飲食・小売店のオーナーが「人件費」の最適化について知っておきたいこと
笠岡 はじめ(かさおか はじめ)シニア販売促進士/飲食店コンサルタント
店舗ビジネスにとって「人」は欠くことができません。「人」こそが売上や利益を上げるために最も重要な役割を担っている、という店舗も多いでしょう。一方で、常に店舗オーナーを悩ませるのも「人」ではないでしょうか。
店舗ビジネスにとって大きなコストである原価は、売上を得るために必要不可欠です。家賃を変えることはできません。しかし、人件費は? 日によってバラツキがあるのではないでしょうか。
この人件費を最適化することが出来れば、店舗ビジネスにとって収益を安定させることに繋がります。そのための人件費の捉え方、コントロールの仕方を学んでいきましょう。
この記事の目次
※Airレジ マガジン編集部注
本記事は、主に飲食店・小売店における人件費データの扱い方・管理や分析の方法に関しては、データストラテジストの齋藤 健太さま、またその分析の中で明確になる問題・課題の具体的な解決方法については、飲食店販促コンサルタントの笠岡はじめさまに執筆して頂きました。
店舗オーナーにとっての人件費とは?
さて、店舗にとっての人件費とは何でしょうか。言葉は知っていても、具体的にその中身を考えたことのある人は少ないかもしれません。
小売店では、商品を仕入れて(あるいは作って)、それを店頭に並べてお客様に手に取り買ってもらい、その対価として代金を受け取ります。
飲食店では、美味しい料理を作ってそれをお客様に食べてもらって、その対価として代金を受け取ります。
その一人一人のお客様から受け取る代金の積み上げが、例えば一日の「売上」、一週間の「売上」、一ヶ月の「売上」、一年間の「売上」というように、店舗にとって経営活動をしていく上での源泉となります。
その源泉を生み出すためには、料理である「商品」だけでは成り立たないことはよく分かるでしょう。
お客様に美味しい料理を作るためには、料理人やキッチンスタッフが必要です。そしてその料理をお客様に運ぶためのホールスタッフや、お客様から代金を頂戴するレジスタッフなど、様々な役割を担う「人」がいてこそお客様に料理が提供でき、その対価としての代金をいただき、結果として源泉となる売上が立っていくのです。
このように飲食店、小売店などの店舗ビジネスにとって、「人」は欠くことのできない存在です。
しかしこの「人」にはコストが必要です。自分一人で全てを担っていたとしても、自身が生活するためにお金が必要で、そのお金は他の事業をしていない限り、店舗経営で得た売上からコストとして出ていくでしょう。
社員であれば月給として、アルバイトであれば時給として、「人」に対してお金が必要となります。
これを「人件費」と言います。
飲食店や小売店など、店舗オーナーにとっての「人件費」とは、店舗の売上を上げるために欠くことのできない、必要不可欠なコストなのです。
必ず知っておくべき「FLコスト」
では具体的に人件費について説明する前に、飲食店にとって不可欠な「FLコスト」について説明していきましょう。
Fはfoodで、料理をつくるための食材費、すなわち原価になります。そしてLはlaborで、労働という意味なのですが、これが人件費を意味します。
従って、FLコストとは売上を得るためにお客様に料理を提供するために不可欠な原価と人件費を合わせたコストとなります。一般的に、このFLコストの対売上比率を60%以内に抑えましょう、と言われています(例:売上が月間500万円であれば、FLコストを300万円以内に抑える)。
しかし、現在では同じ飲食店でも業態が多様化してきているため、当てはまらない店舗も増えていると思います。ひとつの目安として覚えておきましょう。
また、このFLコストにRを加えて、FLRコストを指標としているケースもあります。Rはrentで、家賃のことを指します。
このFLRコストの中で、R(家賃)は、基本的には変えることの出来ない固定コストです。従って、家賃比率を下げるためには売上を上げるしかありません。理想としては、家賃が売上に対して10%を下回るような運営ができていると収益が得られている店舗かと思います。もちろん家賃比率が高くなってしまっているのであれば、物件のオーナーさんに家賃交渉することも必要です。
またF(原価)については、仕入れ値を下げて原価を下げるためには、同じ品質で安く仕入れる仕入先や条件交渉などが必要ですが、大きくコストを下げるとなると、中規模以上のチェーン店で一括購入しない限りは、難しいでしょう。一方でポーション(料理における、一人前や一盛りの分量のこと)を適正にする、レシピの食材を変更するなどの工夫で原価を下げることは可能です。
しかし、何も工夫せずに原価を下げてしまうと商品力が低下していまい、それこそお客様の離反に繋がってしまうので注意が必要です。
そしてL(人件費)になります。人件費は固定費として捉えられていますが、変動化できる固定費となります。店舗を開けるためには最低限のスタッフが必要ですし、正社員であれば店舗にいなくてもコストがかかってくるので一定金額までは固定費となります。しかし、飲食店の多くはアルバイト・パートスタッフで運営しているため、時給での支払いも多いでしょう。アイドルタイムに過剰な人数がいないかどうかなど、売上に対して適正なコスト比率になっているか比較的コントロールしやすいのが、人件費となります。
データで見る人件費の捉え方
では、どのように人件費を適正化していけば良いでしょうか。
人件費を適正化するためには、売上と人件費のバランスをデータでしっかりと把握することが必要となってきます。
そして先ほどお伝えした通り、変動化できる人件費とは、時給でコストが発生するアルバイト・パートスタッフとなりますので、時間単位で売上と人件費が確認できることが理想です。
上図は一日における時間帯別の売上や人件費、それぞれの累積を図示したものになります。
3本の折れ線を見ていただきたいのですが、最後(24時部分)が52万円となっている緑の折れ線が売上推移、最後が19万円となっている青い折れ線が人件費推移、そして赤い点線が人件費比率の推移で、最終36.5%となっています。
上図の例では、ある一日において52万円の売上、19万円の人件費(人件費比率36.5%)となった、と読み取れます。もし、この店舗における目標の人件費比率が30%で設定されている場合、上図の日においては目標をオーバーしてしまった、ということになります。
もちろん一日のみなので、他の日がしっかりと適正な水準で人件費比率推移していれば、結果として問題のない人件費、すなわち「人(スタッフ)」の管理であるといえます。ただし、一日一日の積み上げが最終的な利益率を生み出すと考えると、このような日はなるべくない方が良いのです。つまり、毎日の細かいシフト管理、業務管理がとても大切なのです。
例えば上図の場合、ランチタイムにおける人員数が過剰でないか、ランチタイムとディナータイムの間のアイドルタイムでシフト調整できる余地はないか、ディナータイムでも、ピークを過ぎた後の人員数が過剰でないかなどが、要改善点として考えられます。
人件費が高くなる要因3つ
人件費が高くなる要因は、大きく3つ考えられます。
一つ目は、そもそも当初立てたシフト計画が間違っているパターンです。シフト組みをする際に、売上計画に対し過剰な人員投入を立ててしまっているのです。売上計画に見合ったシフト組みを意識することが大切です。
二つ目は、スタッフを働かせ過ぎてしまうパターンです。残業させてしまったり、お客様が減ってきた時間にも関わらずそのまま店に残したりすると、人件費が膨れてしまいます。
そして三つ目は、そもそも売上が足りないパターンです。当初立てた売上計画をもとにシフト計画も立てていきますが、売上自体が計画通りにいかず、結果として人件費比率が高くなってしまうケースです。最低限の業務は必要となるため、売上がなくてもかかる人件費はありますが、そこから先は売上に見合ったシフト体制が重要です。つまり、そもそも人件費を最適化するためには、いかに正確に売上計画を見込めるかがとても重要である、ということなのです。過去の売上実績をもとに、周辺エリアでのイベント情報や天気、予約状況などを踏まえ、出来る限り取れるであろう(また、取らなくてはならない目標の)売上計画を立て、それに伴ったシフト計画が必要となってくるのです。
飲食店における人件費の改善方法
では、具体的にどのようにして人件費を最適化していくのか、実例を踏まえて説明します。
具体的に人件費を最適化するためには、次の5つを意識して対策するとよいでしょう。
- 人時売上を理解する
- オペレーションの無駄を省く
- ITを導入する
- ツールでできることはツールを使う
- シフトからできるだけ無駄を省く
まずは、人時売上を店長などシフト管理者に理解してもらうことです。人時売上とは、スタッフ1人1時間あたりの売上です。業種業態により異なりますが、適正な人時売上は3,500円〜5,000円の間です。例えば、あなたのお店の目標人時売上が5,000円だとします。そして、1日の予想売上が10万円だとします。その場合、10万円÷5000円=20時間分の労働力を使えることになります。あなたのお店が、その日に社員が2人勤務するという場合、8時間×2人で16時間は社員が使うことになるため、アルバイトスタッフをシフトに入れることができる時間は4時間が適正であるとわかります。
あるべき人時売上を理解した上で、その目標を達成するために社員・スタッフに使える時間数を理解し、そこに近づける意識を持つことから始めます。
次に経営者・店長は、仕組み化や業務改善の検討を率先して行い、その姿勢をスタッフに見せる必要があります。それが、2のオペレーションの無駄を省く、3.ITを導入する、4.ツールでできることはツールを使う、です。
例えば、ある餃子専門店では、ランチのピーク時間に焼き餃子の提供が遅れるため、焼台を写すカメラを設置。店長やマネージャーが録画を見ながら無駄な作業を探し、工程改善をして提供スピードを上げました。
またある焼肉店では、セルフオーダーシステムを導入することにより、ホールスタッフの作業を大幅に削減し省人化しました。他にも、メニューブックにお酒の説明を丁寧に書くことにより、お客様からのスタッフに対する質問を減らし、ホールのオペレーションをスムーズにしたお店もあります。
このように、スタッフの作業を軽くする努力を実施しながら、先に記載したような「時間帯による余剰人員を無くす」などの検討を行い、5.のシフトからできるだけ無駄を省く、を実現していくと良いでしょう。
まとめ
- 人件費は、店舗経営に欠かせない「人」を見える化するコスト指標
- 飲食店においてFL(R)コストは重要指標。その中でもL(人件費)はコントロールが効きやすい
- 人件費をコントロールする上では、シフト計画が売上計画に対して適正か・働かせすぎていないか、十分な売上を取れているのかを分析する
- 人件費を最適化するに当っては、1.人時売上を理解する 2.オペレーションの無駄を省く 3.ITを導入する 4.ツールでできることはツールを使う 5.シフトからできるだけ無駄を省く の5つを意識して改善活動を行う
「人件費」は「人」という必要不可欠な要素を売上との対比で見える化することで、店舗オペレーションやシフト組みなどを最適化できる重要なコスト指標です。人件費をコントロールすることができれば、結果として店舗収益率を高めることに繋がっていくでしょう。
※この記事は公開時点、または更新時点の情報を元に作成しています。
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この記事を書いた人
齋藤 健太(さいとう けんた)データストラテジスト
慶応義塾大学理工学部卒業後、株式会社船井総合研究所に入社。主に中堅規模(数百億)以上の企業をメインクライアントとしたプロジェクトに従事。小売業、飲食店、メーカー等、幅広い業種において、中期経営計画策定やマーケティング戦略の構築、M&Aにおけるビジネスデューデリジェンス等の実績を有する。独立後も製造業や小売業、サービス業に至るまで大小様々な企業の課題発見に従事、成果を上げる。特にデータ分析においては、複数のコンサルファームにもアサインされる実力を有する。その他、AI関連スタートアップや教育関連企業からもデータ分析支援の依頼を数多く受けている。
2013年9月「問題解決のためのデータ分析」(2019年2月に新装版)、2019年10月「会社の問題発見、課題設定、問題解決」を出版。
KUROCO株式会社では、中小企業向けのデータ活用支援(分析、可視化、教育)を展開。
https://cm-consulting.jp/
笠岡 はじめ(かさおか はじめ)シニア販売促進士/飲食店コンサルタント
飲食店販売促進コンサルタント「販売促進士」を育成する一般社団法人販売促進士日本フードアドバイザー協会代表理事。同協会にて飲食店販売促進コンサルタント「販売促進士」の資格講座を提供している。
また、年間3桁の飲食店の売上アップのコンサルティングや開業支援、業態開発などを行う飲食店専門コンサルティング会社「飲食店繁盛会」の代表も務める。
著書に『売れまくるメニューブックの作り方(日経BP社)』等。セミナー・研修は年間約100本。メディア掲載も多数。
●販売促進士日本フードアドバイザー協会
https://spfaaj.or.jp/
●飲食店繁盛会
https://hanjoukai.com/
●Instagram『1日1分で学べる販促&メニュー戦略』でノウハウ共有中
https://www.instagram.com/hansokushi/