家事按分についての考え方や注意点と税務的な取り扱いを徹底解説

税務上の「按分」は一般的な意味とは異なり、自宅などで仕事をする個人事業主が、生活費と事業費用を明確に分けられない場合に、ある一定の基準の割合で分けることを指します。「家事按分」と呼ばれることもあります。合理的な考え方や基準で按分しなければ、場合によっては納税額が変わってしまいます。ここでは按分の基準について解説したいと思います。
この記事の目次
家事按分とは
家事按分とは、税法で普段使っているお金の一部を業務の必要経費として計上することができることを指します。フリーランスや個人事業主の場合、自宅にあるものを仕事でも兼用するなど、支出は一度ですが生活上と業務上の両方にかかっている費用が出てきます。特に交際費や家賃、水道光熱費などは明確に区別することが難しいといえますが、合理的な基準をもって区分できる場合に、必要経費として按分することが認められています。
家事按分の法的な取り扱い
個人事業主が使う費用は、生活費と業務関連費を明確に区分することが難しいため、「生活費が混ざっているから経費として一切認めない」としてしまえば、税務上の煩雑さはなくなります。しかしながら、税法はもともと「租税正義(国民の自由と公平性を租税の側面から支える考え方)の実現」の目的で成り立っていますので、少しでも「収入」に関連する物であれば「経費」として扱われるべきものであると言えます。そこで、合理的な基準をもって生活費と事業関連費とを区分できる場合においては、必要経費として所得から控除することが認められています。
申告納税制度の弊害
「個人事業主は、生活費も含め何でも経費にできてしまうのでは」という質問をされることがありますが、一切そういったことはありません。所得税法によって厳格に必要経費の取扱いがなされています。なぜこのような話が出るかというと、日本では「申告納税制度」といって、納税者が自ら計算した所得によって所得税を納める方式を採用しているため、「確定申告が出来たから経費として認められた」「確定申告後税務署から連絡がないから大丈夫」といった勘違いをしている方が多いのが原因です。あくまでも、その経費計上が認められているかどうかは「税務調査」の時にどうなるかです。
税務調査で不適切な按分を指摘され、追徴課税等を支払う例
- 自身の判断で生活費を経費に入れる
- 客観的な指標(按分基準)を考えず、多めに経費を計上する
(自宅家賃を100%経費にする、飲食費の100%を経費にする等) - 事業所得を少なく計上し、納税額を少なく申告する
- 税務調査時※に指摘され、過去分(3年間~5年間)を全て修正申告
- 修正申告により、所得が増加し所得税以外にも加算税※、住民税や国民健康保険料を支払う
(※加算税の詳細は、国税庁「確定申告を間違えた時」を参照)
確定申告が受理されたからと言って、「自分が作成した確定申告の内容すべてを認められたわけではない」という点について注意が必要です。間違っても、事業所得しかないのにも関わらず、所得を赤字で申告するのはやめましょう。
税務調査の選定について
税務調査には明確な選定基準がありませんが、数字的に違和感のある申告書(按分が適切ではない、同業者と比べて所得が低いなど)を作っていると調査対象になりやすくなります。
家事按分の内容とその範囲
家事按分できる支払いには次のようなものが考えられますので、経費計上していないものがあれば事業との関連性を考え、経費計上を検討してください。
- 家賃関連/家賃(更新料も含む)、自宅の減価償却費や住宅ローンの金利など
- 税金関連/固定資産税、自動車税、車庫証明手数料など
- 賃貸関連/倉庫や会議スペースのレンタル、駐車場など
- 公共料金関連/電気代、水道代、ガス代など
- 通信関連/インターネット使用料、携帯電話代など
- 備品関連/価格が10万円未満の物品や使用期間が1年未満の物品(価格が10万円を超える物品については減価償却の対象となります)
- 修理関連/業務に関連する物品の修繕(PCや車、自宅の環境維持設備※エアコン、冷蔵庫等)
- 車関連/車検費用、ガソリン代やオイル交換代、保険料、車の減価償却費など
- 図書関連/新聞雑誌、情報サイト利用料やセミナー参加費など
- 飲食費関連/取引先の接待、カフェなどで打ち合わせなど
家事関連費の按分基準(目安)の例
家事按分については明確な配分基準はなく、合理的な算出をしていれば必要経費として経費計上して問題ありません。また、この合理的な算出という点においても、各個人の判断が必要になってきますので一部例示します。
家賃関連 /事業として使用している面積の割合(部屋数など)
公共料金関連/一日辺りの業務時間と在宅時間の割合
通信関連 /業務連絡とプライベート割合、業務時間と在宅時間の割合
車関連 /使用日数の割合(走行距離など)
按分金額
按分の基準は、客観的かつ合理的に説明できる必要があります。
家賃を例とすると自宅兼事務所の家賃が10万円(賃貸面積50㎡)の場合。1日に占める仕事時間や作業スペースの専有面積などをもとに、 事業用と個人用に家賃の支出を按分します。
一日の在宅時間と業務時間との割合算出の例
業務時間8時間÷在宅時間18時間=44%
10万円×44%=44,000円(事業関連費)
10万円-44,000円=56,000円(生活費)
専有面積の例
仕事場の専有面積10㎡÷賃貸面積50㎡=20%
10万円×20%=20,000円(事業関連費)
10万円-20,000円=80,000円(生活費)
様々な算出方法を考え、一番経費計上が大きくなる方法を採用して差し支えありません。
事業の実態として「十分な説明がつく」ことが必要になってきますので、例示を踏まえ検討しておきましょう。
按分計算時の注意点
家事按分の際には「客観性」を重視するようにして下さい。もともと主観が混じる基準なので、合理的な説明ができない場合には税務調査時に認められず、経費として認められない(経費算入否認)可能性があります。そして結果的に所得が増加することで、追加で所得税、さらには過少申告加算税を納税する必要がでてきます。
必要経費として認められるための3つのポイント
家事按分の際に、事業関連費として確実に処理したい場合のポイントは、以下の3点です。
- 業務に直接関連するものであること
- 業務遂行上、必要性があること
- 業務用の金額を明確に区別できること
(判例)個人事業主家庭の従業員が奥さんのみであった場合の慰安旅行
主張としては、「従業員のレクリエーション」としての支出であるから、事業関連費(福利厚生費)として処理したいとしていました。しかし、家族のみでの旅行である点、配偶者や子女の都合を重視している点、この旅行以外にも同じように旅行をしている点。これらを総合的に勘案した結果「サラリーマン家庭の旅行」と何ら変わりがないとして、判例では家事按分が否認されています。
参考:国税不服審判所 家事費、家事関連費
上記の判例を、最初に挙げた3つのポイントに照らし合わせてチェックしてみましょう。
業務に直接関連するものであること
従業員のモチベーションが高まることで売上が増加する「可能性」はありますが、「可能性」という点が直接的ではないと評価されます。
業務遂行上、必要性があること
特に家族のみの慰安旅行に関して言えば、旅行しなければ従業員が離職するとも考えられませんし、この支出が無ければ事業に悪影響が出ることもありません。よって、必要性がないと判断されます。
業務用の金額を明確に区別できること
慰安旅行は、従業員間の結束力を強めることや、疲れをとることを目的としてなされますが、家族のみの慰安旅行はどうでしょうか。疲れは取れますが、業務部分と明確に区別することはできません。
上記については、一つ一つがダメだから認められませんというわけではなく、あくまでも総合的に勘案して、その客観性を判断しています。
事業経費として認められるものの意味を理解すれば、家事按分で大きなミスをしてしまうことは少なくなると思いますので、ポイントを理解しましょう。
白色申告と青色申告での家事按分の違い
確定申告には青色申告と白色申告の2種類があります。いずれも、前述の家事按分の3つのポイントは共通ですが、取り扱いに関しては、両者に違いが出てきます。
白色申告のケース
白色申告の場合においては、以下の2点を満たさなければ按分が認められません。
- 家事按分の割合が限定的である
- 業務に関連する割合が「50%超」、もしくは「明確に区分できるもの」
参考:国税庁「法令解釈通達/家事関連費(第1号関係)45-2 業務の遂行上必要な部分」
例えば、家賃や電気代、通信費など、業務で少し使っているだけでは、経費としては認められません。家事よりも業務で使っている割合が多い必要がありますので、先ほど家賃の家事按分の割合で計算した44%、20%では要件を満たさないことになります。
家賃の按分(上記同例)
賃貸面積:50㎡(うち仕事場:20㎡)、自宅兼事務所の家賃:10万円 の場合
一日の在宅時間と業務時間との割合算出の例
業務時間8時間÷在宅時間18時間=44%
10万円×44%=44,000円(事業関連費)
10万円-44,000円=56,000円(生活費)
専有面積の例
仕事場の専有面積10㎡÷賃貸面積50㎡=20%
10万円×20%=20,000円(事業関連費)
10万円-20,000円=80,000円(生活費)
青色申告のケース
青色申告の家事按分は、業務遂行上必要と合理的に認められればすべての経費を計上することができます(所得税法施行令第96条第2号)。先ほどの白色申告では認めれられない家賃の例で、事業割合が44%や20%であったとしても、青色申告の承認を受けている人なら、認められることになります。そのため、白色申告者と比較して青色申告者の方が経費として認めれる幅が広いといえます。
これ以外に、青色申告者には、「少額減価償却資産の特例」を使って、30万円未満まで(年間300万円まで)一括計上の対象とすることができるというメリットがあります。白色申告者は、パソコンや工具など10万円以上の備品を購入した場合、有形固定資産として扱われますので、減価償却させる必要があります。青色申告の個人事業者なら、10万円ではなく30万円まで一括計上できるので、たとえば業務兼個人用に20万円のパソコンを購入した場合も、費用按分や減価償却の計算(取得額×耐用年数に応じた償却率 など)の必要もないため、簡便である上に、節税に繋がります。
まとめ
- 家事関連費と事業関連費を按分することで必要経費に算入することができる
- 客観性を重視することで、税務調査時に経費として認められる可能性が高くなる
- 青色申告の方が白色申告に比べて有利
家事の按分が必要経費として認められるのは、きちんと記録があり、業務遂行上、直接の影響があるものです。いつ税務調査になっても説明できるように根拠をまとめておきましょう。按分を理解し、正しい確定申告を実施することで、追徴課税や延滞税などのペナルティを防ぐことができます。
※この記事は公開時点、または更新時点の情報を元に作成しています。
この記事を書いた人

福島 悠(ふくしま ゆう)経営コンサルタント/公認会計士
公認会計士、税理士。経営改革支援認定機関/SOLA公認会計士事務所 所長。
上場企業の顧客向け税書類の監修や経営コンサルティング、個人事業の事業戦略支援と実行支援まで幅広く対応。顧客収益最大化を理念に掲げ起業家を徹底サポート。多種多様な企業の税務顧問と年間約30件の戦略立案を行っている。