損益分岐点とは?計算方法や具体例を税理士が解説
損益分岐点について、「聞いたことはあるけど、具体的にどんな意味?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。この記事では、事業やお店の売上をしっかり維持するうえでは欠かせない、損益分岐点の考え方について具体例とともに解説します。
※この記事では、計算して数字を出す行為を「算出」で統一しています。
この記事の目次
損益分岐点とは
損益分岐点とは、店舗を経営するうえで「赤字にならないために売上がいくら必要なのか」を示すものです。「売上高」と「その売上を得るためにかかった費用」の金額がぴったり同じ金額になる「点」を意味し、売上高が損益分岐点を上回ると「黒字(利益)」、下回ると「赤字(損失)」ということになります。
店舗経営を継続していくためには利益を出していく必要がありますが、「どうやって利益を出すか?」という具体的な改善策を考えていくためには、そもそも「どれだけ売上が必要なのか?」ということを把握しなければなりません。ですので、自分の店舗の損益分岐点を知ることはとても重要です。
損益分岐点を知るためには、まずは「費用」の性質について理解する必要があります。「費用」のことが正しく理解できていないと、売上をいくら上げても利益が出ないといった結果になりかねないからです。
費用とは
費用とは「売上を得るために支払ったお金」のことをいいます。売上を得るためには、商品を仕入れたり人を雇ったり家賃を支払ったりと、様々な活動資金が必要となります。基本的に売上を得るために支払ったお金はすべて「費用」になるのですが、会計の世界には「費用収益対応の原則」というものがあり、支払ったお金のうち、その年の売上(収益)に対応した部分だけがその年の費用となります。そのため、車の購入費用のようにその年の売上だけでなく、次年以降の売上にも貢献するような支出は、全額がその年の費用になるわけではありません。
変動費
費用は、売上に応じて発生する「変動費」と売上に関係なく発生する「固定費」の2種類に分類できます。
変動費は、売上の変動に連動して上下する費用をいいます。最もわかりやすい例が「仕入」で、1個1,000円の商品を販売するために300円の仕入が必要な場合、10個売るためには3,000円、100個売るためには30,000円の仕入が必要であるため、変動費は売上と正比例の関係にあります。
変動費となる主な勘定科目には、下記のようなものがあります。
- 仕入
- 原材料
- 外注加工費
- 荷造運賃
- 動力費
- 販売手数料
売上に対する変動費の割合のことを「変動費率」といい、変動費率が30%の場合には、売上100万円につき30万円の費用が必ずかかるということになります。
固定費
固定費とは、売上にかかわらず発生する費用のことです。家賃のように毎月一定金額のものもあれば、人件費のように毎月の状況によって金額が変わるものもあります。売上に対し比例関係にないものはすべて固定費に分類されます。
固定費の例は下記のとおりです。
- 人件費(役員報酬や給与、賞与など)
- 地代家賃(店舗の家賃や駐車場代など)
- 広告宣伝費(ホームページやチラシ、広告費用など)
- 通信費(電話代やネット利用料金など)
- 水道光熱費(電気代やガス、水道代など)
- 消耗品費(10万円未満の備品や日用品など)
- 旅費交通費(電車代やタクシー代など)
- 保険料(火災保険料や車両保険料など)
- 支払手数料(振込手数料や決済手数料など)
- 租税公課(固定資産税や収入印紙代など)
水道光熱費や広告費などは、売上の増加に伴って増える傾向にありますが、売上が2倍になっても水道光熱費や広告費が比例して2倍になるとはいえません。ですので、これらは固定費に分類するのが一般的です。
損益分岐点の計算方法
損益分岐点は下記の手順によって算出します。ここからは下記の具体例を使いながらみていきます。
【例】
- 売上高 100万円
- 変動費(仕入) 30万円
- 固定費 60万円
(家賃20万円、人件費30万円、光熱費5万円、広告費5万円) - 利益 10万円
1.変動費率(利益率)を算出する
まずは、変動費率を下記のように算出します。
変動費÷売上高=変動費率
今回の例だと、
変動費(30万円)÷売上高(100万円)=30%
になります。
変動費率が30%ということは、100万円の売上を出すためには必ず変動費が30万円かかるということです。逆に言うと、100万円の売上につき残った70万円が固定費を支払う財源(粗利益)になるということです。これを「利益率(粗利率)」といい、この例の場合の利益率は70%ということになります。
2.固定費を算出する
次に固定費の合計額を算出します。今回の例だと、固定費の合計額は60万円になります。今回の例だと、家賃20万円、人件費30万円、光熱費5万円、広告費5万円で、固定費の合計額は60万円になります。
3.損益分岐点を算出する
「黒字(利益)」とは、「売上から変動費を引いた金額が固定費を上回ること」をいいます。つまりは売上から変動費を引いた金額(粗利益)が、固定費と同額の60万円になった点が損益分岐点となります。
固定費÷利益率=損益分岐点
今回の例の場合には、
固定費(60万円)÷利益率(70%)≒損益分岐点(857万円)
となります。
損益分岐点からどういうことがわかる?
損益分岐点を把握することで、自分の店舗の現状がどの程度なのかがわかるようになります。その際に参考となる指標として「損益分岐点比率」と「安全余裕率」があります。それぞれについてみていきましょう。
損益分岐点比率
損益分岐点比率とは「損益分岐点が現在の売上高と比べて離れているか(近づいているか)」の指標で、下記のように算出します。
損益分岐点÷売上高×100=損益分岐点比率(%)
損益分岐点を基準(100%)として、現在の売上高が損益分岐点よりも大きくなるにつれて損益分岐点比率は下がっていきます(利益が増える)。
逆に損益分岐点比率が100%を超えるということは、現在の売上高が損益分岐点に達していないということであり、赤字であることを示しています。
安全余裕率
安全余裕率とは「あと何%売上が落ちても黒字を維持できるか」の指標で、下記のように算出します。
(売上高-損益分岐点)÷売上高×100=安全余裕率(%)
損益分岐点を0%として、現在の売上高が損益分岐点よりも大きくなるにつれて比率が上がり、損益分岐点を下回るとマイナスになります。
損益分岐点の活用場面
次は損益分岐点をどうやって活用していくのかを場面ごとに解説していきます。
新たに事業を始める場合
「どの程度の売上が見込めれば事業の採算が取れるのか」というシミュレーションをするためにも、その事業で想定される損益分岐点を出しておく必要があります。その事業ではどれくらい固定費がかかりそうか、変動費率が何%くらいになりそうかを予測することで、必要な売上高を算出できます。より正確な分析をすることで、新規事業に際するリスクが軽減されるだけでなく、無駄なコストの削減にもつながります。
銀行から融資を受けたい場合
銀行から融資を受けようとする場合にも、損益分岐点の考え方は重要です。銀行がなぜお金を貸してくれるのかといえば、「確実に返してくれる見込みがあるから」にほかなりません。銀行から借りたお金を返済するために、店舗経営で利益を出す必要があります。「どれくらいお金を借りたらいいのか?」「どれくらい毎月返済ができるのか?」を知るためには、どれくらい損益分岐点を超えていれば返済が可能なのかを把握しておく必要があります。無計画に融資を受けていると経営が行き詰まることになります。
会社が赤字の場合
店舗の業績が悪化していて何か手を打たないといけない場合、最初にやるべきことは「店舗の損益分岐点」と「現在の売上高との差異」を知ることです。やみくもに手を打つのではなく、どこを改善すれば良いのかを冷静に判断する必要があります。「現在の売上高はいくらか」「店舗の変動費率はどのくらいか」「毎月の固定費はいくらか」。これらを正確に把握するところから始めます。
損益分岐点をクリアするためのポイント
店舗が赤字の状態の場合、どうやって損益分岐点をクリアし、黒字化させていくのか。改善ポイントをいくつかご紹介します。
利益を出す方法は3つ
売上高が損益分岐点を上回るための改善方法は大きくわけると下記の3つです。
- 固定費を削減する
- 変動費率を下げる
- 売上を上げる
あたりまえに聞こえるかもしれませんが、それを確実に実行するのは簡単ではありません。それぞれの性質を理解し、確実に効果の出る方法を選ぶようにしてください。
固定費を削減する
多くの経営者は、業績が悪化した時にがんばって売上を上げようと努力します。しかし、売上が上がるかどうかはやってみないとわからないですし、「なんとしても売上を上げるぞ!」といった精神論や神頼みになりがちです。その前にまずは、固定費の削減ができないかどうかを検討するようにしましょう。
損益分岐点は、固定費が多いほど確保しなければいけない売上が多くなります。逆に固定費を削減できれば損益分岐点が下がり、確保しなければいけない売上も下がります。固定費は誰にいくら払っているのかがわかるので、これらを見直すことで今すぐにでも改善することができます。
【固定費の削減例】
- 人員の配置転換、効率化による人件費の削減
- オフィスの縮小などによる家賃負担の削減
- テレワークやオンライン面談を活用した交通費の削減
- 経費支出のクレジット活用によるポイント還元
- 社内業務を外注化することによる設備投資の削減
- 保険見直しなどによる保険料の削減
- 補助金、助成金を活用した費用負担の軽減
変動費率を下げる努力をする
変動費は、売上に比例して一定率で発生するため、変動費率が改善すると利益額は大きく向上します。例えば年商1,000万円、変動費率40%の会社があった場合に、変動費率が38%になるだけで年間20万円、35%になると年間50万円の利益が生み出されます。固定費の削減も大切ですが、変動費率を改善することもとても重要です。
変動費を改善するためには、仕入などのコストをできるだけ安くすることのほかに、付加価値をつけて今までよりも高い単価で販売できるようにすることも有効です。
売上を増やす前にすること
売上を増やすことに目を向ける前に、売上を上げるために無駄に支払っているコストがないかを確認するようにしてください。
【無駄なコストの例】
- 売上を取るために過度に安売りをしている
- 販路開拓のために不必要な接待交際を行っている
- 少額の取引先に対して膨大な時間を要している
- 過剰なサービス競争、価格競争に巻き込まれている
まずは店舗の価値を高めることで、同じ売上であっても利益率の向上や固定費の削減に貢献できる部分が必ずあります。これらを丁寧に改善・解消していくことで確実に利益体質になっていきますので、損益分岐点を上回る健全経営を目指していきましょう。
まとめ
- 損益分岐点とは、「赤字にならないために売上がいくら必要なのか」を教えてくれる指標
- 費用には「変動費」と「固定費」があり、それぞれの性質を理解することが大切
- 「損益分岐点比率」「安全余裕率」などを利用して店舗の状態がどの程度かを知ることで改善の方法が見えてくる
- 利益を増やす方法は「固定費を削減する」「変動費率を下げる」「売上を上げる」の3つ。できることから始めることが重要
経営の本質は「続けていくこと」です。店舗経営を継続・発展させていくために利益は必要です。店舗が潰れてしまうと従業員や家族、取引先までも巻き込んでしまいます。しっかりした財務基盤をつくるためにも店舗の損益分岐点を把握し、日々の経営に活かしていきましょう。
※この記事は公開時点、または更新時点の情報を元に作成しています。
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この記事を書いた人
穂坂 光紀(ほさか みつのり)税理士
税理士法人 エンパワージャパン 代表税理士 1981年生まれ 横浜市在住
中小企業こそ日本を支える礎であるという理念から、持続可能な社会・持続可能な企業を創るための「中小企業のための財務支援プログラム」を実施することで強固な財務力を持つ優良企業に導く、中小企業の財務支援に専門特化した税理士事務所を運営するとともに、児童養護施設の児童から地域を支援する税理士へと導く「大空への翼プロジェクト」を行っている。共著「七人のサムライ」や執筆など多数。