【初心者向け】開業届の書き方や提出先など業種別の必要提出書類も掲載

事業主として開業をする時は、開業届を国や都道府県へ提出します。住所によって開業届の名前が異なったり、業種によっては開業届と併せて提出が必要な書類もあります。なにを、どこに、いつまでに提出すればよいかを丁寧に解説します。
この記事の目次
開業届は「税務署」宛と「都道府県税事務所」宛の2種類がある
開業届とは、個人事業主が開業したことを必要な管轄へ届け出る書類のことを言います。業種によって必要な届出書と管轄が異なりますが、どの業種にも共通するのが、「税務署に提出する開業届」と「都道府県税事務所に提出する開業届」です。
税務署は所得税や消費税などの国税と言われる税を管轄し、都道県税事務所は個人事業税などの地方税を管轄します。
税務署に提出する開業届の正式名称は「個人事業の開業・廃業等届出書」と言います(法人の場合には「個人事業の開業・廃業等届出書」ではなく、「法人設立届」を税務署に提出します)。
都道府県税事務所に提出する開業届の正式名称はありません。東京都の場合「事業開始(廃止)等申告書」、神奈川県の場合には「個人事業開業・休業・廃業届出書」と言います。(法人の場合はこれらの書類ではなく、「法人設立届」を都道府県税事務所に提出します)
また業種によっては、税務署や都道府県税事務所以外の場所に提出が必要になることがあります。こちらは記事の最後の章に、飲食店・美容サロン・医療サロン・小売店の業界別必要提出書類を記載していますので、参考にしてください。
1.「個人事業の開業・廃業等届出書」の書き方
「個人事業の開業・廃業等届出書」は、税務署への提出が義務付けられている書類です。国税庁ホームページ「[手続名]個人事業の開業届出・廃業届出等手続」から所定のフォーマットをダウンロードできます。また、印刷が面倒だという方は、税務署に用紙がありますので、税務署に取りに行くことで入手可能です。
記入欄が多いので、どこに何を記入するのかを解説します。
箇所 | 内容 |
---|---|
①題名 | 「個人事業の開業・廃業等届出書」の「開業」に〇を付ける |
②税務署 | 住所地の管轄税務署を記入 |
③日付 | 提出日を記入 |
④納税地 | 住所地、居所地、事業所等の該当箇所に〇を記入郵便番号及び上記住所と電話番号を記入 |
⑤氏名 | 氏名とフリガナを記入 |
⑥生年月日 | 自身の生年月日を記入 |
⑦個人番号 | 自身のマイナンバーを記入 |
⑧職業、屋号 | 事業の内容、屋号がある場合屋号を記入 |
⑨届出の区分 | 開業、新設に〇を付ける、住所と氏名を記入 |
⑩所得の種類 | 不動産、山林、事業のいずれかに〇を付ける ※一般的には事業の方が多いです |
⑪開業・廃業等日 | 開業日を記入(一般的には営業開始日です) |
⑫⑬開業・廃業に伴う届出書の提出有無 | 青色申告を採用する場合や消費税の課税がある場合、それぞれ開業届とは別に、「青色申告承認申請書」や「消費税課税事業者選択届出書」を提出する必要がありますが、一緒に提出するものについては「有」に〇をつけ、提出するものが無い場合には「無」に〇を付けます |
⑭事業の概要 | これから始める事業の内容をできるだけ詳細に記入します |
⑮給与等の支払の状況 | 給与支払いをする場合にそれぞれ区別して人数を記入します 専従者(配偶者や親族のこと) 使用人(従業員のこと) |
給与の定め方 固定給や時給などを記入します |
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税額の有無 給与金額が8万円以上を超える場合など所得税が発生する場合には有に〇を付けます |
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⑯源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書の提出の有無 | 税額の有無の欄に「有」と〇を付けた場合には、給与支給時に源泉徴収を行います。この源泉徴収は原則として毎月給与から差し引き翌月に税務署へ納税することになりますが、年二回の納税を簡素化することができます。簡素化するために必要な書類として「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を開業届と一緒に提出する必要があります。この書類を提出する場合には、「有」に〇を付けてください |
⑰給与支払を開始する年月日 | 給与を支払う予定の方は、給与支払いを開始する予定日を記入してください |
上記の内容に漏れがあっても税務署での受付を拒否されることはありませんが、できる限り漏れなく、詳細に記入するようにしてください。なお、未定の欄については記入がなくても問題ありません。
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(参考)「消費税課税事業者選択届出書」の提出の有無について
「開業・廃業に伴う届出書の提出有無」の欄に関して、「青色申告承認申請書を一緒に提出するのはわかりますが、消費税が2年間免税になるのに、なぜ課税事業者選択届出書の欄があるのですか?」という質問を受けることがあります。基本的には、「消費税課税事業者選択届出書」を一緒に提出する必要はないのですが、例えば物販の事業で輸出をする場合、「消費税課税事業者選択届出書」を提出した方が税金面で有利になる場合があります。輸出事業の場合、開始年度から「消費税が還付」されることがあるため、消費税課税事業者を選択する方がキャッシュフローは良くなります。なお、「消費税課税事業者選択届出書」を提出しなかった場合には、この消費税の還付は受けられません。
2.都道府県税事務所に提出する開業届の書き方
東京都で開業したことを届け出る書類は「事業開始(廃止)等申告書」、神奈川県では「個人事業開業・休業廃業届出書」、千葉県では「個人の事業の開始等の報告書」と呼ばれています。このように、都道府県税事務所に提出する開業届は提出先の都道府税県事務所によって名称が異なりますので、注意が必要です。ただし、記入する内容に大きな差はありません。東京都の「事業開始(廃止)等申告書」を参考に記入内容を見ていきましょう。
箇所 | 内容 |
---|---|
所在地 | 住所と電話番号を記入 |
名称、屋号 | 屋号がある場合屋号を記入 |
事業の種類 | 事業内容を記入 |
住所 | 住所を記入。なお所在地と同住所の場合同上と記入 |
氏名、フリガナ | 名前とフリガナを記入 |
開業・廃止・変更等の年月日 | 開業日を記入 |
事由等 | 開始に〇を付ける |
末尾 | 提出日と氏名、届け出る都税事務所を記入 |
税務署に提出する開業届と比較すると、記入する箇所は少ないです。
なお、事業開始(廃止)等申告書は、個人事業主を廃業し、法人を設立する「法人成り」をする際にも提出が必要です。この場合には、事業開始(廃止)等申告書の法人設立欄にて、設立した法人の名称や所在地、設立日などを記入します。
開業届を出すと「屋号付銀行口座」を持てるなどのメリットがある
このように開業届は、開業時に必ず提出を求められる書類ですが、出すことによって何ができるようになるのか、また出さないとどのようなデメリットが生じるのでしょうか。
開業届を提出するメリットには、開業届を提出すること自体のメリットと、開業届と他の書類をセットで提出することによるメリットがあります。下記でメリットの一例を具体的に解説します。
開業届を出すメリット
屋号付き銀行口座の開設
お店の名前やネットショップの名前などを開業届に屋号として記載しておくことで、名称が正式に税務署で登録されることになります。そして「個人事業の開業・廃業等届出書」が公的な書類として認められるので、これを使用し屋号付きの銀行口座を開設することができるようになります。屋号付きの銀行口座を所有していると、個人と事業の口座を分けていると認識してもらえるので、たとえば取引先からの信頼を高めることができます。
青色申告による税務メリット
青色申告をするためには、「青色申告承認申請書」と開業届を必ずセットで提出する必要があります。青色申告を行うと、事業所得が最大65万円圧縮され、支払う税金を減らすことができます。
事業内容の証明性
融資を受ける場合など、事業を実際に行っているのか、またどのように行っているのか、開業したのはいつなのか、などを判断するために解答を求められることがあります。開業届を融資の際に提出すれば、開業時の状況と現状を比較することができるため、融資担当者が事業をより深く理解することができ、実態を証明しやすくなる効果があります。
このとき開業届の情報が不鮮明であると、融資担当は正しい判断ができないため、前述の開業届の書き方を熟読し、なるべく丁寧に・漏れなく記入するようにしましょう。
開業届を出さない場合のデメリット
開業届を税務署や都道府県税事務所へ提出しなかった人に対し、罰則があるわけではありませんが、前述のメリットは得られなくなります。
開業届の提出先は「自宅住所に近い税務署」と「事業所に近い都道府県税事務所」
1.「個人事業の開業・廃業等届出書」の提出先は「自宅住所に最も近い税務署」
一般的には「自宅住所地」に一番近い税務署が管轄になりますので、「個人事業の開業・廃業等届出書」は、自宅住所地に一番近い税務署に提出することになります。管轄の税務署は、国税庁ホームページ「国税局・税務署を調べる」から検索することができます。
事業所と自宅住所が異なる場合には、事業所の最寄りにある税務署の方が、今後の経営を考えると便利で手続きしやすいという方も多くいます。この場合には、自宅住所地を管轄する税務署で「個人事業の開業・廃業等届出書」と併せて「所得税・消費税の納税地変更に関する届出書」も提出しておくことで、以後の管轄税務署を「事業所に近い税務署」に変更でき、事業所の最寄り税務署にて手続きを進めることができるようになります。(この届出書の提出があった日以後に納税地が変更されます)
なお、住所地に一番近い税務署へ「個人事業の開業・廃業等届出書」と「所得税・消費税の納税地変更に関する届出書」を提出した後に、事業所から一番近い税務署へあらためて同じ書類を提出しなおす必要はありません。
2.「都道府県税事務所に提出する開業届」の提出先は「事業所に最も近い都道府県税事務所」
都道府県税事務所に提出する開業届は、住所地ではなく事業所に近い都道府県税事務所が管轄になります。管轄の都道府県税事務所は、国税庁のように全国統一のページがないため(管轄が都道府県ごとにある)、東京都で調べる場合には「東京都 〇〇区 都税事務所」、神奈川県なら「神奈川県 〇〇市 県税事務所」と検索して調べてください。
開業したら1カ月以内に届け出を提出
開業届は「開業したら提出する」という決まりです。税務署に提出する開業届は、「開業日以降1カ月以内に提出」することが求められています。また、都道府県税事務所に提出する開業届は都道府県ごとに提出期限が異なりますが、概ね「開業日以降2週間~1カ月以内」としています。
提出が遅れてもペナルティはない
開業届は、提出が遅れたからと言ってペナルティはありません。税務署に提出する開業届の場合には、税額を減らす「青色申告承認申請書」を一緒に提出するのが一般的ですが、この「青色申告承認申請書」は、開業後2カ月以内に提出が求められています。期日を過ぎると青色申告ができなくなりますので、前述の税務メリットを受けられなくなってしまいます。
この章の執筆
福島 悠(ふくしま ゆう)|経営コンサルタント/公認会計士
【飲食店】開業時に提出が必要な書類
税務署以外に、飲食店を開業する人が届け出をしなければならないのは、保健所・消防署の2カ所です。また、風俗営業許可申請(通常の飲食店は「深夜酒類提供飲食店営業」)が必要な場合は、警察署(公安委員会)への届け出も必要になります。
保健所に「営業許可申請書」を提出
飲食店開業時には、保健所に「営業許可申請書」を提出します。
必要な営業許可書は、業態によって異なります。例えば、通常の飲食店であれば「飲食店営業許可」になりますが、ケーキやお菓子も販売したいのであれば、加えて「菓子製造許可」が必要になりますし、惣菜を販売したければ、そうざい製造業の許可が必要になります。
また店舗では、保健所が求める厨房設備(施設基準)を満たさなければなりません。
飲食店開業で取得する主な営業許可
- 飲食店営業:飲食店を開業するなら必須
- 菓子製造業:テイクアウトでケーキなどを販売する場合
- そうざい製造業、複合型そうざい製造業:テイクアウトで惣菜を販売する場合
- 食肉販売業:(例)焼肉店で生肉の販売を行う場合
- 魚介類販売業:(例)海鮮居酒屋さんで生魚や刺身を販売する場合
他にも飲食物の種類により多数の営業許可が存在するので、自分のお店・自分の販売する予定の飲食物にはどの営業許可が必要なのか、開業前に管轄の保健所に相談しましょう。
例えば、東京都の場合の営業許可の申請方法や営業許可の種類などは、下記のパンフレットがわかりやすいので、こちらを参考にしてください。
参考:東京都福祉保健局健康安全部食品監視課「食品関係営業許可申請の手引き」
保健所への事前相談は、物件が決まり、図面、厨房レイアウトが決まった工事着工前の段階で行ってください。工事着工後に保健所に修正などの指摘を受けた場合、レイアウトの変更などで追加料金がかかってしまいますし、開店も遅れてしまいます。事前相談に行く際は、「物件情報」「お店の図面」「提供する商品」「営業開始日」の資料を用意しましょう。
営業許可は、店舗の完成予定日の2週間前~10日前までに保健所に申請書類を提出します。
申請に必要なものは、①「営業許可申請書」、②「施設の構造及び設備を示す図面」、③「食品衛生責任者の資格を証明するもの」、④「水質検査成績書(水道水、専用水道、簡易専用水道以外の水を使う場合)」、⑤「許可申請手数料」となります。
提出日に施設の確認検査の日程を決定します。
消防署へ「防火対象物使用開始届出書」を提出
消防署への届け出は、設計施工業者や設備業者が届け出を行ってくれるものと、自らで行うものがあります。届け出の手順ですが、まずは管轄の消防署に事前相談をしてください。設計施工会社の方が出向いて手続きをしてくれることが多いですが、可能であれば同行してください。管轄の消防署によって、手続き内容やスケジュールが異なる場合がありますので、それについても実際に消防署で確認しましょう。
届け出を行う書類は、①「防火対象物使用開始届出書」、②「防火対象物工事等計画届出書」、③「消防用設備設置届出書」、④「防火管理者専任届出書」、⑤「消防計画の届け出」の5つが基本となります。①~③は基本的に、設計施工業者・設備業者の方が手続きをしてくれます。④と⑤は、自分で届け出を行います。
①「防火対象物使用開始届出書」は、使用開始(工事開始)7日前までに提出します。②「防火対象物工事等計画届出書」と③「消防用設備設置届出書」も、①と一緒に提出する事が多いです(③は設備設置前までに届け出)。また、①〜③の届け出時に、消防署の立ち入り店舗検査の日程を決めます。立ち入り検査後、およそ1週間程度で交付されるので、消防署へ書類を取りに行きます。
また、④「防火管理者専任届出書」は営業日前まで、⑤消防計画も④と併せて提出します。ただし、防火管理者になるためには講習を受けなければならず、講習の日程が決まっているので、事前に出店する地域の講習日程を調べ、講習を受けておきましょう。
深夜営業を行う場合は警察署への届け出が必要なケースも
まず前提として、深夜0時以降も酒類を提供できる場所は、「用途地域」という名称で、各都道府県の条例によって場所が定められています。東京都の場合は、「住居専用地域」と「住所地域」では、0時以降も酒類を提供するお店(=深夜酒類提供飲食店)の営業はできません。「開業したい」と考えるエリアで深夜酒類が提供できるかは、事前にそのエリアの役所や、あるいは不動産会社に確認してください。
深夜0時以降も酒類を提供したい場合は、管轄の警察署に「深夜酒類提供飲食店営業開始届書」を提出する必要があります。ただしこれは、深夜0時以降オープンしているすべてのお店に必要なわけではありません。例えば、ファミレスのように食事提供が主体の店舗がお酒を深夜0時以降に出す場合は、この届け出が不要な場合もあります。
居酒屋さんやバー、酒場の様に、お酒の提供が主となる店舗の場合はこの届け出が必要になります。「カラオケ店は?」など業態によって迷う場合は、事前に警察署に確認しましょう。
なお、書類が受理された10日後より、深夜営業開始が可能となります。ただし申請の難易度は高く、慣れていないと何度も差し戻されることが多いため、行政書士に依頼することが一般的です。早まる気持ちは分かりますが、書類が受理されて10日経たないうちに深夜営業をしてしまい、警察に心配をかけないようにしましょう。
保健所への届け出 | ※業種業態によって営業許可は異なる 「各種営業許可書」(2週間前~10日前) 飲食店開業で取得する主な営業許可:飲食店営業、菓子製造業、そうざい製造業、複合型そうざい製造業、食肉販売業、魚介類販売業など |
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消防署への届け出 | 「防火対象物使用開始届出書」(使用する7日前) 「設備の設置・設備業届出」(設備設置前) ※お店や建物の規模や出入りする人数によって必要 「消防管理者専任届(防火管理者選任届)」(営業開始まで) |
警察署への届け出 | ※深夜0時以降にお酒を提供したい場合 「深夜酒類提供飲食店営業開始届書」(深夜営業の10日前) |
この章の執筆
笠岡 はじめ(かさおか はじめ)|販売促進士/飲食マーケター
【小売店】開業時に提出が必要な書類
小売業には、開業届以外にも届け出や許可が必要な業種があります。主なものとしては食品関連における「営業許可」「営業届出」、酒類、たばこ、薬、古物などの「許可」、動物を販売する時の届け出などです。特に食品関連については細かな業種に分類されており、それぞれの業種に応じた手続きや対応が必要になります。
食品関連の「営業許可」と「営業届出」
小売業で「営業許可」が必要な業種は、食品衛生法施行令第35条に規定される32業種に含まれる販売業です。「食肉販売業」「魚介類販売業」などのほか、販売とともに製造を行っている洋菓子店なども「菓子製造業」に該当し、営業許可が必要な業種となります。
参考:東京都「新たな「営業の許可制度」「営業の届出制度」が令和3年6月1日から始まります」
「食肉販売業」を例に具体的な流れを説明すると、工事着工前に保健所に施設平面図を持参して事前相談を行い、施設基準などの説明を受けてから、申請書類を提出、食品衛生監視員による施設調査を受ける……といった手順が必要になります。
また、食品衛生責任者の資格を取得する必要もあります。施設調査を受ける必要があることから、施設の工事終了の目途が付いた頃、開店の2週間前程度には申請書を提出しましょう。あらかじめ都道府県や市の条例で定められている「営業施設の基準」「公衆衛生上講ずべき措置の基準」を確認してから準備をすると良いでしょう(なお食肉販売業でも「包装されたもの」だけを販売する場合は営業許可の必要はなく、後述する営業届出の対象になります)。
上記の営業許可の対象とならない業種の場合は、(一部を除き)管轄の保健所に「営業届出」を出す必要があります。
「営業届出」の場合、営業許可とは異なり手数料は必要ありませんし、営業施設の基準はありません。ただし食品衛生責任者の設置は必要です。営業届出は書類に不備がなければすぐに受理されますが、差し戻しの可能性もあるので、開業届の提出後、取扱品目が決まった段階で早めに届け出をしておきましょう。
また「営業許可」「営業届出」のいずれの場合でも、「HACCP(ハサップ)」に沿った衛生管理が義務付けられています。食品に関わる事業者の方は開業前に管轄の保健所に相談するようにしましょう。
参考:厚生労働省「HACCP(ハサップ)」
酒類、たばこ、米穀、薬、古物は届け出が必要
酒類、たばこ、米穀、薬、古物を扱う場合は、それぞれの管轄官庁の窓口に許可申請を行う必要があります。「酒類」は税務署、「たばこ」はJTを経由して財務大臣、「薬」は保健所を経由して都道府県、「古物」は警察署を経由して都道府県公安委員会に申請を行います。
薬の販売であれば薬剤師や登録販売者が必要です。またその他の業種についても細かなルールや要件などがありますので、管轄の窓口に相談して手続きを行いましょう。
取扱商品 | 管轄窓口 | 注意点や主な要件など |
---|---|---|
酒類 | 税務署 | 人的要件、場所的要件、経営基礎要件、需給調整要件の4つの要件がある |
たばこ | JT→財務大臣 | 場所要件、距離要件がある |
米穀 | 所在地を管轄する農政局など | 事業規模20精米トン未満を除く |
薬 | 保健所→都道府県 | 薬剤師や登録販売者などが必要 |
古物 | 警察署→都道府県公安委員会 | 13の古物区分がある&管理者が必要 |
動物を販売する際も届け出が必要
動物を販売するのは「第一種動物取扱業」に該当します。ペットショップなどの動物を取り扱う事業を開業する場合、都道府県知事または政令指定都市の長(市長)の登録を受ける必要があり、定められている動物の管理方法、飼養施設の規模や構造などの基準を守ることが義務づけられています。また、動物取扱責任者になる必要があります。
開業の流れとしては、動物取扱責任者研修を受けて終了証を取得後、所轄官庁である動物保護センターなどに店舗図面などの書類を持参して事前相談を行います。その後、店舗施設の工事を行い、工事終了後に動物取扱業の届け出を行います。その後、営業施設の立ち入り検査を受けた後、登録が終了します。
都道府県、政令指定都市毎に動物愛護センターなどの窓口が設けられていますので、開業前に相談して準備を行いましょう。
この章の執筆
渡貫 久(わたぬき ひさし)|株式会社ユーミックプロデュース 代表取締役
【医療サロン】開業時に提出が必要な書類
治療院などの施術所を開業するにあたって、別途届け出が必要となる場合があります。また施術所の業態や業種によって届け出の内容も異なります。施術所の事業開始にあたり、必要となる届け出について説明します。
接骨院や「あはき施術所」の場合は保健所への届け出が必要
整体院、リラクゼーションサロン、エステサロンなど、国家資格を必要としない施術所の開設に関しては、一般的な開業届を出すだけで済みます。
一方で、接骨院や「あはき施術所」(あん摩マッサージ指圧院、はりきゅう院)といった国家資格を必要とする施術所の開設には、保健所への届け出も必要となります。
提出することで、一部の症状や疾患に対する保険適用(療養費の対象)が可能となります。
また、経営という側面からみると、国家資格を有する者が行っている施術所と認識されることは、顧客に対して信頼性をアピールできるというメリットにもなります。必ず届け出をしましょう。
施術所を設ける場合と設けない場合で書類が異なる
前述のように、接骨院やあはき施術所の開設は、保健所への届け出が必要となります。施術所を構える場合と構えない場合とで届け出の内容が異なります。
施術所を構える場合の「施術所開設届」
接骨院やあはき施術所を開設する場合は、保健所に「施術所開設届」を提出する必要があります。届け出にあたっては構造設置基準(施術室、待合室)、衛生上必要な措置、施術所の名称や広告可能な事項など、法律の要件を満たす必要があります。
特に構造設備基準については、開設後に基準を満たさず届け出が受理されないといったことが起きないよう、物件選定前に保健所に相談して要件を確認するとともに、物件の契約前にも工事着工前の図面を保健所に持参し確認をすることで、安心して開業準備を進めることができます。
なお保健所による指導事項などの詳細は地域によって異なり、立ち会い検査(実地検査)がある場合もあります。詳細は開業予定地を管轄する保健所に確認することが大切です。
施術者個人が出張業務のみおこなう場合の「出張施術業務開始届」
あはき師(あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師)個人が出張のみで業務をおこなう場合は、保健所に「出張施術業務開始届」の提出が必要となります。
施術者が個人の立場で出張するものなので、「治療院」などの名称を名乗ることはできません。
ちなみにすでに施術所を開設しておりそこから出張する場合には、この届け出は不要です。
届け出は「開業して10日以内」に行う
上記の届け出は開業前には提出できず、それぞれ以下の期限内に提出することが決められています。「開業」の定義は、施術所か出張かで異なります。
施術所を構える場合の「施術所開設届」
開設後(施設設備などが整い、施術を開始できる状態)10日以内に提出
あはき師である個人が出張業務のみをおこなう場合の「出張施術業務開始届」
業務開始後10日以内に提出
保険診療を行う場合は地方厚生局にも届け出を
保険(療養費)を取り扱う場合は、地方厚生局へ「療養費の受領委任に関する申し出」などの届け出が必要となります。
地方厚生局への届け出には、保健所に提出した受領印のある「施術所開設届」の写しが必要となります。「施術所開設届」は開業後に届け出を行うものであり、また受理されるまで期間が空いてしまうことがあります。そのためほとんどのケースでは、開業当初は保険請求ができません。
その実務上の対策として、開業後の保険請求できない期間を「プレオープン」期間とし提供するメニューを制限するなど、計画的に店舗運営することも検討しましょう。
なお、国民健康保険や健康保険以外の取り扱いは、別の役所にそれぞれ申請が必要となります。
- 共済保険:国家公務員関係は共済組合連盟、地方公務員関係は地方公務員共済組合協議会、自衛官関係は防衛省
- 労災保険:都道府県労働局
- 生活保護、医療助成(マル障及びマル親乳子):福祉事務所
※保険診療を行うには、地方厚生局への受領委任の届け出の際までに、施術管理者としての要件(実務経験および研修の受講)を満たしていることも必須です。
参考:関東信越厚生局「柔道整復師療養費の受領委任を取扱う施術管理者の要件について」
参考:関東信越厚生局「はり師、きゅう師及びあん摩マッサージ指圧師の施術に係る療養費の受領委任を取扱う施術管理者の要件の取扱いについて」
この章の執筆
飯塚 伸之(いいづか のぶゆき)|株式会社BE NOBLE 代表取締役
【美容サロン】開業時に提出が必要な書類
エステティック業は、特別な資格がなくても開業できる「自由業」にあたります。業界団体やスクールが認定する民間資格はありますが、エステティシャンに国家資格はなく、それらを取得しなくてもエステサロンの開業は可能です。もちろん実際には、美容学校や様々なエステサロンで経験を積んでから開業する方が大半です。ただし、以下のジャンルのメニューを導入したい場合は、注意が必要です。
一部のメニューは「美容所開設届出書」を保健所に提出する
エステサロンでも以下のジャンルのメニューを提供する場合には、保健所への届け出が必要になります。それは、美容師免許などの国家資格を求められるまつげエクステ、眉毛カット、ブライダルエステなどでシェーバーを使った施術などを行うケースです。この場合は、高い安全性や衛生環境が求められるため、「美容所開設届出書」を保健所に申請しなければなりません。
また、鍼灸やあん摩マッサージといった国家資格が必要な施術をメニューとして行う場合も同様です(医療サロン編をご覧ください)。
図面の提出や保健所の立ち入り検査も
新規で開業し保健所に申請を行う場合、建築中のトリートメントルームやサロンの図面が必要になるケースもあります。書類だけではなく、「開設検査」といって現場の立ち入り検査もあります。
内装が完成してからやり直しにならないよう、図面などは立ち入り検査より1ヶ月以上前に保健所に見せることが必要です。また施工業者ともよく相談し、検査に合格できるよう協力を仰ぎましょう。
この章の執筆
榎戸 淳一(えのきど じゅんいち)|株式会社ES-ROOTS代表取締役
まとめ
- 開業届とは、個人事業主が開業したことを必要な管轄へ届け出る書類のこと。開業届には、税務署と都道府県税事務所に提出する2種類がある
- 開業届の提出先は「自宅住所に近い税務署」と「事業所に近い都道府県税事務所」。事業所と自宅住所が異なる場合には、手続きをすることで以後の管轄税務署を「事業所に近い税務署」に変更することもできる
- 開業届を提出することで、屋号付き銀行口座の開設や青色申告ができるようになる。また、融資を受ける際の事業内容の証明資料として活用することもできる
- 税務署に提出する開業届は「開業日以降1カ月以内」、都道府県税事務所に提出する開業届は「開業日以降2週間~1カ月以内(都道府県ごとに提出期限が異なる)」に提出が求められる。期日以降に出してもペナルティはないが、税額に影響が出る場合もある
- 開業届以外にも業種により必要な許可や届け出があるため、開業にあたって必要な書類や手続きについて理解をしておく必要がある
開業届は、あなたが「事業主」だということを証明する書類のひとつです。また、業種によっては特別な書類提出も必要となることを忘れてはいけません。本記事を熟読し、漏らさず必要書類を準備しましょう。
※この記事は公開時点、または更新時点の情報を元に作成しています。