【医療サロン】サービスメニュー作成の流れや考え方のポイント
開業に向けて経営理念や事業コンセプトが決まったら、提供するサービスを検討していく段階となります。事業開始後にサービスメニューや価格の変更が多く発生することは顧客離れの原因にもなるため、しっかりと考える必要があります。
本記事では、治療院(はりきゅう、マッサージ)、整骨院、整体院、美容・エステ・リラクゼーションサロンのサービスメニューの作成について説明していきます。
この記事の目次
サービスを考える時に最も大切なこと
提供するサービスを考えていくにあたっては、バリュープロポジション(Value Proposition)を念頭に置くことが大切です。
バリュープロポジションは直訳すると「価値提案」の意味です。顧客のニーズに対して、競合が提供していない、自社のみが提供できる価値を明確にすることです。
バリュープロポジションを見つけることで、顧客に対して「その顧客が必要とするサービスを、競合他社よりも高い価値で提供」することが可能となります。
開業にあたって多くの事業者は、得意な技術などの強みから「自社が提供できる価値」を重視し、自社が作りたいサービスを作る傾向があります。しかし、どんなに自社が良いと思ったサービスであっても、顧客のニーズがなければ全く売れません。一番重要なのは、「顧客が求める価値」であり、どれだけ顧客が欲しがるサービスを提供できるかにあります。
市場分析(競合はどんなサービスを並べているか?)
サービスメニューを考える際の市場分析で押さえておきたい2つの観点があります。それは、「商圏の把握」と「競合他社の把握」です。以下で必要な調査内容について順に説明します。
1.商圏を見直す
サービスを考えるにあたり、最初に何をするべきでしょうか?
開業する商圏の特徴をあらためて把握する「商圏分析」です。事業コンセプトを設計した際に既に検討したという方も、商圏分析はサービスメニューを考える際にも必要な要素ですから、予定している「店舗の立地」と「商圏の情報」を見直して、書き出してみましょう。そして、以降の競合他社との比較、サービス企画、売上計画を考える際に活かしましょう。
- 店舗の立地
都心部か、郊外か、オフィス街か、住宅街か、商店街か、駅から近いか、ロードサイドか……など - 商圏の情報
商圏における人口数・世帯数および推移、昼間人口や夜間人口、男女比、年齢比、平均所得、近隣で多い業種、駅の乗降客数、競合他社の数はどのくらいあるのか……など
例えば店舗の立地がオフィス街でIT企業が多ければ、「デスクワークが多く、同じ姿勢で目を酷使する方が多いのではないか」。また商圏でスポーツに力を入れている学校や企業団体などがあれば「スポーツ障害やパフォーマンス向上を求める方が多いのではないか」。
上記は、簡単な一例ですが、このようにサービスメニューを考えるためのヒントが多くあるはずです。
2.競合他社と比較する
競合他社と自社の特徴を以下のような表にして比較・分析することで、「競合が提供していない価値」を明確にしていきます。競合他社の情報のほとんどは、インターネット上で取得できると思いますので、参考にしながら項目を埋めていきましょう。
主な項目は、コンセプト、顧客ターゲット(年齢、性別、職業、所得、どんな悩みを抱えているかなど)、サービスメニュー、サービス価格、サービスの提供方法(対面、訪問、オンラインなど)、販促手法(webサイトの有無、SNS、ブログ、チラシ、広告など)、立地(最寄り駅から徒歩やバスで何分、国道沿いなど)、強み、弱み、などです。
自社 | 競合他社A | 競合他社B | |
---|---|---|---|
コンセプト | オーダーメイドの施術 | 外傷・スポーツ疾患への治療 | 気軽に立ち寄れるリラクゼーション |
顧客ターゲット | やや富裕層 | 近隣の中高齢者、スポーツ学生 | 仕事帰りの会社員、主婦 |
サービスメニユー | 自費施術がメイン | 急性疼痛に対する保険適用施術 | 自費施術がメイン |
サービス価格 | やや高価格 | 低価格 | 一般的な価格で幅広く設定 |
サービスの提供方法 | 店舗 | 店舗、訪問(一部) | 店舗、オンラインでの運動指導 |
販促手法 | ウェブサイト、チラシ配布 | 他社ポータルサイト、利用者の口コミ | ウェブサイト、SNS、駅広告、チラシ配布 |
立地 | 駅近くのマンション3階 | 住宅街 | 駅近くの商業施設内 |
強み | 代表者の幅広い経験(病院、専門治療院、リラクゼーションサロンなど) | 高い治療技術 | 手軽さ、入店しやすさ、認知度の高さ |
弱み | 新規開業で店舗が3階のため認知されづらい | 近隣住民以外の認知度の低さ | 痛みを伴う症状への専門性の低さ |
比較して気付いたこと | 競合Aは急性疼痛の治療、競合Bは健康管理としてのリラクゼーションがメインとなっている。自社は保険適用とならない「慢性の痛みに対する治療」での自費診療がメインとなり、競合しないことから、このポジションでのサービスは商圏でのシェアを獲得できそうだ。また、美容メニューを取り入れることで差別化も図れそうだ。 販促手法は認知度向上のために、コストのかからないSNSなどの活用も取り入れたい。また、オンラインによる無料相談をおこなうことで新規顧客獲得につながりやすくなりそうだ。 |
このように、競合他社との比較・分析から、競合が提供していない価値を見出すことが、差別化したサービスや付加価値の高いサービスを提供することに繋がります。
企画(店舗や事業コンセプトに沿った内容を考える)
次に、自社の店舗や事業コンセプトに沿ってサービスを作り上げていきます。それには4P(マーケティング・ミックス)というフレームワークを活用するとよいでしょう。
4Pとは「製品・サービス(Product)、価格(Price)、流通・チャネル(Place)、プロモーション(Promotion)」の頭文字から命名されたフレームワークです。この4つの観点からサービスメニューを検討していきますが、個別に考えるのではなく、それぞれの項目を上手く組み合わせることが大切です。
製品・サービス (Product) |
|
---|---|
価格 (Price) |
|
流通・チャネル (Place) |
店舗、オンライン(無料相談) |
プロモーション (Promotion) |
|
4Pは、サービスを考える上で最も重要な概念といえます。
どんなに魅力的なサービスでも、その情報が顧客に正確に伝わらなければ購入にはつながりません。そして、そのサービスがどこで提供されているのかわからなければ、購入しようにもできません。また顧客が店舗でサービスを受けたとしても、その価格が期待していたものと大きく異なっていたら、継続利用には至らず口コミや新たな顧客の紹介などにもつながらないためです。
ただし4Pは企業(売り手)の視点に立った考え方であるため、顧客(買い手)視点に立って次のように比較検討することも必要です。
- 製品・サービス(Product)
顧客が価値をどこにおくものか - 価格(Price)
顧客が納得できるコスト(費用・時間)か - 流通・チャネル(Place)
顧客が購入するまでの一連の流れ(予約、問い合わせ、決済)としてスムーズか - プロモーション(Promotion)
顧客に対して有益な情報を発信しているか
またサービス業においては、人・参加者(People)、プロセス(Process)、物的環境・証拠(Physical evidence)の3Pを追加した「7P」で考える場合があります。
- 製品・サービス(Product)
機能、性能、品質、特長、ネーミング、ブランド、オプション、保証、アフターサポートなど - 価格(Price)
標準価格、販売条件、値引き条件、支払い方法(前払い、COD、後払い)、支払い期限など - 流通・チャネル(Place)
販売場所(店舗、訪問、オンライン、eコマース)、立地、販売エリアなど - プロモーション(Promotion)
広告宣伝、販売促進、人的販売、PRなど - 人・参加者(Personnel)
顧客にサービスを提供する要員(提供者、顧客、スタッフ、協力者) - プロセス(Process)
サービス提供方法、業務プロセス、方針と手順、教育・報奨制度、生産・納期スケジュール - 物的環境・証拠(Physical Evidence)
サービスが提供される環境(モノの配置、素材、形・ライン、照明、色、温度など)サービスが提供された証拠(レシート、会員証、ポイントカードなど)
売上計画を考える(粗利を予測する)
売上が全て利益となる訳ではないため、サービスに付随して発生するコストを差し引いて、売上計画を考える必要があります。
売上は客数(新規・リピート)×客単価で決まるため、この2つの要素を予測して売上計画を考えていきます。
- 客数
4Pで決めたプロモーションにより、新規顧客数やリピート顧客数(リピート率)がどのくらい見込めるかを予測します。実際に一日に対応できる顧客数の上限を、店舗営業時間、サービス提供時間、施術ベッド数、ベッド稼働率、施術者数を用いて算出し、把握しておきましょう。 - 客単価
サービス内容に対して、適正な価格設定をおこない、どの程度の売上となるのかを予測していきます。
価格設定
価格設定はさまざまな要因の影響を受けますが、価格の下限は「サービス提供コスト」であり、価格の上限は顧客が認める価値である「カスタマーバリュー」となります。
価格設定の方法は大きく分けると次の3つの視点で検討することができます。
- 自社視点
コストを考慮して価格を設定します。適切な利益を確保することとサービス提供コスト増加のリスクを最小化することが重要になります。自社視点での価格設定は簡単ではありますが、一方で顧客が払ってもいいと考える価格よりも低い価格を提示してしまう(得られるはずの利益を逃してしまう)リスクがあります。 - 顧客視点
顧客が認識する価値(カスタマーバリュー)に焦点を合わせ、需要を考慮して価格を設定します。前述通り「カスタマーバリュー」は価格の上限となるため、適切な価値が提供できるサービスであれば、事業者にとって最も利益が上がることになります。 - 競合視点
差別化されていないサービスである程度の競争がある場合には、競合他社の価格を考慮して価格設定します。低価格競争となりやすいため、事前に何らかの差別化を図る必要があります。
売上総利益(粗利)の予測
売上計画を予測する上で、実際の利益は販売価格からコストを差し引いたものであるため、サービスに関するコストを事前に把握しておく必要があります。
サービス提供に付随して発生するコストを「売上原価」と呼び、売上から売上原価を減したものを「売上総利益(粗利)」といいます。
売上原価はサービスに付随して使用する材料や消耗品で、施術に使用するはり、きゅう、オイル、固定具などが該当します。
株式会社TKCの「TKC経営指標※」令和3年版によると、によると、按摩マッサージ師・鍼灸師・整復師の施術所で、黒字企業の平均売上総利益率(限界利益率)は95.6%、売上原価は約5%と、ほとんどかかりません。
そのためサービス毎のコストをどう定義するかによりますが、より実態を反映したコストを見積もる場合には、提供時間に対応した人件費やサービス提供にかかった教育費・設備投資費も加味する必要があります。
例えば、サービスメニューが60分6,000円、売上原価が5%、施術者の60分あたりの人件費が1,500円(1日8時間で週5日勤務、月給24万)、サービスの外部教育費や設備導入なしの場合
売上6,000円-原価300円-人件費1,500円=粗利4,200円
……などと考えるとよいでしょう。
※データを見るにはTKC会員への登録が必要です
仕入計画を立てる
売上計画で予測したサービス提供数(客数)から、売上原価となる商品をどれだけ仕入れるかを決めていきます。
仕入れ量はサービス提供数と連動するため、「何を」「どこから」「どんな仕入条件で」を考えて計画的におこない、過剰在庫にならないように仕入れをすることが大切です。
また仕入先の数はあまり多くならないように、必要な商品を、必要な時期に安定的に供給してくれるところを選ぶようにしましょう。
まとめ
- サービスを考える際は、顧客のニーズに対して自社のみが提供できる価値を明確にすることが大切
- 「製品・サービス(Product)、価格(Price)、流通・チャネル(Place)、プロモーション(Promotion)」の4Pのフレームワークを活用しサービス内容を決めていく
- 客数×客単価の2つの要素を予測して売上計画を考える
開業当初は、早期に顧客獲得を実現して安心感を得たいと考えることから、サービスを低価格に設定してしまう事業者が多く見受けられます。しかし、極端に利益が上がらないサービスがあると、店舗での施術業務は忙しいのに利益が上がらず、従業員の給与にも反映できないばかりか通常業務で疲弊してしまうという現象が起きてしまいます。そのため、カスタマーバリューを意識したうえで、仮に価格設定を高くしても、その価格に見合った価値のサービスにしていく努力が必要です。
※この記事は公開時点、または更新時点の情報を元に作成しています。
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この記事を書いた人
飯塚 伸之(いいづか のぶゆき)株式会社BE NOBLE 代表取締役
株式会社BE NOBLE 代表取締役、法政大学経営大学院特任講師、MBA(経営管理修士)
整形外科等の勤務経験を活かし、施術ビジネス(治療院・接骨院など)業界のコンサルティング事業、企業・法人向けの健康経営コンサルティング事業、出張施術サービス事業をおこなっている。中小企業診断士/健康経営エキスパートアドバイザー/キャリアコンサルタント/産業カウンセラー/鍼灸師/柔道整復師等の資格を保有。HP:https://benoble.co.jp/