社員・バイト・パートの勤怠管理について、店長が知っておくべきこと
笠岡 はじめ(かさおか はじめ)シニア販売促進士/飲食店コンサルタント
「勤怠管理とは何か?」「具体的に何を、どのようにすればよいのか?」といった疑問をお持ちの方向けに、勤怠管理で最低限知っておくべきことをまとめました。
この記事は、特に飲食店のオーナーや店長の方向けです。初めて勤怠管理をする立場になった人にとってもわかりやすいよう、丁寧に解説していきます。
この記事の目次
「勤怠管理」とは、従業員の労働状況を正確に把握し記録すること
まずは「勤怠管理とは何か?」を理解するところからはじめましょう。
そもそも勤怠とは、従業員がどれくらい働き、休んだかを表す言葉です。そして勤怠管理は、以下の情報を正確に把握し、記録することを意味します。
- 始業・終業時刻、労働時間、休憩時間
- 時間外労働時間、深夜労働時間、休日労働時間
- 出勤日、欠勤日、休日出勤日
ここで注意が必要なのは、“正確に”把握するということです。例えば制服があるお店で、着替えの時間を労働時間に含んでいなかったとしたら、正確な把握とはいえません。詳細は後述しますが、「どこからが労働時間になるのか」など、法律で定められた基準に則って把握する必要があります。
勤怠管理を正しく行うと、従業員が働きやすくなりお店が健全に経営できる
次に、なぜ勤怠管理をなぜやるのか、勤怠管理をする上で何を目指すのかを解説します。
まず大前提として、従業員の勤怠管理をすることは法で義務付けられています。もっとも、勤怠管理は「単に法律上やらなければならないこと」ではなく、「従業員やお店のために必要なこと」と捉えることが重要です。どういうことか、詳しく見ていきましょう。
【従業員のため】働きやすい環境を作るための勤怠管理
飲食店のオーナーや店長という立場であれば、従業員の労働時間を適切なものとし、心身の健康を管理する責任があります。どれくらいの時間働いているのか、休憩や休暇をきちんと取っているのかを把握し、長時間労働をさせ、彼らの心身に負荷がかかりすぎないよう、コントロールしなければなりません。
そこで重要な役割を果たすのが勤怠管理です。勤怠管理をすることで、オーナーは従業員の長時間労働が把握でき、素早く改善を行うことができます。このように、勤怠管理は「従業員にとって働きやすい環境を作るため」に必須であるといえます。
従業員が働きやすいお店は、離職率が下がり、採用もしやすくなるのでお店にもメリットがあります。
【お店のため】生産性向上や人件費管理のための勤怠管理
従業員が働いている時間を把握し、売上額と比較することで直近のお店における生産性がわかります。例えば、労働時間は以前と同じなのに売上が下がっている場合、なんらかの理由で従業員の生産性が下がっている可能性があります。原因を突き止め、改善策を練れば、売上の低下を止めることができるでしょう。
また、労働時間を正しく把握できていなければ、給与や残業代の計算ができません。人件費を管理するためにも勤怠管理は必須です。
管理する項目は「法定三帳簿」に則る必要がある
勤怠管理をすべき項目は労働基準法で定められています。
具体的には、通称「法定三帳簿」と呼ばれる労働者名簿・賃金台帳・出勤簿にある項目を抜け漏れなく記録し、一定期間保存することが義務付けられています。
出典:沖縄労働局ホームページ「労働者を雇用した帳簿などを整えましょう」
なお正確には、労働基準法には「出勤簿」の定義について記載はありません。ただし、2019年の労働安全衛生法の法改正により、「労働時間の状況の把握」が義務付けられています。
出典:東京都労働局ホームページ「改正労働安全衛生法のポイント解説」
ここからは、具体的に何を把握し、記録しなければならないかについて解説します。
1.労働者名簿の項目
労働者名簿には、下記の項目の記録が義務付けられています。
- 氏名
- 生年月日
- 性別
- 住所
- 業務の種類
- 履歴
- 雇用年月日
- 退職年月日と事由
- 死亡年月日と原因
労働者名簿は、基本的に従業員の入社時に作成します。履歴書を元に店長などが上記項目をまとめてもよいですが例えば「フォーマットを用意して、従業員に書いてもらう」という方法もあります。採用面接の前に応募者へフォーマットを送っておいて、履歴書の代用資料として事前に記入してもらっておくなどすると、その資料をそのまま労働者名簿とすることができます。
ただしその場合でも、必要な項目が記載されているかの確認は必要です。特に「業務の種類」「雇用年月日」などは従業員側ではわかりにくいため、お店側で正確な情報を記載する必要があるでしょう。
また、従業員の引越しなどで内容に変更があれば、お店は都度その情報を更新する必要があります。保存期間は、従業員の退職、解雇、または死亡日から5年間(当分の間は3年間)です。
2.賃金台帳の項目
賃金台帳とは、賃金の支払い状況をまとめたもので、記載が義務付けられている項目は下記です。
- 氏名
- 性別
- 賃金の計算期間
- 労働日数
- 労働時間数
- 時間外・深夜・休日労働時間数
- 基本給や手当の種類およびその額
- 控除内容とその額
一般的には、お店は月ごとに賃金を支払いますので、毎月その情報を記録・更新します。氏名や基本給などは、変更があった場合その都度更新しましょう。
保存期間は、賃金台帳に最後に書き入れた日から5年間(当分の間は3年間)です。
3.出勤簿の項目
出勤簿とは、従業員の出退勤情報をまとめたものです。前述のとおり「出勤簿」には正式な定義はありませんが、以下のような項目を記載することが一般的です。
- 出勤日と労働日数
- 出社・退社時刻
- 日別の労働時間数
- 時間外労働を行った日付・時刻・時間数
- 休日労働を行った日付・時刻・時間数
- 深夜労働を行った日付・時刻・時間数
出勤簿の記載事項は毎日更新されるものですので、タイムカードや勤怠管理システムと連携させておくと効率的です。保存期間は5年間(当分の間は3年間)です。
「正社員」「アルバイト・パート・派遣」……注意点は雇用形態別に異なる
勤怠管理は、雇用形態に関わらず全ての従業員に必要です。ただし、月給制の正社員と、時給制のアルバイト・パート・派遣社員とでは、それぞれ注意したいポイントが異なります。
正社員の勤怠管理
飲食店は忙しい時期や時間帯がまちまちです。正社員が人員補填の対象となることも多々あります。時には1日の労働時間が8時間に収まらないこともあるでしょう。
このように、飲食店の正社員は、労働時間を月単位・年単位で調整しないと法令を守れないケースが出てしまいがちです。そこで、状況に応じて働き方を変えられる「変形労働時間制」の採用が多いことは知っておくとよいでしょう。
アルバイト・パート・派遣社員の勤怠管理
時給制であるアルバイトやパート、派遣社員を雇う際に注意しておかなければならないのは、「控除」(税制負担の控除、社会保険料の控除)についてです。いわゆる「103万円、130万円、150万円の壁」のことで、年間の収入が一定額を超えることで各種控除が変動するため、事前に各人とすり合わせをした上で雇用契約を結ぶようにしましょう。
また、給与は1分刻みで計算しなければいけません。計算が面倒な場合、15分単位・30分単位などに調整は可能ですが、基本的に切り捨てはNG・切り上げとしなければなりません。
1分刻みでの計算・切り捨てNGは、正社員の残業代においても同様です。
主な勤怠管理手法は「紙」「タイムカード」「表計算ソフト」「勤怠管理システム」
勤怠の管理手法は現在、主に「紙」「タイムカード」「表計算ソフト」「勤怠管理システム」の4種類があります。それぞれのやり方と、メリット・デメリットを見ていきましょう。
「紙」での管理方法・メリット&デメリット
従業員に、出勤・退勤・休憩開始&終了時の時刻を紙の出勤管理表に書いてもらい、店長などの責任者が印を押すことで管理するやり方です
ただし、このような自己申告による管理には、講ずべき措置が定められていますので留意しましょう。
出典:厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」
メリットは紙とペンがあればできるため、コストがほとんどかからない点です。
デメリットは、従業員が書く・責任者が印を押す手間や、実労働時間を計算する手間がかかる点が挙げられます。
「タイムカード」での管理方法・メリット&デメリット
タイムカードでは、それぞれの従業員に出勤や休憩開始などの打刻をしてもらうことで、勤怠状況を自動集計できます。
カードを機器に差し込むだけでできるので、従業員が楽に打刻できる点がメリットです。
デメリットは、不正をしやすい点です。例えば自分が出勤していないにも拘わらず、バイト仲間に「打刻しといて」と頼んで労働時間の水増しをする……などという不正が可能になってしまいます。
「表計算ソフト」での管理方法・メリット&デメリット
表計算ソフトを使う場合は、タイムカードなどによる打刻の記録を、表計算ソフトによって集計していきます。
メリットは、実労働時間の計算や月単位の集計に手間がかからないことです。出退勤時刻などを入力さえしておけば、関数を用いてすぐに集計できます。
デメリットは、不正が容易なこと。タイムカードよりもデータの改ざんがしやすいです。既に入力したデータを修正する場合は、コメントを残すなど不正を防ぐルールなどが必要でしょう。
また自己申告による管理には、紙の場合同様、講ずべき措置が定められていますので留意しましょう。
出典:厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」
「勤怠管理システム」での管理方法・メリット&デメリット
勤怠管理システムを使えば、従業員が出退勤時刻などを入力するだけでシステム上に自動反映され、集計も瞬時に可能です。また、スマートフォンやICカードなどを用いてタイムカードと同じような打刻ができるシステムもあります。
タイムカードと表計算ソフトを一つにまとめたような仕組みなので、従業員にとっては楽になること、お店にとっては集計のしやすさがメリットです。さらに、時間外労働時間や人件費の数値化・分析を自動化できるシステムの場合、従業員の勤怠状況が見える化され、より正確な把握・適切な管理がしやすくなる点もメリットといえます。
導入コスト・ランニングコストがかかる点はデメリットですが、今は比較的リーズナブルに利用できるシステムも多数あります。
希望を吸い上げ自動でシフト表をつくる「シフト管理」に特化したシステムもある
記事冒頭で説明したように、勤怠管理は「従業員がどれくらい働いたか」(実績)を把握し記録することです。それに対して、「従業員がいつ、どれくらい働くか」(予定)を計画立てて整理することをシフト管理と呼びます。
このシフト管理を効率化するシステムもあります。どんなメリットや種類があるのかを見ていきましょう。
シフト管理システムとは?
シフト管理は大まかに以下の流れで進めていきます。
- シフト希望日を収集する
- 条件を考慮しつつ、必要人数になるようシフトを組む
- 組んだシフト表をスタッフに共有する
- 急な休みなどがあった場合に調整する
これらの実務をオンライン上で可能にし、かつ効率化してくれるのがシフト管理システムです。例えば従業員全員にシフト希望日の提出をお願いするメッセージを一斉送信する、希望日に応じてシフト表を自動作成するなどの機能があります。
シフト管理システムのメリット&デメリット
多くのシフト管理システムはスマートフォンにも対応しているため、従業員がシフト希望日の提出やシフト表確認をスマートフォン上ですぐにできる点が大きなメリットです。
また、お店側にとっても、シフト作成・調整を自動化できることで手間が省けるメリットがあります。勤怠管理システムと同様、数値化・分析できる点もメリットです。例えば「水曜日の12時~14時の2時間は人が足りていない」といった分析ができれば、人手不足を解消するために手を打つことができます。
デメリットは、まず知識面において、システムをうまく活用するためのノウハウを持っていなければ、宝の持ち腐れとなってしまうという点があります。特に労働基準法については、デジタルツールを使用する場合も、前提として知識を持って挑む必要があります。
またコスト面でも、システムの導入にはある程度は初期コストやランニングコストがかかりますので、人件費とのバランスや、自らの業務負荷を補ってくれるだけの価値があるか検討が必要です。
シフト管理システムの種類
シフト管理システムは、対象の業種・規模によってそれぞれ特徴があります。小規模な小売業が対象のシステム、大規模な企業であればあらゆる業種に対応したシステムなど、その特徴に応じた機能を備えています。その他、スマートフォン対応の可否、カスタマイズの可否、料金などもシステムによってさまざまです。
自分の店の特性を踏まえて勤怠管理手法・システムを選ぶ
改めて、勤怠管理をするにあたって、まずは定められた項目を抜け漏れなく把握・記録すること、それによって従業員が働きやすいお店作りを目指すことは、飲食店を管理する立場にある全ての人に理解していただきたいと思います。
一方、前述の通り勤怠管理をどのような手法でおこなうかに決まりはありません。日々の営業における業務が忙しいお店も多いと思いますので、できるだけ個々のお店に合った手法を選んで効率的に進めるようにしましょう。
例えば、オーナー1人・アルバイト1人だけの小規模なお店であれば紙の管理が適しているかもしれません。複数店舗展開で従業員数も数十人を超える場合は、勤怠管理システムを導入して一括管理する必要があるでしょうし、またそれぞれのシステムのできること・できないことを理解し、最もお店に適したものを選ぶようにしたいところです。
※この記事は公開時点、または更新時点の情報を元に作成しています。
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この記事を書いた人
古閑 信気(こが としき)編集者・ライター
広告代理店勤務を経て、現在は編集プロダクションにて編集・執筆に従事。旅行、ライフスタイル、恋愛からビジネスまで幅広いジャンルの記事に携わる。「読者が記事を読んだ後に、刺激を受けて行動に移すこと」を目指してコンテンツ制作に取り組んでいます。
笠岡 はじめ(かさおか はじめ)シニア販売促進士/飲食店コンサルタント
飲食店販売促進コンサルタント「販売促進士」を育成する一般社団法人販売促進士日本フードアドバイザー協会代表理事。同協会にて飲食店販売促進コンサルタント「販売促進士」の資格講座を提供している。
また、年間3桁の飲食店の売上アップのコンサルティングや開業支援、業態開発などを行う飲食店専門コンサルティング会社「飲食店繁盛会」の代表も務める。
著書に『売れまくるメニューブックの作り方(日経BP社)』等。セミナー・研修は年間約100本。メディア掲載も多数。
●販売促進士日本フードアドバイザー協会
https://spfaaj.or.jp/
●飲食店繁盛会
https://hanjoukai.com/
●Instagram『1日1分で学べる販促&メニュー戦略』でノウハウ共有中
https://www.instagram.com/hansokushi/