リピーターを生み出そう。飲食・小売店の「顧客管理」とは?
「売上を上げるために何をすれば良いのか」と思っている人は多いのではないでしょうか。ビジネスとは、顧客がいるからこそ成り立ちます。飲食店や小売店オーナーにとって、この「顧客」をしっかりと管理し、分析していくことこそが売上アップに直結するのです。
売上アップに顧客データをどう活用するのか。これから「顧客管理」をするに当って有効な方法をお伝えします。ぜひ店舗売上を上げるために役立てていただければと思います。
この記事の目次
そもそも「顧客管理」とは何か
そもそも「顧客管理」とは何でしょうか。
CRM(シー・アール・エム)とも呼ばれることも多く、数年前から重要視されています。
CRMとは、Customer Relationship Management(カスタマーリレーションシップマネジメント)の略で、顧客との継続的で良好な関係構築のことです。
すなわち「顧客管理」とは、
「顧客と継続的に良好な関係を築いていくこと」という意味になります。
顧客と継続的に良好な関係を築いていくに当って、重要な考え方が、自社の顧客の購買プロセス単位で現状を把握することです。
AIDA(アイダ)という言葉を聞いたことはありますでしょうか。
注目のAttention、興味・関心のInterest、欲求のDesire、そして行動のActionの頭文字を取ったもので、顧客を最終的な行動(購買)に導くべく、今どんな状態にあるのかを知り、適切なコミュニケーション施策を打つために用いられる考え方です。
飲食店や小売店にとって、
A:顧客にいかに注目してもらえるか(顧客にどう知ってもらえるか)
I:注目してもらった上で、どう興味を持ってもらえるか
D:他店舗と比較される中で、どう自店舗で食べたい・買いたいと思ってもらえるか
A:そして、実際に来店してもらい飲食あるいは購買してもらえるか、更にリピートし続けてもらえるか
全て、とても重要な要素です。
この顧客の購買プロセスに即して適切なアプローチを取っていくことで、結果として自店舗の新規顧客が増え、かつリピーターも増えていくことに繋がっていくのです。
例えば、コロナ禍においても対前年比をプラスで推移している、マクドナルドなどが良い例です。
マクドナルドの「AIDA」それぞれのプロセスにおける施策を整理してみましょう。
マクドナルド
Attention
- 頻繁に流れるCM
- 大きな看板、分かりやすいテーマカラーやロゴ
Interest
- 季節の新商品など常にメニューを更新
- 割引などのキャンペーンも高頻度で実施
Desire
- 子どもをメインターゲットのひとつとする(CMとも連動)
→小さいころに食べると大人になってもたまに食べたくなる(おふくろの味理論) - 店から漂う匂い
Action
- 店舗数を拡大しどこでも買える
- 店舗オペレーションを徹底してすぐ買える
- 100円ちょっとからでも買える
何もマクドナルドを真似しましょう、と言っているわけではありません。
自店舗にとっての「AIDA」に基づいた施策を講じることで、新規顧客を集め、そしてファン化していくことが可能になってきます。
このような「AIDA」に基づいて新規顧客を集めて、その顧客を少しずつ育成していくことをナーチャリングと言います。
例えば、飲食店や小売店においてもチェーン企業では、Web広告などでまず見込み客としてアプリ等で会員化し、その後プッシュ通知やメールマガジン等で育成(この段階ではまだ店舗に訪れていません)、そしてクーポン等を使って来店させてリピートに繋げていく、という施策を取っています。
「まだ早い」と思われる方も多いかもしれませんが、これは決して大手企業だけが出来る施策というわけではありません。個人店舗、中小企業だからこそWebの力を使って見込み客を集めて、そして自店舗のあるエリアに来てもらったタイミングで来店して購買してもらう、そういうことを今から準備していくことも一つの成長戦略だと思います。
「顧客管理」のスタートは「顧客データ」の取得から
では、先ほど説明したような「顧客管理(CRM)」を実現するにはどうすれば良いでしょうか。そのスタートは、「顧客データ」の取得からになります。
顧客データの取得方法としては、「会員化」が最も効率的です。従来からある方法として、「会員カード」を作り、購入金額に応じてスタンプを押して一定数溜まったら割引などをする、というものがあります。今でもこの手法を取っている店舗は多いと思いますし、この方法でも「顧客管理」の一端は担えると思います。そのスタンプ欲しさ(その後の割引)にリピート化する顧客は一定数いるでしょう。しかし、本来「顧客管理」とは、自社の購入顧客のデータを分析し、次の施策(商品開発や営業・販促等)に繋げて、新規顧客の増加やリピート率の向上に繋げていくことです。アナログ的な会員カードでそれを実現するためには、会員カードを作る際に顧客情報を登録してもらい、また毎回の購入内容をエクセル等に入力して管理をしていくことが必要となります。これはとても手間のかかることです。
ただ、今では例えばAirレジのような安価に導入できるモバイルPOSにおいても、顧客情報を登録できる機能がるため、一度会員登録してもらい、その後の購入においては、会員番号さえ店舗側で分かるようにしておけば、どの会員がいつ何の商品を購入したのかがデータとして毎回購入した際に蓄積されます。そのデータを分析することで、AIDAに基づいた施策を打つことができ、新規顧客の増加やリピート率の向上等に繋げることができるのです。
では、どのような顧客データを取れば良いのでしょうか。会員登録する際に取るべきデータとしては、以下4つです。
- 氏名、メールアドレス、電話番号
- 生年月日、性別、初回購入日(会員登録日)
- 住所(あるいは企業名)
- 来店したきっかけ、その他
1. 氏名、メールアドレス、電話番号
店舗側からアプローチするために絶対に必要なデータとなります。
会員登録してもらう場合は、必ず取得するようにしましょう。お客様が来なくなってもこちらからアプローチできる手段が取れることが重要です。
2. 生年月日、性別、初回購入日(会員登録日)
分析する上で最低限必要なデータとなります。
自店舗のお客様の性別や年代の構成や、性年代別での購入商品の違いなどを分析することで顧客別のアプローチへと繋げることができます。
初回購入日(会員登録日)も重要です。毎年、毎月新規顧客を増やすことができているのか、購入頻度や累計購入金額等、会員をファン化できているのか等の分析に役立ちます。
3. 住所(あるいは企業名)
①と同様、DM等でアプローチすることにも使えるのですが、飲食店も小売店もエリアビジネスであるため、自店舗の顧客がどのエリアから来ているのか分析することで、住宅街立地であれば取り切れていないエリアに対して集中的にチラシを配布するとか、ビジネス街であれば、来店数の多い企業向けに紹介キャンペーンをする等、エリアマーケティングに繋げることができます。
ただ、住所を入力するのは顧客にとってはハードルが高いので、任意項目で良いと思います。
4. 来店したきっかけ、その他
知人からの紹介なのか、食べログ等の口コミサイトを見て来たのか等、知って来店したきっかけを知ることで、集客するに当ってどこに予算をかけるべきかに繋げることができます。
その他、来店方法(利用した交通機関)や家族構成等、自店舗の業態によって取得すべきデータは異なってきますので、一度自店舗のお客様の特徴を整理してみるのも良いでしょう。
ただ、こちらの項目についても①②と比較すると優先順位は下がりますので、任意項目で良いでしょう。
ちなみに、個人情報の取得に関しては、自社(自店舗)として個人情報保護方針(プライバシーポリシー)を設けておくことが必要です。
自社HPの中に掲載し、店舗で取得する際に、利用目的を伝えてお客様から承諾を得れば問題ありません。
また、店舗側からメール等でお知らせする際には、お客様側で配信停止ができる「オプトアウト」を設置することが必要ですので、覚えておいてください。
「顧客データ」を使った分析・管理方法とは
最後に、取得された「顧客データ」を使い、どう「顧客管理(CRM)」に活用していくのかについて、具体例をお伝えします。
初級編:セグメント別分析
セグメント別分析は、性別や年代別、会員登録年別など、顧客を何かしらのセグメントで分けて、それぞれの売上や客数推移を分析することで、傾向を導き出し、今後の施策を構築するのに活用できます。
また、性別や年代については、会員登録の仕組みがなくても、レジを打つ際にお客様の外見で登録していくことで、ある程度の傾向が掴めるため、そこからのスタートでも良いでしょう。
上図は毎年の顧客の年代別の客数推移をグラフ化したものです。
上のグラフは絶対数、下のグラフは構成比の推移になりますが、特徴として、60代以上の構成比が減少傾向で推移している一方で、20代以下の構成比が増加傾向で推移していることが分かります。
このような傾向を把握できるだけでも、次の施策の仮説が立てやすくなります。
例えば、上図で言うと、若年層向けの商品開発や販促施策により、伸びている層を更に強化していく施策が想定できるでしょう。
POSに蓄積されているデータから、各年代が購入している商品の傾向までブレイクダウンして分析することで、どの商品が好まれているのか把握することもできるでしょう。
このように、セグメント別分析だけでも、次の一手に繋がる分析ができ、顧客管理に活用できるのです。
中級編:RFM分析
「顧客管理」をしていく上で、RFM分析も有効です。
RFM(Recency frequency monetary analysis)分析とは、「よい顧客を見分ける」分析方法で、お客様の購入状況に応じた打ち手を考えるために活用できます。
誰が一番最近購入した顧客か、頻繁に購入する顧客は誰か、一番お金を使ってくれている顧客は誰か、という3つの側面から分析します。
こちらは、会員ごとに購買履歴が蓄積されていることが必要となるため、顧客の会員化は必須です。
会員の購入履歴から、下図のようにデータを整理することで、RFM分析が可能となります。
この中で、Recency(リーセンシー)が最も重要な指標となります。
最も最近購入してくれた会員がロイヤリティが高く、数ヶ月前が最後の購入である会員はロイヤリティが低いという判断をします。
1年以上前が最後の購入の場合は、既に離脱してしまっている可能性があると考えるべきでしょう。
例えば、飲食店であれば、来店頻度が高い業態なので、毎月おすすめメニューを作って訴求することで毎月来てもらえるようにしたり、あるいは3ヶ月来店のない会員対しては、季節のおすすめクーポンを配ることで再来店に繋げたり、もっとご無沙汰してしまっている会員に対しては、少なくとも誕生日のときには思い出してもらえるよう誕生日クーポンを発行したりと、この「Recency」をどれだけ高めることができるかが、「顧客管理」する上で重要です。
同じようにFrequency(フリークエンシー)やMonetary(マネタリー)で、ある一定期間(1年間で設定することが多い)における購入回数や購入金額についても見ていきます。回数、金額ともに大きいほど、ロイヤリティの高い顧客ということになりますので、いかに頻度高く来店してもらえるか、一回の購入金額を高めることができるのか、に活用していきましょう。
上級編:CPM分析
新規顧客を日々獲得していくことももちろん重要なのですが、獲得した新規顧客をどれだけリピーターに繋げていくかの方が大切です。
日本国内において、市場がシュリンクしており競合他社が多く飽和状態である飲食業や小売業において、自店舗のファン層が多ければ多いほど、ベースとなる売上が確保できている状態となり、経営に余裕が生まれます。反対に、このファン層が希薄だと、常に新規顧客を獲得する必要があり、そのためにはチラシや広告施策など、コストも必要となってきます。
いかに自店舗のリピーター、ファンを増やしていくことができるのか、考え実行していくことが重要です。
その際に活用される分析方法が、CPM分析です。CPM分析とは、顧客ポートフォリオマネジメントの略で、顧客の購入回数、購入総額、在籍期間(初回購入からの最終購入日までの経過日数)、離脱期間(最終購入日からの経過日数)といったデータを元に、ユーザーを10パターンに分類し、その傾向を分析することで、リピート顧客の増加に繋げることができます。
上図は、CPM分析イメージとなります。
先ほど10パターンとご説明しましたが、上図のような5パターンを「現役(アクティブな会員)」と「離脱(離脱してしまった会員)」に分けて10パターンとなるのですが、今回は分かりやすいように5パターンで図示しています。
初回客:設定した一定期間において、1回だけ購入経験のある顧客
よちよち客:設定した一定期間において、2回以上の購入経験がある顧客
コツコツ客:設定した一定期間において、安定してリピート購入実績のある顧客
流行客:短い(設定した)期間内で、設定した金額以上の購入実績がある顧客
優良客:長い(設定した)期間内で、設定した金額以上の購入実績がある顧客
が基本的な各パターンの考え方になります。
グラフの横軸がそれぞれの顧客セグメントにおける平均在籍期間、縦軸が顧客セグメントにおける合計購入金額、●の大きさが顧客セグメントの会員数となります。
例えば、上図の例では、初回客という、1回だけの購入顧客が最も多く購入金額も高いことが分かります。それに対して、ロイヤリティの高い優良客やそれに続くコツコツ客は少ないことが分かります。
同じ業態でも、企業によってCPM分析の結果は異なってきます。
自店舗の状況を上図のように可視化することで、会員の状況を把握し、その上で、顧客セグメントごとの購入商品を分析することで、継続するためにフックとなる商品やタイミングなどをもとにアプローチをかけていくことが可能となります。
初回客で離脱してしまうことが多い場合は、コミュニケーション回数を増やし、フォローを厚くする必要がありますし、コツコツ客がなかなか優良客になっていかない場合は、クロスセルやアップセルへの導線を見直した方が良いでしょう。
最もロイヤリティの高い優良客が離脱しはじめる傾向があれば、特別感を演出するようなコミュニケーションが必要となってきます。
このように、様々な切り口で「顧客データ」を分析することで、自店舗のファンを増やしていくような「顧客管理」が可能となるのです。
まとめ
- 「顧客管理」は購買プロセスを明確にする「AIDA」で整理する
- 「顧客管理」のスタートは「顧客データ」の取得から
- セグメント別分析やRFM分析、CPM分析等により、自店舗のファンを増やす「顧客管理」を可能にする
「顧客管理」は店舗売上を増加させていくためにとても有効な手段です。商売はすべて顧客がいてこそ成り立ちます。まずは、自社の顧客を理解するためにも、顧客データの取得・分析が出来るようになりましょう。
※この記事は公開時点、または更新時点の情報を元に作成しています。
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この記事を書いた人
齋藤 健太(さいとう けんた)データストラテジスト
慶応義塾大学理工学部卒業後、株式会社船井総合研究所に入社。主に中堅規模(数百億)以上の企業をメインクライアントとしたプロジェクトに従事。小売業、飲食店、メーカー等、幅広い業種において、中期経営計画策定やマーケティング戦略の構築、M&Aにおけるビジネスデューデリジェンス等の実績を有する。独立後も製造業や小売業、サービス業に至るまで大小様々な企業の課題発見に従事、成果を上げる。特にデータ分析においては、複数のコンサルファームにもアサインされる実力を有する。その他、AI関連スタートアップや教育関連企業からもデータ分析支援の依頼を数多く受けている。
2013年9月「問題解決のためのデータ分析」(2019年2月に新装版)、2019年10月「会社の問題発見、課題設定、問題解決」を出版。
KUROCO株式会社では、中小企業向けのデータ活用支援(分析、可視化、教育)を展開。
https://cm-consulting.jp/