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経営者が理解しておくべき財務諸表の目的と活かし方

「財務諸表」は、企業に作成が義務付けられている計算書類のことです。ここでは、事業者にとって避けることができない財務諸表の目的と活かし方について解説します。

この記事の目次

財務諸表の目的

財務諸表は、利害関係者等に業績や財務状態を報告するために作成するものです。ここでいう利害関係者とは、大きく「株主(出資者)」「債権者(銀行や取引先)」「諸官庁(税務署や監督官庁)」に分けられます。それぞれ会社法、民法、租税法などの法令を根拠に作成が義務付けられており、報告を怠ったり虚偽の報告をしたりした場合には、法令に基づき処罰の対象となります。

財務諸表の構成

財務諸表は、どこに提出するかによって提出する書類が異なります。財務諸表といってもその範囲は明確には決まっていないのですが、一般的には以下の書類を財務諸表と呼びます。

①貸借対照表(B/S)

②損益計算書(P/L)

③キャッシュフロー計算書(C/F)

④株主資本等変動計算書(S/S)

⑤付属明細書、個別注記表

①貸借対照表、②損益計算書、③キャッシュフロー計算書は特に重要な計算書類であり、「財務三表」と呼びます。また、税務署に提出義務のある①貸借対照表、②損益計算書、④株主資本等変動計算書、⑤個別注記表を「財務四表」と呼びます。

財務諸表作成上の注意点

財務諸表を作成するにあたってはいくつかの注意点があります。

財務諸表の作成義務は会社にありますが、その記載内容に関する全責任は経営者が負うことになります。例えば経理担当者や経営幹部が意図的に数字を操作して、その数字を基に財務諸表が作成された場合、その事実を知らなかったとしても責任は経営者が取ることになります。

税理士についても同様です。中小企業経営者の中には「税理士にすべて任せている」という方もいらっしゃいますが、税理士は「税務申告の代理」をしているだけで、財務諸表の内容に関しては一切責任を取りません。最低限の基礎知識は経営者が身につけておく必要があります。

なお、一度公表した財務諸表は基本的に変更することはできないことを覚えておきましょう。

財務諸表がそのまま会社の「信用」に

財務諸表は、会社の実績を外部に公表する資料として最も重要度の高い報告書です。利害関係者は会社の細かい内部事情まですべて把握することはできません。だからこそ、財務諸表という客観性のある資料に基づいてその会社の「信用度」を判断しています。特に銀行などの金融機関は、この財務諸表の結果によって融資を行うかどうか判断します。

利害関係者は、公表された財務諸表の内容が正しいことを前提に取引しています。したがって、粉飾決算や脱税など財務諸表の数字そのものを改ざんしていることが判明した場合、会社の信用はなくなります。

貸借対照表

ここからは「財務三表」ともいわれる「貸借対照表」「損益計算書」「キャッシュフロー計算書」について、それぞれの内容と関係性について解説していきます。まずは貸借対照表について見ていきましょう。

貸借対照表の概要

貸借対照表(B/S、バランス・シート)は、一定時点(決算日)における財政状態(資産、負債、純資産)を示す表です。プラスの財産(資産)とマイナスの財産(負債)、そして自己資本(純資産)を表示することで、「調達と運用の健全性」を把握できます。財務三表の中でも銀行が会社を評価するときに最も重視する資料といえるでしょう。

貸借対照表の正しい読み方

貸借対照表を見るときのポイントは、「どこから資金を調達してきたのか」と「その資金が現在どのように運用されているのか」という点です。

「どこから資金を調達してきたのか」という部分は、貸借対照表の右側(負債と純資産)に記載されます。資金の調達方法は、負債という形で他人から調達する他人資本と、出資または自ら稼ぎ出して調達する自己資本に分類されます。事業は資金調達から全てが始まりますので、その調達の源泉を知ることはとても重要なことです。

調達した資金は、「現預金」という形で会社に入ってきます。その後、商品や建物、車両やゴルフ会員権など事業に直接関係あるものからそうでないものまで、経営者の判断で資金は姿を変えます。これを「運用」と呼びます。

調達してきた資金が現在どのように運用されているのかは、貸借対照表の左側に「資産」として記載されます。資産の内容をチェックすることで、資金を効率的に運用しているのか、それとも非効率な運用をしているのか、経営者の運営方針がよく分かります。貸借対照表は、「調達した資金の源泉」と「それが現在どのように運用されているのか」という資金の流れから読み解くべきものといえます。

<貸借対照表のサンプル>

貸借対照表はなぜ「バランス・シート」と呼ばれるのか

貸借対照表はしばしば「バランス・シート」と呼ばれます。財務の大原則は、調達した資金の総量の範囲内でしか運用できないということです。「調達量=運用量」というバランスになるのが当然であり、これが「バランス・シート」と呼ばれる理由です。このほかにも、資産や負債の「残高(バランス)」を表すためこの呼び名になったとの考え方もあります。

貸借対照表で重要な自己資本比率

調達した資金の総量は「他人資本(負債)+自己資本(純資産)」となります。どちらも調達には変わらないのですが、負債によって調達した資金はいずれ返済する必要があります。そのため、同じ調達であれば自己資本によって調達できた方が会社にとっては健全であることは間違いありません。調達した総量のうち、自己資本の占める割合を「自己資本比率」といい、以下の式で計算します。

     (純資産合計) ÷ (負債合計+純資産合計)

これは、会社の健全性を測る指標としてよく使われるものです。業種によって平均値は異なりますが、中小企業の平均値はおよそ40%です(※1)。50%を超えていれば優良企業といえるでしょう。なお、赤字が続いて純資産がマイナスになってしまった状態を「債務超過」といい、銀行の評価は著しく下がりますので注意が必要です。

(※1)中小企業庁「令和元年中小企業実態基本調査(平成30年度決算実績)速報」

損益計算書

次に損益計算書について解説していきます。

損益計算書の概要

損益計算書(P/L、プロフィット・アンド・ロス)は、一定期間の経営成績を表すものと一般的には解説されます。もちろん、この解釈も間違ってはいません。しかし、これでは資産をどのように調達し、どのように運用しているかを確認できる貸借対照表との関連性がつかめません。経営者としては、調達した資金を運用して「本当に成果が出たのか」「利益がマイナスになっていないか」を確認する指標と捉えるべきでしょう。

損益計算書の正しい読み方

当期の収益を得るために運用された資金のことを「費用」と呼びますが、損益計算書では、収益からこの費用を引くことで、どれだけの利益があったのかを示す構造になっています。

多額の費用をかけたにも関わらず、収益がそれを下回る(赤字になる)ということは、言い換えると「運用に失敗した」ということになります。銀行からの資金調達は、資金を運用して利益を出すために「利益の前借り」をしたわけです。それにも関わらず赤字になったのであれば、調達した資金の運用に失敗したのだと判断できます。このように、損益計算書は運用の観点で読むようにしましょう。

損益計算書からわかること

損益計算書からは、費用を分類した以下の4つが把握できます。これらを見ていくと、会社経営の健全性が理解できます。

①売上と直接対応関係のある費用(売上原価)

②売上と直接対応はできないが営業上必要な費用(販売費及び一般管理費)

③営業外の費用であるが会社運営のためにかかる費用(営業外費用)

④臨時突発的に発生した費用(特別損失)

まず、売上から①の売上原価(仕入や外注費など)を差引きます。売上から売上原価を差引いて出てきた利益のことを「売上総利益(粗利)」といい、会社の事業費を賄う原資になります。売上と売上原価は相対比例関係にあるため「事業構造」ともいいます。

次に売上総利益から②の販売費及び一般管理費を差引いて「営業利益」を出します。営業利益は、本業で稼ぎ出した利益であり、これが借入金返済の原資にもなることから銀行は営業利益を重視します。

営業利益から③営業外費用を差引いて「経常利益」を出します。経常利益は、本業で稼ぎ出した利益だけではなく、財務活動や投資活動などによる結果も反映させたものです。会社全体の利益であり、同じく銀行が重視する利益といえます。なお、銀行からの借入利息は営業外費用となるため、銀行借入が多くなれば営業利益は黒字なのに経常利益は赤字といったことが起きます。

次に経常利益から④特別損失を差引いて「税引前当期利益」を出します。特別損失は突発的な損失であり、経常的に発生するものではありません。したがって、銀行は営業利益や経常利益ほどは重視しない傾向にあります。

税引前当期利益は、法人税等の税金計算の基礎となる利益であり、税引前当期利益から法人税等の負担を差引いたものを「税引後当期利益」といいます。最終的な運用の成果であり、この利益が貸借対照表の純資産に蓄積され、再び運用されていくという流れになります。

キャッシュフロー計算書

最後にキャッシュフロー計算書について解説します。

キャッシュフロー計算書の概要

キャッシュフロー計算書(C/F、キャッシュ・フロー)は、資金がどこから入ってきて、どこに出ていっているのかを明らかにする書類です。上場企業は有価証券報告書に添付義務がありますが、中小企業は提出義務がありません。したがって、中小企業で作成していることは少ないのですが、健全な経営のためには不可欠なものといえます(詳しくは後述します)。実際の入出金額をベースに作られるため、粉飾や操作ができる余地がない、信頼できる資料といえるでしょう。

キャッシュフロー計算書の読み方

キャッシュフロー計算書は、なぜ資金が増減したのか、その原因を中心に読み解きます。原因は次の3つに分かれます。

  • 営業活動によるキャシュフロー
  • 投資活動によるキャッシュフロー
  • 財務活動によるキャッシュフロー

商品・サービスを販売するなど通常の「営業活動」、固定資産や有価証券の売買といった「投資活動」、負債や純資産の増減を伴う資金の入出金を指す「財務活動」。それぞれでお金が増えたのか減ったのかを見ることで、経営の健全性やリスクなどを読み解いていくのです。

キャッシュフロー計算書からわかること

キャッシュフロー計算書からは、資金が正しく運用できているか、キャッシュを確実に回収できているかどうかがわかります。同時に資金がなぜ増えたのか、なぜ減ったのかも一目瞭然です。

自分の会社の資金の流れを把握していれば、資金調達が必要な時期の予測ができます。また、銀行と交渉して借入を一本化したり、返済期間を延ばしたりなどの対策も取れます。

まとめ

  • 財務諸表は会社の「信用度」を測る最も重要な書類
  • 貸借対照表は銀行が最も重要視する「調達と運用」の指標
  • 損益計算書は「調達した資金の運用成果」をあらわす指標
  • キャッシュフロー計算書は「お金の循環の正常性」をあらわす指標

今回は財務諸表(貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書)について、財務という観点から解説させていただきました。表面的に理解するのではなく、実用性のあるものとして捉えることが、財務諸表活用の第一歩です。

※この記事は公開時点、または更新時点の情報を元に作成しています。

この記事を書いた人

穂坂 光紀(ほさか みつのり)税理士

税理士法人 エンパワージャパン 代表税理士 1981年生まれ 横浜市在住

中小企業こそ日本を支える礎であるという理念から、持続可能な社会・持続可能な企業を創るための「中小企業のための財務支援プログラム」を実施することで強固な財務力を持つ優良企業に導く、中小企業の財務支援に専門特化した税理士事務所を運営するとともに、児童養護施設の児童から地域を支援する税理士へと導く「大空への翼プロジェクト」を行っている。共著「七人のサムライ」や執筆など多数。

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