アルバイトの平均勤続年数4年。千葉の居酒屋「串屋横丁」が実践するモチベーションアップの5つの施策とは
飲食業界の人手不足が深刻です。アルバイトが雇えない。雇ってもすぐに辞めてしまうといった問題を抱えている飲食店オーナーの方も多いのではないでしょうか。
そんななか、都内のベッドタウンである千葉県千葉市「串屋横丁稲毛海岸店」のアルバイトスタッフの平均勤続年数は4年。高校生や大学生など、勤続年数が短くなりがちな学生を中心としながら驚きの数字といえます。オープンから11年目を迎えた同店の店長・渡辺真一さんに、スタッフの離職率を下げる試みをうかがいました。
この記事の目次
目指すのは、関わる人を幸せにできる最強の串焼き店
渡辺さん(以下、渡辺):串家横丁稲毛海岸店の目指す姿は、「家族・友人・やすらぎ」をテーマにした「関わる人を幸せにできる最強の串焼き屋」です。テーマは各店舗の店長が定めます。お客さまだけでなくスタッフにとっても、第二の家となるような場所を作りたい、という僕の想いがこめられています。
こういった想いをこめたのは、僕が「家族」へのあこがれがあったためです。元々父が不在の家庭で育ち、僕が14歳のときに母が他界。祖母と姉の3人で暮らし始めました。学校の友達には当たり前のように両親がいるのになぜ僕にはいないのかと、寂しさを感じたことは数え切れません。だから、ずっと「家族」に憧れを持っていましたし、僕にとってお客さんやスタッフは「家族」。家族には、やすらぎを感じてもらい、幸せになってもらいたいのです。
このビジョンを実現するためには、スタッフたちの協力が欠かせません。スタッフには当店のコンセプトはもちろん、利用される客層や来店の動機、「最強のチームになるためにすべきことはなにか」といった部分まで共有するようにしています。スタッフの人材育成に力を入れながら、ともに「最強の串焼き屋」になるための方法を考えているのです。
アルバイトスタッフの平均勤続年数は4年
渡辺:当店スタッフの平均勤続年数は4年。アルバイトスタッフさんのうち学生が8割。学校を卒業しライフステージが変わると「卒業」として辞めていくものの、それ以外の理由で辞めた人は11年間で8%ほどです。
また、多くの飲食店で問題になる「連絡なく突然辞めてしまう人」、いわゆるバックレはオープンからこれまで一度もありません。
今は求人を出しても応募者の集まる時代ではなくなりました。だからこそ、スタッフを育て上げることに注力しています。
もぢょい有限会社の運営する串屋横丁稲毛海岸店店長。23歳で同社に入社し、串屋横丁本千葉店で2年間勤務したのち、稲毛海岸店に移動。2年目で店長となる。
スタッフのモチベーションを上げる取組み
渡辺:何の努力もせずにアルバイトスタッフさんを育成できたり、モチベーションが上がったりすることはありません。そのため、当店独自の、さまざまな取り組みを行っています。
1. 時給を決めるスタッフ評価シート
渡辺:まずは、「スタッフ評価シート」を用いた人事評価です。4ヶ月に一度実施しています。
当店での仕事を「店舗理念の理解」「接客」「キッチン」「チームワーク」「規律」「学び」「店舗業務」の7つの大項目に分けました。スタッフはそれぞれの項目ごとに5段階評価で自己評価を記入します。その後、僕が店長評価欄を埋めます。記入したあとは、1人あたり1時間半~2時間ほどかけて面談を実施。現在「できるところ」と、将来的に「伸ばすべきところ」を話し合います。
すべて話し合い納得してもらったところで、店長評価の合計点数により、時給が定まります。○点以上で○円、といった具合です。
この取り組みをおこなうことで、時給アップへのモチベーションが高まったことはもちろん、スタッフ間でよりよい接客の方法を教え合う文化が自発的に生まれたのは嬉しい誤算でした。
2. 成功体験を積み重ねるための行動計画シート
渡辺:最近始めて、効果が高いと感じているのは「行動計画シート」。年に1回、1年間の行動計画表を作ります。なお途中で入ってきたアルバイトスタッフさんは、入社後1〜2ヶ月したタイミングで制作しています。
中央にあるA、B、Cのマスに今年の目標を記入してもらい、周囲8つのマスに、その目標を達成するためにおこなうことを書いてもらいます。仕事だけでなく、プライベートの目標を書いてもいいよ、と伝えています。
すべてのマスを埋めた後、3ヶ月ごとに行動計画シートを記入します。
たとえば、最終目標を「商品知識を身につける」に設定したとしましょう。その場合、1ヶ月目には「ドリンクを30種類すべて覚える」、2ヶ月目で「サイドメニューを30種類すべて覚える」、3ヶ月目では「すべての商品を覚え、お客様に1日○回提案する」といった風に具体的な目標を据えます。さらに、1ヶ月間で達成したい目標を落とし込み、毎日の行動目標を立てます。
行動計画を立てるときは抽象的なものではなく、期間と数値を明確にして記載することが大切です。立てた目標は1ヶ月ごとに振り返り、どれだけ達成できているかを測ります。
1日から3ヶ月という短期間での「目標」を持ってもらうことで、スタッフに「小さな成功体験」をどんどん積んでもらうことがねらいです。身近な成功体験を積み重ねることで「できるようになってきた」という自信をつけてほしいと思っています。
自分で目標を立て、成功体験を積み重ねることは、中堅以上のベテランスタッフのモチベーション維持につながります。新人のころは、新しいことばかりで覚えることも多く、仕事そのものが楽しいと思います。しかし、ある程度業務知識やスキルが身についてくると「ルーティンとしてただ業務をこなす」だけに陥りやすい。だから、自主的に行動できるような目標を立てていく。自分の成長に手応えを感じるようにすれば、スタッフは辞めないと考えています。
3. 月1の店舗ミーティングで知見の共有
渡辺:月に1回、2時間店舗ミーティングをおこないます。議題は「勉強会」と「ヒーローインタビュー」、「接客ロールプレイング」です。
勉強会では、アルバイトスタッフさんが先生となります。テーマは自由。過去には「褒め方のコツ」などをおこないました。基本的にアルバイトスタッフさんにまかせています。人に教えるには、自分が勉強しないといけません。自発的な成長を促すために始めた仕組みです。
ヒーローインタビューとは、優秀なスタッフの知見を全員で共有するという施策です。ミステリーショッパーから「輝いてるスタッフ」として選ばれたスタッフに「どういう箇所に気をつけながら店舗に立っているか」を発表してもらいます。表彰者が偏りそうに思われますが、意外とばらけるもの。アルバイト歴半年のアルバイトスタッフさんでも表彰されることもあります。
残り時間では、接客ロールプレイング(ロープレ)をおこないます。お客さまの入店から退店までのワンシーンにフォーカスすることが多いですが、新しいメニューを始めたときは、オススメする方法をスタッフ全員でロープレします。どんなオススメの仕方が良いか、スタッフ全員が知見を共有できるというワケです。
4. ボーナス制度の実施
渡辺:アルバイトスタッフさんへのボーナスの支給もあります。当店の運営母体・もぢょい有限会社には、営業利益額が前年比で1%上がるごとに、店舗へ懸賞金がもらえる制度があります。売上を上げられたのは、スタッフの頑張りのおかげです。そのため、懸賞金はすべてアルバイトスタッフさんのボーナスに充てています。
営業利益額はスタッフ全員に共有することで、「あと○円利益を出したらボーナスが出る」とスタッフが自発的に考え、パフォーマンスの向上につながると考えています。僕自身もスタッフに「今月はこれだけ利益が出ているから、皆にいくら払える」と包み隠さず伝えているんですよ。
ボーナスの額は、出勤した回数や月1のミーティング来ている回数、勤務時間、目標達成度などから算出。この判断基準もスタッフに公表しています。
5. 悪口はNG
渡辺:いろいろな施策を行っていますが、絶対に禁止しているのは陰口や悪口です。
複数人で働いていると、どうしても合わない部分や不満に思う部分が出てくるものです。そのときはまず僕に言ってもらうようにしています。その後、僕と不満に思っている人、思われている人の3人で話し合いをします。
話し合いの場では、お互い不満に思っているところを全部言い合ってもらいます。その後、全部逆に考えてもらうよう働きかけるのがコツです。例えば、お客さんと話してばかりいるスタッフに不満を持っている人がいるとします。でも、そのスタッフはお客さんとのコミュニケーションを大事にし、多くの時間を割いているのでしょう。一方で、お客さんとはあまり話さないスタッフは、お客さんに対して冷たいのではなく、お店がまわるようにオペレーションを重視しているのかもしれません。
陰口で済ますのではなく、お互いに話しあって意図を伝えることで、相手のいいところや行動の意図が見えてくる。店舗はチームで営業しています。スタッフそれぞれの考えがありながら、良いお店を目指していることを相互に理解してもらいたいのです。
ここまで取り組みを紹介してきましたが、多数の取り組みをおこなったのち、残っているのがこの施策です。本を参考にしたり、勉強会で知識をいれたり、他の経営者にアドバイスをもらったりなどしながら、いいなと思ったことは僕なりのアレンジを加えながら取り入れています。今後もさまざまな取り組みをおこない、スタッフさんの成長につながることを祈っています。
働くことの楽しさを知ってもらいたい
渡辺:これだけ施策を行っていると、よく「寝てないでしょう」や「大変でしょう」などと言われますが、そんなことはありません。きちんと寝ていますし、休みもとれています。
大変さを感じないこともありませんが、それ以上に、僕は人や人と関わることが好き。冒頭でもお話したとおり、僕にとってこの店は家で、スタッフは家族。少年期に憧れていたものが、ここにはあります。だからこそ、串屋横丁で働いてくれるスタッフを大切にしたい。みんなのことを考えて、少しでも役に立ちたいのです。
それに、今日までお店を続けてこれたのは、お客さんはもちろん、現在のスタッフ、歴代のスタッフ、関わってくれたみんなのおかげです。たくさんお世話になってきたので、これからは次の世代へ同じことをしてあげたい。それが僕の恩返しであり、次世代への恩送りです。
また、アルバイトスタッフさんには働くことの楽しさを知って欲しいと考えています。「大人が本気で遊べば仕事になる!」が口癖の僕は、言葉どおり、これまで串屋横丁で本気で遊び、仕事としてきました。
学生さんたちが中心のアルバイトスタッフさんですが、社会人になる前に、仕事のことを本気で考えて、楽しみながら仕事をしたら、お金につながることを知って欲しいと思っています。それが僕のモチベーションの源泉です。
いまは当店のみですが、会社全体にこういった取り組みを広げ、あらゆる人に働くことの楽しさを知ってもらいたいと考えています。
プライベートではありますが、子供が産まれてからは輝いている大人の姿を見せたいという想いが強くなりました。「早く大人になって仕事したい」と自分の子供にも言われるよう、僕自身も楽しみながらお店を続けていきたいです。
まとめ
アルバイトスタッフのモチベーションをアップさせるために、さまざまな取り組みを行っている串屋横丁稲毛海岸店。すぐにすべての施策を取り入れるのは難しくても、店舗に合った施策を取り入れてみてはいかがでしょうか?
JR京葉線・稲毛海岸駅から徒歩3分に位置する、焼とんや焼き鳥をメインとした居酒屋。土日祝日でも17時のオープンから1時間ほどで満員になる日もあるなど、常連客や近隣住民に人気の店舗。
※この記事は公開時点、または更新時点の情報を元に作成しています。
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この記事を書いた人
高根 千聖(たかね ちさと)編集者
株式会社ZINEの編集者。編集プロダクションで週刊誌の編集・ライター業務に従事。その後、制作会社にて紙媒体やWEBサイトのディレクション、編集・ライター業務に携わる。得意ジャンルはビジネスやグルメ、芸能など。