社会保険料控除を活用して将来の安心と節税効果を得る方法
社会保険料は公的な保障を受けるために支払う保険料です。社会保険料控除には、税金の計算の基となる「所得」を減らす所得控除として、節税の効果もあります。ここでは、社会保険料控除について解説していきます。
この記事の目次
社会保険料控除とは
社会保険料控除とは、納税者自身が支払った健康保険や国民年金などの社会保険料に加えて、生計を共にする配偶者、その他の親族などが負担すべき社会保険料を支払った場合に、所得税・住民税の対象となる所得金額から差し引くことを言います。(対象となる社会保険料については後述)
企業(法人)の経営者、及び従業員など給与所得者の社会保険料は、報酬から天引きされますが、個人事業主は自ら保険料を納めることになります。そのため、社会保険料控除を受ける手続きも異なります。
社会保険料控除の効果
それぞれの社会保険料を支払うことで、医療、介護、死亡、老後、失業、労災などのリスクに備え、いざという時には大きな保障を受けることがきるのが、社会保険の目的でありメリットです。一定条件のもと、国が加入を義務付けており、給与から天引きで支払う社会保険料の全額を、税金の計算の基となる所得から差し引くことができます。その結果、所得に関連して納める所得税、住民税などを減らすことが出来ます。
そのため、生命保険料控除や寄付金控除など、支払った全額は控除できない種類の所得控除に比べて、税法上の「社会保険料」に該当するものは、節税効果が大きいと言えます。
社会保険料控除と生命保険料控除の効果の比較
具体的な源泉徴収票を参考にしながら、まずは所得税の計算方法を確認しておきましょう。
上の源泉徴収票には、給与・報酬の額は500万円、給与所得控除後の「給与所得の金額」は346万円、給与所得から控除される「所得控除額」(社会保険料60万円を含む)は合計222万円(内訳は下記参照)と記載されています。そしてその結果、「源泉徴収された所得税及び復興特別控除税の額」は6万3,300円ということが読み取れます。
(計算過程)
給与所得の金額=500万円×20%+54万円=154万円
課税所得金額=給与所得の金額346万円―所得控除額222万円=124万円
所得税額=課税所得金額124万円×所得税率5%=6万2,000円
所得税及び復興特別所得税の額=6万2,000円+(6万2,000円×2.1%)=6万3,300円
(参考)所得控除額 220万円の内訳
・社会保険料控除額 60万円
・生命保険料控除額 10万円
・配偶者控除額 38万円
・扶養控除額 76万円(38×2名の扶養)
・基礎控除額 38万円
次に、社会保険料控除60万円と生命保険料控除10万円の節税効果を比較してみます。
社会保険料控除額 | 納税額 (所得税+復興所得税) |
納税額の比較 (上の例 63,300円に比べて) |
---|---|---|
社会保険料控除60万円がなかった場合 | 93,900円 (92,000円+1,900円) |
30,600円 アップ |
生命保険料控除10万円が無かった場合 | 68,400円 (67,000円+1,400円) |
5,100円 アップ |
※納税額は100円未満切り捨て
仮に、生命保険料を年間60万円支払っていたとしても、生命保険料控除には保険の種類によって控除額の上限が定めらており、最高でも12万円です。そのため、この表のような納税額の違いがでてきます。
この例からも、所得から全額控除できる社会保険料は影響が大きいことがわかります。
社会保険控除の対象となる保険料
社会保険料控除の対象となるものには、以下の保険料や掛金があります。
- 労働保険:雇用保険、労災保険
- 年金関係:国民年金保険、国民年金基金、厚生年金保険、厚生年金基金、農業者年金、付加年金等
- 健康保険:健康保険、国民健康保険、介護保険、後期高齢者医療制度、船員保険等
労働保険の取扱いについて
労災保険
代表権・業務執行権を有する役員は、原則加入できません。監査役及び監事は、法令上、使用人を兼ねることができないものとされていますが、事実上、 一般の労働者と同様に賃金を得て労働に従事している場合は、「労働者」としみなします。
なお、一部は申請によって特別加入ができます(中小企業事業主、大工・左官などの一人親方等とその家族従業者等が対象)。
雇用保険
代表権・業務執行権を有する役員は、原則加入できません。
社会保険料控除を受けるための手続き方法
社会保険料控除を受けるには、年末調整と確定申告の二通りの方法があります。
年末調整
企業の経営者も、会社から報酬を受け取る場合には、社会保険料は報酬から天引きしているため、年末調整で社会保険料控除を受けることが出来ます。
なお、会社で加入して支払う社会保険料以外に、控除対象となる社会保険料を支払った場合には、「給与所得者の保険料控除申告書」に社会保険料等の金額と内容を記載して、年末調整することで、社会保険料控除の適用を受けることができます。例えば、個人事業主の方が年の途中に会社を設立した場合、法人化する前に支払った国民健康保険料や国民年金保険料が該当します。それらも合わせて申告しなければ、社会保険料控除を全額受けられないことになります。
もし年末調整時に失念してしまった場合には、確定申告により社会保険料控除を受けることも可能です。
参考:国税庁「給与所得者の保険料控除申告書」
確定申告書
個人事業主やフリーランスの人はこちらの方法になります。自身で払った社会保険料や、生計を共にする配偶者やその他の親族が負担すべき社会保険料を支払った場合には、確定申告により社会保険料控除を受けることが出来ます。
確定申告書の記入方法
確定申告書類の第一表と第二表に、該当する情報を記入していきます。
手順としては、まず第二表の「社会保険料控除」欄に、社会保険の種類(国民年金、国民健康保険料など)と支払った保険料額をそれぞれ記入します。源泉徴収票がある場合は、「源泉徴収票の通り」と記載の上、社会保険料の総額を記載します。社会保険の種類ごとに分けて記入する必要はありません。
なお、支払った保険料総額は、支払方法によって、口座振替なら通帳を、現金納付なら領収証書を、クレジットカード払いなら利用明細書を見ながら、1月から12月までを集計します。国民健康保険料については、現住所の管轄役所に行けば控除額をまとめた資料をもらうことも出来ます。
そして、第二表により算出した合計額を、第一表の社会保険料控除欄に記入します。
出典:国税庁 「個人事業者の方の確定申告 確定申告の手引き(確定申告書B用)」令和元年分より引用
必要な添付書類
国民年金保険料や国民年金基金掛金を支払った場合には、確定申告書に社会保険料控除証明書の添付が必要となります。
※社会保険料控除証明書は毎年10~11月上旬に国民年金機構より送付されます。
参考:国税庁 社会保険料控除「4社会保険料控除を受けるための手続き」
なお、確定申告の添付書類として、国民年金保険料や国民年金基金掛金は必要ですが、それ以外の国民健康保険料などの控除証明書は求められません。
社会保険料控除を上手に活用するためには
社会保険料はただ支払うだけではなく、もしものときの保障を得るためのものであり、上手に活用することで、将来への安心と節税の両方を叶えることができます。具体的な方法を3つご紹介します。
国民年金保険料の前納
国民年金保険料を2年分まとめて現金で前納することで、支払総額で1万5,000円程度の割引になります。そして、2年分を前納した場合、支払った年分の確定申告において社会保険料控除を全額(2年分)受けることもできますので、利益が多く出た年などに控除額を増やして、課税対象の所得を下げたい場合には前納が有効です。
国民年金基金への加入
国民年金基金は、老後の年金に上乗せしてもらうための制度ですが、掛金を全額社会保険料として控除でき、個人事業主などが任意に加入することができます。厚生年金に加入している人は加入できません。
なお、具体的な節税額及び受給額の増加については、全国国民年金基金にてシミュレーションが可能です。
全国国民年金基金「今の自分はいくら受け取れる?」
付加年金への加入
付加年金は、国民年金基金と同様に、個人事業主などが加入することができます。国民年金基金との併用はできませんが一律400円の保険料を納付するもので、20歳から60歳までの480ヵ月間を上限とし、納付期間×200円の上乗せを毎年受けることが可能です。
シミュレーションすると、40歳から60歳まで加入した場合(240ヵ月)は毎年の年金に4万8,000円が上乗せされることになります。また、支払った付加年金は全額社会保険料控除の対象となりますので、節税にもつながります。
まとめ
- 社会保険料は「将来への保障」と「控除で節税」という2つのメリットがある
- 給料から天引きされている社会保険料以外の社会保険料控除も申告できる
- 社会保険料控除を受けるための手続きには2つある
通常、給与所得者は社会保険料が給与天引されています。しかし、給与から差引かれない社会保険料については、確定申告書を提出するか、もしくは年末調整の際に「給与所得者の保険料控除申告書」を提出する必要があります。漏れなく申請して、しっかり控除を受けましょう。
※この記事は公開時点、または更新時点の情報を元に作成しています。
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この記事を書いた人
福島 悠(ふくしま ゆう)経営コンサルタント/公認会計士
公認会計士、税理士。経営改革支援認定機関/SOLA公認会計士事務所 所長。
上場企業の顧客向け税書類の監修や経営コンサルティング、個人事業の事業戦略支援と実行支援まで幅広く対応。顧客収益最大化を理念に掲げ起業家を徹底サポート。多種多様な企業の税務顧問と年間約30件の戦略立案を行っている。