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労災とは?概要や休業補償の額・内容をわかりやすく解説

労災

「労災保険」は、従業員が業務や通勤が原因でけがや病気、死亡に至った際、治療費や休業補償など必要な保険給付を行う制度です。法人、個人を問わず、従業員を雇用する際には、労災保険の基礎知識を理解しておくことが重要です。この記事では、労災保険の概要や適用範囲、補償内容などをわかりやすく解説します。

この記事の目次

労災と労災保険の基礎知識

まずは労災と労災保険の基礎や仕組みを確認しましょう。

労災

労災とは「労働災害」のことです。労働基準法では、労災が発生した場合、雇用主が被災した従業員やその遺族に補償を行うことを義務づけています。

労災保険

前述したとおり、労災保険は労災事故が発生したときに、すばやく被災労働者やその遺族を保護するための制度です。同時に、従業員の社会復帰の促進など、従業員の福祉の増進を図るための事業も行われています。

原則として、従業員を1人でも雇用する事業者は、労災保険に加入しなければなりません。外国人従業員、アルバイト、パートタイマーであっても労災保険の適用対象となります。

補償の主要な部分を、雇用主に代わり国が直接保険給付を行う制度として、労働者災害補償保険(労災保険)制度が導入されました。通勤災害に対する雇用主の補償義務は、労働基準法上の義務には含まれていませんが、労災保険においては業務災害と同様の補償がなされます。

どのようなけが・病気が労災になる?

労災保険の保険給付には、大きく分けて「業務災害」に関する保険給付、「通勤災害」に関する保険給付、「複数業務要因災害」に関する保険給付と「二次健康診断等給付」の4つがあります。それぞれみていきましょう。

業務災害

業務中に発生したけがや病気のことを「業務災害」といいます。業務中のけがや病気と認められるためには、「業務遂行性」と「業務起因性」という2つの要件が必要となります。

業務遂行性

従業員が労働契約にもとづいて事業主の支配管理下にある状態のこと

業務起因性

業務に起因して災害が発生し、その傷病等との間に相当の因果関係があること

業務中のけがについては、業務とは関係のない私的行為や業務逸脱行為、地震や台風などの自然災害でなければ、基本的に業務災害として認定されることが多いようです。

一方で、業務中の病気(長時間労働によるうつ病など)については、労災認定を受けることが難しいといわれています。業務が原因による発症であることを、医学的な観点から証明することが難しいからです。

なお、業務中の病気について、2019年までで最も多いものは、「負傷に起因する疾病(災害性腰痛)」でしたが、2020年以降は「病原体による疾病(うち新型コロナウイルスり患によるもの)」となっています。

通勤災害

通勤中に発生したけがや病気のことを「通勤災害」といいます。具体的な例では、通勤中の交通事故や階段での転倒、落下物による負傷などが挙げられますが、通勤中のけがや病気がすべて通勤災害になるわけではなく、通勤とけがや病気との間に、相当な因果関係が必要となります。

労災保険において「通勤」とは、住居と就業の場所(会社等)との間の往復を「合理的な経路および方法」により行うこととされています。

通勤形態(通常、複数就業者、単身赴任者)

出典:厚生労働省「労災保険給付の概要」を加工
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001241566.pdf

「住居」とは、通常、従業員が居住している場所で、就業の拠点となる場所を指します。したがって、必ずしも自宅になるわけではなく、天災等により、会社近くのホテルに宿泊している場合には、そのホテルが「住居」となります。

複数の会社で兼業している場合は、住居から出発して最初の勤務先が「就業(開始)の場所」となり、最後の勤務先が「就業(終了)の場所」となります。

単身赴任者の場合は、単身赴任先住居と帰省先住居との間の移動も通勤と認められます。ただし、原則として、就業日とその前日または翌日までに行われる移動が、労災保険が適用される「通勤」と認められますので、注意が必要です。

複数業務要因災害

「複数業務要因災害」とは、複数の会社や事業主に雇用されている従業員がけがや病気となった場合、すべての勤務先の負荷(労働時間やストレス等)を総合的に評価して、労災認定できるかどうかを判断する制度です。対象となる傷病等は脳・心臓疾患や精神障がいなどです。また、保険給付額はすべての就業先の賃金額を合算した額を基礎として決定されます。

二次健康診断等給付

近年、定期健康診断による有所見者が増加するなど、健康に問題を抱える従業員が増加傾向にあります。また、業務によるストレスや過重負荷により脳・心臓疾患を発症し、労災認定される件数も増加傾向にあります。二次健康診断等給付は、労働安全衛生法にもとづく職場の定期健康診断等で異常の所見が認められた場合に、脳血管・心臓の状態を把握するための「二次健康診断(空腹時血中脂質検査等)」と、脳・心臓疾患の発症の予防を図るための「特定保健指導(栄養指導等)」を1年度内(4月1日から翌年の3月31日までの間)に1回、無料で受診することができる制度です。

労災保険が適用されないケース

事業主の支配管理下にあっても、下記の場合には、原則として業務災害とは認められません。

  • 就業中に私的行為または業務を逸脱する恣意的行為をしていて、それが原因となって災害を被った場合
  • 故意に災害を発生させた場合
  • 個人的なうらみなどにより、第三者から暴行を受けて被災した場合
  • 地震や台風などの自然災害によって被災した場合

逸脱と中断の違い

出典:厚生労働省「労災保険給付の概要」を加工
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001241566.pdf

通勤災害において、通勤の途中で通勤とは関係のない行為(食事や趣味の活動など)を行ってしまうと、その行為中とその後の移動は通勤と認められなくなります。就業や通勤と関係のない目的で合理的な経路をそれることを「逸脱」、就業や通勤と関係のない行為をすることを「中断」といいます。

逸脱と中断の違い(厚生労働省が定めるものの場合)

ただし、店での日用品の購入、病院・診療所で診療を受けるなどの最小限のものである場合は、その逸脱または中断の間を除き、再び合理的な経路に戻った後は、通勤とみなされます。

労働保険料

労働保険料は、従業員に支払う賃金総額(賞与や通勤手当等を含めた総額)に保険料率(労災保険率+雇用保険率)をかけた額です。

労災保険料は全額事業主負担、雇用保険料は事業主と従業員双方で負担することになっています。2024年度の労災保険料率は、事業の種類により賃金総額の2.5/1000から88/1000、雇用保険料率は、下記の表のとおりとなっています。

<2024年度の雇用保険料率>
事業の種類 保険率 事業主負担率 従業員負担率
一般の事業 15.5/1000 9.5/1000 6/1000
農林水産
清酒製造の事業
17.5/1000 10.5/1000 7/1000
建設の事業 18.5/1000 11.5/1000 7/1000

事業規模が一定以上(原則として、20人以上の事業所)であると、労災事故に伴い労災保険料が上がることがあります。これはメリット制と呼ばれ、災害発生率の低下を目指し、成果を保険料に反映させることで、事業場間の負担を公平にするための制度です。

労災保険の補償内容

それでは、労災事故が発生した場合、どのような補償があるのかみていきましょう。

複数の企業や事業主に雇用されている従業員がけがや病気をした場合は、すべての勤務先の賃金額を合算した額と、すべての勤務先の負荷(労働時間やストレス等)を総合的に評価して、労災保険給付の対象となるかどうかが判断され、保険給付額が決められます。

そのため、雇用主は、兼業をしている従業員の状況を適宜確認し、過重労働などには十分注意するよう促すことが必要です。

療養(補償)等給付

療養(補償)等給付は、診察や治療を必要とするときに、治療費や薬代などが療養の給付(原則として現物給付)として労災保険給付の対象である従業員に支給されます。

休業(補償)等給付

休業(補償)等給付は、下記の3つの要件を満たした場合に、第4日目から支給されます。なお、業務災害の場合、給付を受けることができない最初の3日間については、雇用主が休業補償を行わなければなりません。

  • 業務上のけが・病気により療養していること
  • 療養のために労働することができないこと
  • 賃金を受けていないこと

休業(補償)等給付を受ける権利は、支給要件を満たす日ごとに発生し、その額は、原則として、1日につき給付基礎日額(≒平均賃金)の80%相当額(うち20%は特別支給金)が労災保険給付の対象である従業員に支給されます。

傷病(補償)等年⾦

傷病(補償)等年⾦は、療養開始後1年6カ月を経過しても治ゆ(※)せず、傷病等級(1~3級)に該当するときに、その状態が継続している間、給付基礎日額の245日~313日分が年金として労災保険給付の対象である従業員に支給されます。
※完治した場合だけでなく、症状が安定し、医学上一般に認められた医療を行っても、その医療効果が期待できない状態になったことも含まれます。

障害(補償)等給付

障害(補償)等給付は、傷病が治ゆしたとき、身体に一定の障がいが残った場合、障がいの程度に応じて年金または一時金として労災保険給付の対象である従業員に支給されます。

<障害(補償)等年金>
障害等級 給付基礎日額
第1級 313日
第2級 277日
第3級 245日
第4級 213日
第5級 184日
第6級 156日
第7級 131日
<障害(補償)等一時金>
障害等級 給付基礎日額
第8級 503日
第9級 391日
第10級 302日
第11級 223日
第12級 156日
第13級 101日
第14級 56日

遺族(補償)等給付

遺族(補償)等給付は、業務上のけがまたは病気により亡くなった従業員の死亡当時、その収入によって生計を維持していた一定の遺族等に対し、年金または一時金として支給されます。

<遺族(補償)等給付額>
遺族数 遺族(補償)給付額
1人 年金給付基礎日額の 153日分
1人
(55歳以上の妻または障がいの状態にある妻)
175日分
2人 201日分
3人 223日分
4人以上 245日分

介護(補償)等給付

介護(補償)等給付は、一定の障がいにより傷病(補償)等年金または障害(補償)等年金を受給し、かつ、現に介護(常時または随時)を受けている場合に、月を単位として労災保険給付の対象である従業員に支給されます。

個人事業主でも加入は必要?労災保険への加入条件

労災保険は通常、従業員の業務災害や通勤災害に対する保護を目的とした制度であり、そのため中小事業主や自営業者などは保護の対象外とされます。また、国内の事業所で雇用されている従業員が対象となるため、海外での就労者も保護の対象外です。

しかし、中小事業主や自営業者などの一部には、自身の業務や災害の発生状況を考慮し、従業員と同等の保護が適切であると認められる人がいます。また、外国の労災補償制度の適用範囲や給付内容が不十分な場合、労災保険による保護が必要な場合もあります。

こうしたニーズに応えるために、特別加入制度が設けられています。中小事業主等、一人親方その他の自営業者(フリーランス等)、特定作業従事者、海外派遣者が一定の要件を満たした場合に特別加入できます。

特別加入するためには、特別加入申請書を労働保険事務組合や都道府県労働局長の承認を受けた特別加入団体(一人親方等の団体など)などを通して、所轄の都道府県労働局に提出することが必要です。

労災が起きた場合雇用主が負う責任は?

労災が起きた場合の雇用主に対する責任を民事上、刑事上、行政上の観点で整理してみます。

民事上の責任として、労災事故が発生した場合に、例えば法令の規定に違反して事故が発生した場合など、不法行為や債務不履行(安全配慮義務違反)がある場合には、労災保険給付額の限度を超える損害について、雇用主は民事上の損害賠償責任を負わなければならないことがあります。

安全配慮義務違反を理由とする損害賠償では、後遺症等による精神的損害に対する慰謝料は、労災保険から給付されません。また、休業補償は労災保険給付の対象となっていますが、前述のとおり、平均賃金の80%相当額しか支給されません。したがって、雇用主に帰責事由がある場合には、労災給付されない民事上の損害について賠償しなければならない可能性があります。

刑事上の責任として、労災が発生した場合、労働基準監督署にその労災を報告(労働者死傷病報告)しなければなりません。故意に報告しなかったり、虚偽の報告を行ったりした場合には、いわゆる労災隠しとして刑事責任が問われることがあります。また、刑法上の業務上過失致死傷罪等に問われることもあります。

行政上の責任として、労働安全衛生法違反や労災発生の急迫した危険がある場合には、機械設備の使用停止や作業停止等の行政処分を受けることがあります。

労災を申請する方法

事業主(建設業では元請負人)は、被災した従業員の労災申請にあたり、必要な証明を求められたときは、すみやかに証明をしなければなりません(労災であることを争う余地がある場合を除きます)。

労災申請は、被災者本人が作成する書類ですが、多くの場合、会社がその作成を支援しています。

下記は、療養(補償)等給付申請の手続きの流れです。

療養(補償)等給付申請の手続きの流れ

まとめ

  • 労災とは「労働災害」のことで、労災保険はいつ発生するかわからない労災から、従業員とその家族(遺族)を保護する制度
  • 業務中や通勤中のけがや病気がすべて労災になるわけではなく、「業務(通勤)遂行性」と「業務(通勤)起因性」が認められる必要がある
  • 労災が発生すると、補償上の責任(災害補償)のほか、民事上の責任、刑事上の責任、行政上の責任も発生する

労災保険は、従業員の安全と健康を守り、安心して働ける環境を提供するために不可欠な制度です。その仕組みと重要性を理解し、1人でも従業員を雇用することになったら、速やかに加入するようにしてください。また、必要に応じて上乗せ補償を検討することも考えられます。

※この記事は公開時点、または更新時点の情報を元に作成しています。

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この記事を書いた人

塘 賢三(とも けんぞう)社会保険労務士

とも社会保険労務士事務所 代表 1975年生まれ 熊本市在住

経営者や個人が抱える悩みに寄り添い、労使間のトラブル解決やトラブル予防のためのアドバイスを得意としている。

「すべての人が自分の人生に誇りを持って生きていける社会の実現」を目指し、社会保険労務士としてできることを通じて、社会課題の解決に向け、日々尽力している。

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