得ましょう。ここでは、個人事業主が必要になる税金の計算について解説します。

この記事の目次

個人事業主にとって重要な税金の計算

会社員なら、勤め先で手続きしてもらえることも多い各種税金の計算と納付。個人事業主は計算・申告から納付まで全て自分で行わなければなりません。税理士に依頼できる資力があればいいですが、特に開業当初など、売上の見通しが立たないうちはそれもハードルが高いのが現実でしょう。

また、税理士に依頼していても「何もわからないから丸投げ」では、税理士からアドバイスを受けたとしても、どう判断していいかわからず活かせないまま終わってしまうかもしれません。

個人事業主になったらどんな税金がかかってくる?

個人事業主に関わりのある税をリストアップしてみましょう。

まず筆頭に挙げられるのが、1年間の所得を基に納付する所得税、住民税および国民健康保険税です。さらに、指定の業種で事業所得が290万円を超える人には、個人事業税も課税されます。

そしてご存知の通り、事業用に経費を支出する際には、一旦、消費税分を負担しなければなりません。また、不動産をお持ちの方には固定資産税が、事業用の車両については自動車税(または軽自動車税)が課税されます。

不動産を購入し、登記したら登録免許税や不動産取得税が課税されます。また、契約事が生じた際や領収書を発行する際には印紙税の納付も必要です。

個人事業主は、意外とたくさんの税と関わっているのですね。

租税公課と事業主貸をマスターしよう

事業を営む上で関わりのある税は、以下の2つに分けることができます。

  1. 年間の所得に応じて負担する税
  2. 特定の物を所有、または一定の取引を行うことで生じる税

うち前者は、所得つまり「売上-経費」が高いほど負担が重くなってしまいます。したがって、認められる支出は可能な限り経費算入し、課税所得を引き下げたいというのが多くの事業主の心理でしょう。となると、事業を行う上で必要となる後者のような税の取り扱いが気になるところ。これは経費算入できますか? 早速見ていきましょう。

租税公課について

まずは結論から。「年間の所得に応じて負担する税」について計算する際、「特定の物を所有、または一定の取引を行うことで生じる税等」を経費に算入することが可能です。これらを経費算入する場合に用いる勘定科目を「租税公課」といいます。

租税公課とは?

租税公課とは、文字通り国や地方自治体へ納める税(租税)と、公的機関へ納める会費や負担金等(公課)のことです。租税公課にあたるものは具体的に以下の通りです。

租税公課リスト

租税:自動車税、軽自動車、固定資産税、都市計画税、登録免許税、印紙税、事業税、不動産取得税、消費税(税込経理方式により計上し納付税額がある場合)など

公課:印鑑証明書や住民票などの発行手数料、同業者組合の組合費、商工会・商工会議所の会費など

あなたが納めている租税公課はどれぐらいありましたか? 事業のために支出したものがあれば、堂々と漏れなく経費算入してくださいね。

事業主貸について

個人事業主の帳簿には、事業上の経費だけでなく、事業とは関係ないプライベートな支出も登場します。こうした支出が生じた際に用いる勘定科目が「事業主貸」です。

事業主貸とは?

個人事業主は、日々の売上の中から生活費を捻出しなければなりません。これらは言わば個人事業主の「給料」にあたるお金です。こうした支出については、もちろん事業上の経費にはなりません。「事業主貸」の勘定科目を用いて経費ではない支出として処理します。

また、経費として支出しているものの中にも、100%事業のためだけではなく、一部はプライベートでも使用するものもあると思います。例えば携帯電話。事業用とプライベート用とを別々に所有している人もいない訳ではありませんが、コスト面や管理上の事情から、兼用にしている人も多いのではないでしょうか。

そんな場合、例えば概ね8割方を事業用に、2割程はプライベートにも使用している人だと、支出のうち経費に算入できるのは事業用に利用している8割分です。このとき、2割分は私的利用分として「事業主貸」へ按分、経費から除外する必要があります。

事業主貸リスト

事業主本人や家族のために支出した食費・日用品費・住居費・水道光熱費・通信費・被服費・医療費・理美容費・教育費・レジャー費など生活費全般は全て「事業主貸」です。

また、事業用とプライベート用を兼用しているもの、例えば自動車などに関わる経費(租税公課含む)のうち、私的に使用した割合に相当する金額についても「事業主貸」へ振替えることで経費から除きます。自宅の一部を事務所として使用している場合の家賃や水道光熱費、減価償却費や固定資産税なども同じく使用割合で按分、私的利用に対する支出については「事業主貸」で処理します。

年間の所得に応じて負担する税金の計算

ここからは「年間の所得に応じて負担する税」の計算方法について触れて行きましょう。これまで見てきた「特定の物を所有、または一定の取引を行うことで生じる税等」の金額は、所有や取引等の内容により定められた金額を支払うものでした。

これに対して「年間の所得に応じて負担する税」は、自分で計算した結果を申告し、その申告内容に基づいて納税します。計算方法を理解し適切に経理処理できるか否かで、税額に影響が出ることにもなります。

確定申告に向けて各税金の計算方法と疑問点を解決しよう!

「年間の所得に応じて負担する税」には、所得税・住民税・国民健康保険税・個人事業税が挙げられます。そして、それらは所得税の申告を軸に全てが連動しています。まずは、認められる経費を適切に算入し、利用できる控除を最大限活用して、所得税を正しく算出できることが最も重要であると言えるでしょう。

所得税について

所得税は「所得の高い人に、より高い税負担を求める」という考え方を前提に徴収されます。徴税主体は国で、現金で直接納付する直接税です。

所得税とは?

所得税は、個人の所得に対して課税される税で、毎年1月1日から12月31日の間に生じた所得を基に計算します。所得の種類には、事業所得・不動産所得・利子所得・配当所得・給与所得・雑所得・譲渡所得・一時所得・山林所得・退職所得の10種類があり、それぞれの所得の生じ方に応じて所得額の算出方法が決められています。

複数種類の所得がある人も、所得ごとに定められた方法でそれぞれに算出した所得額を合算し、その総額をその人の所得とする「総合課税」が基本です。ただし、一時的に高額の所得となる山林所得・退職所得や譲渡所得の一部については、他の所得とは別に計算する「分離課税」となります。

各所得のうち、事業所得・不動産所得・譲渡所得・山林所得については、損失が生じた際に他の所得と相殺する「損益通算」が可能。また、青色申告の場合、赤字額を翌年以降の所得と3年まで相殺できる「欠損金の繰越控除」が認められます。

所得税の計算方法

ここからは、実際の所得税の算出手順を見ていきましょう。

1.所得額を算出する

事業所得については、「売上-経費」の式により所得額を算出します。給与所得や不動産所得など、他の所得がある方は、それぞれの計算方法に従い所得額を計算、事業所得と合計して総所得額を求めます。

2.所得控除額を計算する

社会保険料の負担や生命保険等の加入状況、配偶者の所得や扶養家族の年齢や人数など、個別の事情に照らして「税の計算上、所得のうち一定額をなかったことにしてくれる」のが所得控除です。この金額が大きくなるほど課税所得が圧縮されますので、納めるべき税額の軽減につながります。

3.課税所得額を求める

1.で求めた所得額から、2.で求めた所得控除を差し引いた金額(1,000円未満切り捨て)が課税所得です。

4.税額を計算する

課税所得に税率を掛けて税額を求めます。税率は、課税所得のうち195万円までの部分に対して5%、195万円超330万円の部分に対して10%、330万円超695万円の部分に対して20%――と、高額になるに連れて税率が上がる超過累進課税制であることが特徴です。ちなみに最高税率は45%。4000万円超の部分に対して課される税率です。

5.税額控除を反映した税額を求める

4.で求めた税額から、住宅借入金等特別控除や災害減免額など税額控除分を差し引きます。

6.復興特別所得税を加算

5.で求めた税額に2.1%を掛けて復興特別所得税を求めます。この金額に、5.で求めた税額を足したものが、あなたが本年度に納めるべき所得税の総額です。

7.源泉徴収税額または予定納税額に対する過不足を計算する

源泉徴収や予定納税により既に納付している税額がある人は、その分と6.で求めた金額とを相殺します。

納付済みの金額では不足する人は、期限までに差額を納付、納付済みの金額の方が多かった人は、差額について還付を受けることができます。

所得税のFAQ (よくある質問)

Q1. 減価償却費とはどういうものですか?

A1. 車両や建物、機械工具など、高額の備品等に関しては、取得の対価として代金を支払った年に全額を経費に計上できないものがあります。その物自体に資産性があるため、帳簿上は資産とみなして取り扱います。一方で、それらの物にも経年による劣化が生じるもの事実。ですから物ごとに耐用年数を定めて、その期間で劣化していく分を徐々に経費として算入(減価償却)するルールとなっています。

Q2. 復興特別所得税とは、どういうものですか?

A2. 復興特別所得税は、東日本大震災からの復興財源を調達するために2013年分の所得税から徴収が始まりました。所得税額に対して一律2.1%を加算、徴収するもので、今後も2037年分所得税まで加算が続きます。

住民税について

住民税も、所得の高い人に高い税負担を求める税です。徴税主体は都道府県と市町村。所得税と同じく現金で直接納付します。

住民税とは?

文字通り、お住まいの都道府県と市町村に対して、自治体の行う住民サービスの財源として納付する税です。所得税の申告を行うことで同時に申告が完了し、申告額に応じた税額を、翌年に納付します。

住民税の計算方法

計算の流れは所得税とほぼ同じです。異なる点は、所得控除の金額が所得税の計算よりもやや少ないものがあることと、課税所得に対する税率が一律10%(都道府県民税4%、市町村民税6%)であること、自治体ごとに定める「均等割」が一律に加算されることです。

また、所得が一定以下の世帯は住民税が免除(住民税非課税)となり、健康保険や介護保険における自己負担額の軽減や、保育料や高等教育に関する費用などについて支援の幅が広がるなど影響が生じます。

住民税のFAQ (よくある質問)

Q. 住民税の均等割とはいくらぐらいですか?

A. 住民税の均等割額は年額で、市町村民税3,500円と道府県民税1,500円の合計5,000円が標準です。この金額には、自治体の裁量による加算が認められていますので、若干の金額が上乗せされる自治体もあります。

国民健康保険税について

国民健康保険税の負担額も、年間の所得額を基に計算されます。

国民健康保険税とは?

国民健康保険とは、市町村が運営する公的医療制度で、会社員の加入する健康保険、公務員の加入する共済組合などの被用者保険の対象にならない人が加入します。この制度に対する個人の負担金が、国民健康保険税(または国民健康保険料)です。

国民健康保険税の計算方法

国民健康保険税(料)は、年間所得額を基に算出する「所得割」、世帯人数に応じて課される「均等割」、世帯に対して一律に課される「平等割」、保有する固定資産に対して課される「資産割」の4つの部分で構成されます。

「所得割」「均等割」「平等割」「資産割」のそれぞれについて、「医療分」「後期高齢者支援分」「介護分」の負担率(所得割・資産割)や負担額(均等割・平等割)が定められています(自治体により異なる)。資産割や平等割を課さない自治体もあります。

また、「医療分」「後期高齢者支援分」「介護分」の合計額には、それぞれ上限が設定されており、上限額を超えると、所得が増えても世帯の人数が増えても負担額がそれ以上に増えることはありません。

国民健康保険税のFAQ (よくある質問)

Q. 国民健康保険税には減免制度があるそうですが、どういうものでしょうか。

A. 国民健康保険税は、所得が低く納付が困難な人に対して減免制度を設けています。細かな計算方法については、自治体ごとのルールに基づいており、減免される割合は、所得額により2割・5割・7割となります。

まとめ

  • 個人事業主が関わる税は所得税、住民税および国民健康保険税など思いのほか多い
  • 事業主の生活費全般は全て「事業主貸」
  • 「年間の所得に応じて負担する税」は、自分で計算した結果を申告
  • 国民健康保険税(料)は「所得割」「均等割」「平等割」「資産割」で構成される

個人事業主に関わる税は数多く存在します。特に、所得税についてはしっかりと理解しておきたいところ。不明な点や迷う点が生じた場合は、お近くの税務署または税理士へ相談に行ってみてください。繰り返しになりますが「知らない=損」と心得て、しっかりと向き合っていきましょう。

※この記事は公開時点、または更新時点の情報を元に作成しています。

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この記事を書いた人

佐藤 名ゝ美(さとう ななみ)ファイナンシャルコーチ

一度きりの人生を豊かに送るために、お金と仲良く付き合う方法を発信。家計管理・マイホーム取得・保障設計・資産形成・金銭教育・終活…など、様々なテーマで個別相談やセミナー、執筆に携わる。2001年より、熊本日日新聞社発行の生活情報紙すぱいす(週刊)にて、マネー情報の連載を担当。現在、『ななみ先生の家計相談Q&A』『ちゃっかり!家計学』を連載中。

https://www.kakei773.com/

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