勘定科目「売掛金」とは?買掛、掛売……似た用語とは何がちがう?
商売をしていると、よくに耳にする「掛け売り」や「掛け取引」「売掛金」ですが、実際にはどのように用いられる取引内容なのかわからないという人もいらっしゃいます。ここでは、売掛の内容やメリット・デメリットを解説します。
この記事の目次
売掛とは?
売掛とは、商品やサービスを提供した際に代金の決済をせず、一定の期間後に代金の決済をすることを言います。通常の取引であれば、商品やサービスを提供した時点で代金を受け取りますが、売掛は「代金の決済タイミング」が通常の取引とズレます。このような掛け取引によって生じた債権の勘定科目に「売掛金」を用います。
売掛金はどれぐらいの期間で決済されるのか?
売掛金は、主たる事業での得意先との取引において用いられるのが一般的で、その取引先との契約によって、自由に商品やサービスの提供日から決済日までの期間を決めることが出来ます。しかし、商慣行として、他社と著しく決済期間が異なると双方の資金繰りに問題が生じるため、参考になる決済期間をこちらにご紹介します。2020年8月に日本政策金融公庫がまとめた業種別の財務指標(貸借対照表や損益計算書から分析した平均値)から、一部抜粋しますので目安としてください。
業種 | 決済期間 |
卸売業 | 1.2ヵ月 |
小売業 | 0.7ヵ月 |
飲食店・宿泊業 | 0.2ヵ月 |
サービス業 | 1.1ヵ月 |
建設業 | 1.3ヵ月 |
製造業 | 1.3ヵ月 |
引用:日本政策金融公庫 中小企業の経営に関する調査(各業種ごとに抜粋)
売掛金と未収入金、未収収益など類似科目との違いは?
売掛金に似た勘定科目として、未収入金や未収収益、買掛金などがあります。未収入金と未収収益は売掛金と同じく「債権」に分類され、買掛金は売掛金と同じく掛け取引(商品・サービスの提供から一定後に代金を払ったり・受け取ったりする取引)によって生じる勘定科目です。それぞれ似た勘定科目であるため、違いを理解する必要があります。
売掛金と未収入金の違いは?
売掛金も未収入金も債権に分類されますが、売掛金は主たる事業に関係する取引に対して用いる勘定科目なのに対して、未収入金は主たる事業以外の取引を集計する勘定科目として用いられます。売掛金と未収入金の違いは、各債権の相手勘定科目を考えると理解しやすいでしょう。
(売掛金を用いた会計処理の例)
取引先Aに対して商品を掛け売りで100万円売り上げた
売掛金 | 100万円 | 売上 | 100万円 |
(未収入金を用いた会計処理の例)
営業車両が老朽化したため10万円で売却した(車両の簿価は0円)
未収入金 | 100万円 | 固定資産売却益 | 100万円 |
このように、売掛金の相手勘定は「主たる事業」に関連する取引であるため「売上」が用いられますが、未収入金は「主たる事業以外」に関連する取引であるため「売上以外」の勘定科目を用いる事になります。
売掛金と未収収益の違いは?
売掛金も未収収益も債権に分類されますが、未収収益は「経過勘定科目」の一つとして用いられます。経過勘定科目は、「継続する契約」において、利益や費用を適切な期間に按分することで、適切な業績を把握するという目的で用いられる勘定科目です。例えば、金銭消費貸借契約がある場合の貸付利息を適切な期間に按分する場合、以下のような仕訳処理をします。
(例)従業員への貸付100万円について、年利3%で貸し付けている。貸付開始から本日まで6カ月が経過し決算を迎えることになった
未収収益 | 1.5万円※ | 受取利息 | 1.5万円※ |
(※)100万円×3%×6カ月(経過期間)/12カ月
売掛金と買掛金の違いは?
売掛金と買掛金は、どちらも掛け取引に対して用いる勘定科目ですが、売掛金は「債権」(代金を受け取る権利)である一方、買掛金は「債務」(代金を支払う義務)に区分されます。つまり、両者は掛け取引によって生じる正反対の勘定科目という事になります。
売掛を前提とした商売のメリット・デメリット
売掛(掛け取引)は、主たる事業に関連して生じる債権ですから、反復継続的に取引をしていると置き換えることが出来ます。そこで、売掛を前提とした場合のメリット・デメリットを解説します。
売掛を前提とした商売のメリット
売掛を前提とした商売の場合には、以下のようなメリットが考えられます。
- 取引を効率化出来るため、商談を有利に進められると同時に自社の業務もスリムになる
例えば、お弁当の配送ビジネスを考えた場合、現金取引にすると、繰り返し注文があっても、配送の都度、決済(現金の授受)を行う必要があります。さらに、配送業者側はレシート発行や領収書をその都度発行する必要があり、取引先はその都度現金の受け渡しをしなければいけないという手間が生じます。 - このビジネスを売掛前提として考えた場合、一ヵ月で配送したお弁当の数を集計し、請求書を取引先に発行します。取引先はこの請求書に基づいて決済をするだけで完了します。つまり、両社の業務を効率化できるわけです。
- 売上の増加が見込める
後からのまとめ払いのため、いま手元に資金が無くても取引が可能となり、高額でもハードルが少し下がります。企業間の取引では、ほとんどの場合で掛け売りが前提になっていますが、直接消費者と取引をする場合には、掛け売りを導入することで他社と差別化を図ることができ、売上の増加が見込めます。
売掛を前提とした商売のデメリット
売掛を前提とした商売では、以下のようなデメリットもあります。
- 取引先の支払遅れや貸し倒れのリスク
1カ月毎に取引内容を集計して請求する流れになるため、その都度決済する現金取引と比べると決済金額が大きくなります。そのため取引先の資金繰りが厳しくなってしまえば支払遅れが生じ、倒産してしまえば貸し倒れとなってしまいます。なお、貸し倒れについては次の章で細かく説明します。 - 自社の資金繰りに影響が出る
掛け取引の債権を回収するまでの期間を1カ月と仮定した場合、請求書を発行してから1カ月間代金の回収が出来ないことになります。上記のようなことが重なり、1カ月で入金されると思っていたものが支払遅れで入金されず、待っているうちに税金の支払いや借入金の返済などの期日が来てしまい、手元に資金が無い場合には黒字倒産(利益は出ているが資金が手元にない)という事態に陥る可能性があります。
貸し倒れなどが起きないようにするための注意点
売掛金は、商品やサービスの提供日から決済日までの期間が現金取引と比べて長いため、取引先の信用情報(財産の有無や業績など)によっては売掛代金を回収できないリスクが生じます。このことを「貸倒(かしだおれ)」と言います。また、取引先だけの信用情報に着目するのもリスクがあります。「取引先の主要取引先」が倒産したことで、取引先が売掛代金を回収できず資金繰りが悪化し、結果、自社にまで影響を及ぼしてしまうといった可能性もあります。
与信管理を徹底する
取引を開始する際に、取引先の信用情報を確認するため、取引先の財産を記載した貸借対照表や、一年間の業績を記載した損益計算書を貰って評価します。これを「与信管理」と言いますが、取引先の債権回収リスクを評価するためにとても大事な業務です。大きな金額の取引を開始する際には、相手企業に対し盲目的にならず、必ず与信管理を実施してください。
また与信管理のポイントとしては、以下が挙げられます。
- 売上高の推移を見て不自然な動きが無いか判断する
経営者や担当者との面談を通じて、売上が増加もしくは減少している理由と実際の推移を比較します。応対している内容と決算書の内容が違えば、粉飾決算(わざと業績を良くしている)や隠ぺい決算(所得を意図的に隠す)をしている疑いがあります。 - 会社に足を運び職場環境を判断する
社員は会社を映す鏡です。社員の態度が悪ければ業績は悪化していきます。また労使関係(経営者と従業員との関係)がうまくいかなければ、経営は循環しません。従業員や職場環境、応対している電話の内容などにも耳を傾け、総合的に判断しましょう。 - 他社からの情報にも耳を傾ける
現在の取引先と同業種の取引先がある場合には、取引先候補の情報を間接的に聞いてみるのも効果的です。「某社とも取引を開始する」と、現在の取引先に報告するのは問題があるため、業界内で何かしらの評判が立っていないか、さりげなくヒアリングできると良いかもしれません。
ファクタリングの利用を検討する
ファクタリングとは、売掛金を買い取るサービスのことを指します。ファクタリングによって売掛金をファクタリング会社に売却した場合、たとえ譲渡した売掛金が貸し倒れても、基本的に返金義務は生じません。また即金性がありますので、商品やサービスの提供日から決済日までの期間を待つ必要がなく、譲渡時に代金を受け取ることが出来ます。譲渡代金は決済期間や取引先の信用情報によって決定されます。手数料はおよそ1%~10%かかりますが、それを差し引いた代金を確実に受け取ることができます。
最近では、「BtoB(企業間取引)のクレジットカード決済」という、ファクタリングの機能とクレジット決済の利便性を、どちらも搭載したサービスも登場しました。クレジット決済は、取引先が手元に資金が無くても決済を出来る仕組みで、クレジット会社が取引先の代金を立替払いしており、自社はファクタリングによって債権を譲渡しているため、貸し倒れのリスクがありません。つまり、自社及び取引先の双方にメリットがあるため、新規の取引先開拓にも役立つサービスです。
よくある質問など
売掛に関してよくある質問をまとめましたので、参考にしてみてください。
Q1. 売掛取引を開始したいのですが、何を準備すれば良いでしょうか?
A1. 売掛取引では、取引先との契約書に「締め日」と「支払期日」を記載する事で開始できます。
「締め日」は請求書で集計する取引の期間を表すもので、例えば末締めと定めた場合には、1日~末日までの取引をまとめた請求書を取引先に発行することになります。
また、「支払期日」は、請求書を発行した日からいつまでの期間を期日にするか定めるもので、例えば翌月末とした場合には、請求書を発行した月の翌月末を決済日として定めることになります。
Q2.売掛金が決算日まで残っています。何か注意することはありますか?
A2. 売掛金が決算日まで残っている場合には、会計システム上で「どこに対する売掛金」が残っているのか明確にしておくことをお勧めします。
個人事業主の確定申告書では、売掛金の内訳(どこの取引先に対していくら残高があるか)を記載する必要はありません。しかしながら売掛代金の残高が不明確であれば、翌期の会計処理が煩雑になります。なお、法人の場合は、確定申告書に添付する「勘定科目内訳明細書」に売掛金の内訳を記載しますので、残高を明確にしておいて損はありません。
売掛金の残高を明確にする手順は以下の通りです。
- 自社の決済期間を考慮した上で売掛代金の残高を推計する
例えば、決済期間が1カ月であれば、決算月とその前の月の債権が残高として残っている可能性があります。決算月の前の月に請求している債権の回収状況を踏まえて、決算月に請求した総額と合算することで適正額を推計します。また特殊な事情により回収できていない債権も合算します。 - 会計システム上の残高と推計値を比較する
会計システム上の残高と上記で作成した推計値を比較します。数字が同額であれば会計上漏れなく処理されています。ズレが生じている場合には会計システム上で処理が漏れている可能性があるため、ズレの原因を調査し、漏れている内容を会計処理します。 - 取引先別の債権を会計システム上でも明確にしておく
会計システムによっては、「補助科目」や「メモタグ」や「備考」「取引先」など様々な名称はありますが、管理しやすくなるような仕組みが導入されています。これらの仕組みを上手く使い、売掛代金の残高が明確になるように工夫してみてください。
Q3. 売掛代金をファクタリングしました。どのように会計処理すれば良いでしょうか?
A3. 売掛代金をファクタリングするという行為は、「債権を譲渡した」という事になります。金銭債権を譲渡する金融取引であるため、譲渡代金及びファクタリング手数料には消費税が課税されません。こちらは注意が必要です。
(例)取引先に対する債権100万円をファクタリングにより譲渡した。なおファクタリングに係る手数料は10%。
現預金 | 課税対象外 | 90万円 | 売掛金 | 課税対象外 | 100万円 |
支払手数料 | 非課税 | 10万円 |
引用:国税庁 非課税となる取引
有価証券等の譲渡
国債や株券などの有価証券、登録国債、合名会社などの社員の持分、抵当証券、金銭債権などの譲渡。ただし、株式・出資・預託の形態によるゴルフ会員権などの譲渡は非課税取引には当たりません。
まとめ
- 売掛はサービスや商品の提供日と決済日とのずれから生じる債権
- 売掛代金の回収期間は業種別に平均値が異なる
- 売掛取引を開始する際には、与信管理が重要
売掛は企業間での取引で当たり前のように用いられる取引ですが、ビジネスを始めたばかりだとあまり馴染みがない用語の一つだと思います。売掛にはメリットもデメリットもあるため、深く理解しご自身のビジネスに有利になるよう組み込んでみてください。
※この記事は公開時点、または更新時点の情報を元に作成しています。
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この記事を書いた人
福島 悠(ふくしま ゆう)経営コンサルタント/公認会計士
公認会計士、税理士。経営改革支援認定機関/SOLA公認会計士事務所 所長。
上場企業の顧客向け税書類の監修や経営コンサルティング、個人事業の事業戦略支援と実行支援まで幅広く対応。顧客収益最大化を理念に掲げ起業家を徹底サポート。多種多様な企業の税務顧問と年間約30件の戦略立案を行っている。