専門家が解説するキャッシュフローの考え方と改善方法
資金がどこから入ってきて、どこに使われていっているのか管理する考え方を「キャッシュフロー」と呼びます。ここでは、会社経営を円滑にしていくために必須のキャッシュフローの基本的な考え方と改善方法について解説します。
この記事の目次
キャッシュフローについて
会社は資金が底をつくと倒産してしまいます。しかし世の中には、支出が収入を上回る赤字状態でも潰れない会社があります。なぜ潰れないかといえば、キャッシュ(資金)が手元にあるからです。キャッシュの流れ(フロー)を発生原因別に把握することによって、手元のキャッシュがつきないように対策を取ることができるため、会社は倒産しにくくなります。ここでは、キャッシュフローの基本的な考え方などについて見ていきましょう。
キャッシュフローの考え方
キャッシュフローは、キャッシュ(現預金)を中心にものごとを把握する考え方で、一般的な財務会計とは視点が異なります。
例えば100万円の商品を「掛け」で販売した場合を考えてみましょう。会計上は商品を販売した時点で収益を認識します。ところがキャッシュフローにおいては、売掛金はその時点でまだ現金化されていないため、この取引を認識しません。
また、50万円分の商品を現金で仕入れた場合、会計上は「商品」として資産に計上し、販売されるまで損益には影響を与えません。一方、キャッシュフロー上は商品仕入れに対して現金の支出がすでに行われているため、キャッシュのマイナス要因として認識します。このように、会計上の損益認識とキャッシュフロー上の収支認識は異なります。キャッシュフローは「現金主義」に近い概念であるともいえます。
キャッシュフローの把握・管理
キャッシュフローの管理とは、簡単に言えば次の3つの要素を把握することです。
- キャッシュ・イン(入金)
- キャッシュ・アウト(出金)
- 現預金残高
後述するキャッシュフロー計算書は、基本的に1年に1度作成します。しかし、資金が足りなくなれば経営が続けられません。そのため、経営者は毎月のキャッシュフローをリアルタイムで把握しておくべきです。1カ月間のキャッシュフローは、以下のように表せます。
「月初時点の現預金残高」+「1ヵ月間の入金総額」-「1ヵ月間の支出総額」=「月末時点の現預金残高」
例えば月初に100万円を持っているとします。50万円入金があり30万円支出があれば、キャッシュは20万円増加。月末に120万円残っているということになります。
シンプルに見えますが、実際に会社でこうしたキャッシュフローを把握することはやや難しい側面もあります。「月初の現預金残高」と「月末の現預金残高」は試算表や通帳を見れば簡単に分かるのですが、問題は「キャッシュ・イン」と「キャッシュ・アウト」の把握です。
キャッシュフローでは、お金の動きを「発生原因」ごとに振り分けます。振り分け作業は、通帳や総勘定元帳(勘定科目ごとに全取引を記録する帳簿)などから個別に抽出していく必要があります。仕訳件数が毎月数百~数千ある会社の場合には、会計システムなどを利用しないと抽出作業だけでもかなり手間がかかります。
キャッシュフローの改善
キャッシュフローを管理する最大の目的は、キャッシュフローを改善することで、資金が底をつかないようにすることです。キャッシュ・インよりもキャッシュ・アウトが著しく多い状態が限界値を超えると、資金は足りなくなってしまいます。
回避する方法は大きく以下の5つです。
①キャッシュ・インの総量を増やす
②キャッシュ・アウトの総量を減らす
③キャッシュ・インのスピードを速める
④キャッシュ・アウトの速度を落とす
⑤新たにキャッシュを調達する
基本原則は①、つまりお金を稼ぐことです。会社が急成長すると、売上高の増加と同時に売掛金も増えることがあります。それが回収不能となれば、黒字倒産するケースもあるでしょう。いくら会計上の売上が増えても、回収できなければ意味がありませんので、回収してはじめてキャッシュ・インとなります。
③の入金や出金までの期間も重要です。どれだけ大きな利益が見込まれるビジネスだとしても、入金されるのがあまりに遅ければ、入金を待っている間に資金が底をつきかねません。「回収はできるだけ早く、支払はできるだけ遅く」というのが資金繰りの鉄則です。入金(回収)までの期間が短い会社はキャッシュフローが安定します。
見落とされがちなのが⑤、つまり新規の資金調達です。いよいよ資金の底が見えてからの資金調達は苦戦します。資金調達の原則は「業績の良い時に調達しておき、厳しいときに返済計画等を組み直す」ことです。資金がつきないようにするため、業績が良く融資を受けやすいタイミングで、非常時にもキャッシュを調達できるパイプを作っておくことがとても大事なのです。
キャッシュフロー計算書
キャッシュフローを報告書としてまとめたものが「キャッシュフロー計算書」です。概要や必要性について解説します。
キャッシュフロー計算書とは
「キャッシュフロー計算書(C/F)」は、貸借対照表(B/S)、損益計算書(P/L)と並ぶ財務諸表の1つです。上場企業は有価証券報告書に添付する義務がありますが、中小企業は税務署や銀行に対して提出義務がないため、作成しているケースは少ないでしょう。
キャッシュフロー計算書は、実際の入出金額をベースとし、キャッシュの発生原因別に作ります。粉飾や操作できる余地がなく、信頼性の高い資料として評価されています。
キャッシュフロー計算書の必要性
中小企業にとってのキャッシュフロー計算書には、大きく2つの役割があります。1つは「自らの財務体質を可視化することで改善につなげる」という内部管理資料としての役割。もう1つは「資金調達をしやすくする」という外部報告資料としての役割です。
キャッシュフロー計算書で資金の状態を把握することにより、キャッシュが足りなくなることによる黒字倒産を未然に防げます。また、キャッシュフローに対する知識があり、キャッシュフロー計算書を作れる経営者は、銀行担当者に対して良い印象を与えることができます。
キャッシュフロー計算書の読み方
キャッシュフロー計算書の見るべきポイントについて解説します。
キャッシュフロー計算書は、まず「期首と期末の現預金残高を比較して、全体でいくら増減したのか」を出すところからスタートします。その後、増減が起こった原因を探っていきます。
発生原因は次の3つに分かれます。
営業活動によるキャッシュフロー
本業でどれだけお金を生み出したかどうかを意味します。営業活動によるキャッシュフローがマイナスということは、設備投資どころか借金の返済のためのお金も生み出せていないことになります。単純に業績が赤字というだけではなく、売掛金が未回収、在庫が増える、手付金を支払うことによってもキャッシュフロー悪化の原因となるので、注視しておく必要があります。
投資活動によるキャッシュフロー
固定資産の購入や売却、有価証券の売買など営業活動外で発生した入出金をいいます。設備投資は、営業キャッシュフローで稼いだお金の中から取得するのが、望ましいとされています。なお、「営業活動によるキャッシュフロー」と「投資活動によるキャッシュフロー」を合わせたものを「フリーキャッシュ」といい、これが借入金の返済額を上回ると銀行の評価は高くなり、資金調達の交渉がしやすくなります。
財務活動によるキャッシュフロー
銀行などからの借入れによる調達や返済、資本の受入れなど、負債や純資産の増減を伴う資金の入出金をいいます。利益が出ているのにお金が減っていく中小企業は多くありますが、これは売掛金の回収が遅れていたり、フリーキャッシュに対して財務活動のキャッシュ・アウトである銀行返済のペースが合っていなかったりすることが、原因として考えられます。
キャッシュフロー計算書の作成時に注意すべきポイント
最後にキャッシュフロー計算書を作るにあたって、注意すべきポイントを押さえておきましょう。
キャッシュフロー計算書を作るために必要なもの
キャッシュフロー計算書は、直近二期分の決算書(貸借対照表、損益計算書)があれば作ることができます。なお、固定資産台帳や借入一覧表、総勘定元帳などがあるとより詳細な分析ができます。
キャッシュフロー計算書を作る際の注意点
キャッシュフロー計算書は、「直接法」と「間接法」という2種類の計算方法があります。
「直接法」は、期首の現預金残高から「営業収支」「投資収支」「財務収支」をそれぞれ増減させていきます。その結果として、期末の現預金残高になるという本来の流れに合わせる形で作成する方法です。
「間接法」は、損益計算書の税引前利益を起点として、損益と収支に差が出る部分だけを修正して「営業キャッシュフロー」を算出。そこに「投資キャッシュフロー」と「財務キャッシュフロー」を加えて計算する方法です。
直接法は丁寧で詳細に分析する場合には優れているのですが、作成は非常に大変な作業です。実務では間接法で計算するケースの方が多いでしょう。
直接法と間接法、どちらで計算しても最終結論は1年間でどれだけ現預金が増減したかということです。キャッシュフロー計算書の結果は税金の計算には全く影響を与えないので、あまり細かく丁寧に作ることよりも全体像を把握するイメージでおおまかに作るのがポイントです。
まとめ
- キャッシュフローの目的は「資金が底をつかないようにすること」
- キャッシュフローを理解し財務状態を改善することで資金調達しやすくなる
- キャッシュ・インを増やしたりキャッシュ・アウトを減らしたりすることでキャッシュフローは改善する
- 新規の資金調達もキャッシュフロー改善に寄与する
- キャッシュフロー計算書は細かくしすぎるのではなく全体像を把握するイメージで作るのがポイント
キャッシュフローを理解して財務状態を改善し、資金調達をしやすくすることが重要です。先述の通り、中小企業でキャッシュフロー計算書を作っている会社は多くありません。つまり、キャッシュフロー計算書が作れるだけで他の会社に一歩差をつけることができます。ぜひ作成にチャレンジしてみてください。
※この記事は公開時点、または更新時点の情報を元に作成しています。
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この記事を書いた人
穂坂 光紀(ほさか みつのり)税理士
税理士法人 エンパワージャパン 代表税理士 1981年生まれ 横浜市在住
中小企業こそ日本を支える礎であるという理念から、持続可能な社会・持続可能な企業を創るための「中小企業のための財務支援プログラム」を実施することで強固な財務力を持つ優良企業に導く、中小企業の財務支援に専門特化した税理士事務所を運営するとともに、児童養護施設の児童から地域を支援する税理士へと導く「大空への翼プロジェクト」を行っている。共著「七人のサムライ」や執筆など多数。