還付金を受けるための申請方法は?還付される金額の計算方法は?
税法では様々な家庭環境に照らし合わせて、納税者間の公平性を保つためのしくみがあり、その一つが各種の「控除」です。控除の申請をした結果、納めた税金の還付が行われます。ここでは還付金の計算方法や申請方法、受け取り方などを解説します。
この記事の目次
還付金とは
還付金とは、源泉徴収税額(給与や報酬、その他の所得から天引きされる税金)が支払うべき所得税等(復興特別所得税を含む)よりも多い場合に、納税者へ還付されるお金のことです。
なぜ、そのような差が生じるかというと、医療費がかかりすぎる人には医療費控除、災害があった場合には雑損控除など、控除があれば収入が同じでも、支払うべき税金が減額されるためです。人それぞれ納税額が変わることから、還付金額も変わってきます。
源泉徴収の対象となる所得
会社経営をしている方だと、もっともイメージしやすい源泉徴収の対象所得は「役員報酬」です。個人事業主の場合は、ご自身の事業によって源泉徴収になるかならないかが決まるため、注意が必要です。もし源泉徴収対象の報酬に該当した場合には、源泉徴収税額は報酬額(消費税抜き)に対して10.21%とされています。
これ以外にも特定口座を用いて株式の取引を行う場合、売買によって生じる利益(譲渡所得)に対しても源泉徴収され、保有する株式からの配当(配当所得)についても源泉徴収されることになります。
源泉徴収の対象になる報酬
- 原稿料や講演料など
- 弁護士、公認会計士、司法書士等の特定の資格を持つ人などに支払う報酬・料金
- 社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬
- プロ野球選手、プロサッカーの選手、プロテニスの選手、モデルや外交員などに支払う報酬・料金
- 映画、演劇、テレビジョン放送等の出演等の報酬・料金や芸能プロダクションを営む個人に支払う報酬・料金
- ホテル、旅館などで行われる宴会等において、客に対して接待等を行うことを業務とするいわゆるバンケットホステス・コンパニオンやバー、キャバレーなどに勤めるホステスなどに支払う報酬・料金
- プロ野球選手の契約金など、役務の提供を約することにより一時に支払う契約金
- 広告宣伝のための賞金や馬主に支払う競馬の賞金
「原稿料や講演料」の中に、デザイン料が含まれています。Webデザインを事業として行う場合には、源泉徴収対象となりますので注意が必要です。
還付の方法とタイミング
還付の方法は、年末調整と確定申告による二通りがあります。
年末調整により還付金を受ける場合
給与所得が2,000万円を超えておらず、二カ所以上からの給与、報酬もない場合には基本的に確定申告の必要はありません。そのため、この場合には会社が行う年末調整業務で還付金が返ってくることになり、1月、2月あたりの給与振込にて給与と一緒に還付されることになります。
確定申告により還付金を受ける場合
給与所得の源泉徴収票以外に、所得控除に必要な資料や税額控除に必要な資料、その他還付に関する書類を揃え、確定申告書を作成することで、計算した所得税額と給与などから差し引かれていた源泉徴収税の差額が還付されることになります。また、確定申告書には還付先の口座を指定する欄がありますので、この指定口座に還付金が税務署より振り込まれることになります。
※確定申告をしてから還付されるまでに、1〜2ヶ月程度時間がかかります。
還付金の付随効果
還付を受けるための確定申告は、過去5年間遡り行うことが可能です。また還付金が発生する場合には、同時に住民税も減額されることがあります。
住民税は、均等割(所得に関わらず一律)と所得割(所得に応じて変動)という二つの計算方法を採用しており、これらの方法で算出した合計とされているため、前年の課税所得金額により変動します。そこで還付金を受けるために確定申告を行うことで、課税所得金額が下がった場合には、翌年の住民税を下げることができます。
還付金が発生するケースと控除内容
税法で認められる控除内容を踏まえ、還付金が発生するケースを7パターンにわけて解説します。
- 多額の医療費を払った場合 医療費控除(所得控除)
- 災害や盗難にあった場合 雑損控除(所得控除)
- 寄附をした場合(ふるさと納税など) 寄付金控除(所得控除)
- 仕事に一定以上の支出をした場合 特定支出控除(所得控除)
- 住宅ローンを組んだ場合 住宅借入金特別控除等(税額控除)
- 副業で赤字が発生している場合 事業所得の損益通算
- 株取引で赤字が発生している場合 譲渡所得の損益通算
- (参考)退社して年内に再就職しなかった場合
(1)多額の医療費を払った場合の医療費控除
多額の医療費を払った場合の医療費控除については以下のような計算をします。
医療費控除(最大200万円) = 支払った医療費総額-保険金などで補填される金額-10万円※
「支払った医療費の総額」には、自分以外にも生計を一にする配偶者や家族のために支払った医療費も含めることが出来ます。「保険金など」には、民間の医療保険から受け取った給付金や、健康保険から支給される高額療養費や出産育児一時金なども含まれます。
また、上記式の「10万円※」については、総所得金額が200万円未満の場合は「総所得金額×5%」の金額になります。例えば、総所得金額が180万円の場合には、※の部分は10万円ではなく9万円です(総所得金額180万円×5%=9万円<10万円)。
また医療行為に類似するものでも、医療費控除の対象とならないものもありますので、国税庁のサイト「医療費控除の対象となる医療費」を参考にしてください。
(2)災害や盗難にあった場合の雑損控除
以下のような損害が生じた場合には、雑損控除を適用できます。
- 震災、風水害、冷害、雪害、落雷など自然現象の異変による災害
- 火災、火薬類の爆発など人為による異常な災害
- 害虫などの生物による異常な災害
- 盗難、横領
なお、詐欺や恐喝については、雑損控除における損害の範囲外となっていますので注意が必要です。
雑損控除額はいずれか小さい方となります。
- (差引損失額)-(総所得金額等)×10%
- (差引損失額のうち災害関連支出の金額)-5万円
(3)寄附をした場合(ふるさと納税など)の寄付金控除
国や地方公共団体、特定公益増進法人(一定の要件を充たす公益社団法人等)などへ寄付を行った場合、寄付金控除として所得控除を受けることが出来ます。
控除額は以下いずれか小さい方です。
- その年に支出した特定寄附金の額の合計額-2,000円
- その年の総所得金額等の40%相当額-2,000円
(4)仕事に一定以上の支出をした場合の特定支出控除
「通勤費」「転居費」「研修費」「資格取得費」「帰宅旅費」「勤務必要経費(65万円限度)」といった仕事に必要な支出が、「その年の給与所得控除額×1/2」を超えた場合に、給与支払者から証明書をもらう事で特定支出控除を受けることが出来ます。
控除額は一律以下の通りです。
- その年の給与所得控除額×1/2
(5)住宅ローンを組んだ場合の住宅借入金特別控除等
住宅をローンで購入した場合に、要件を充たすことで住宅借入金特別控除等(いわゆる住宅ローン減税)を10年間受けることが出来ます(居住年2021年12月31日までの制度)。床面積50平方メートル以上、合計所得金額3,000万円以下、ローンの借入期間10年以上などの要件のほか、中古住宅の場合は耐震基準や築年数の要件も充たしているかどうか確認が必要です(新築住宅は建築確認済のため耐震基準を充たしている)。
また、住宅借入金等特別控除は、所得控除ではなく税額控除なので還付金は非常に大きいものになっています。
控除額は以下のように計算します。
年末の住宅ローン残高×1%=住宅借入金等特別控除額(上限40万円)
※控除額については、毎年変わりますので注意が必要です。
住宅借入金特別控除等は、最大10年間適用されますが、住宅借入金等特別控除を受けるために確定申告が必要なのは1年目のみです。2年目以降は年末調整にて対応可能です。
なお、2019年10月以降の消費税増税にともない、消費税10%の住宅(新築物件や不動産業者から購入する中古住宅)を購入し、2019年10月~2020年12月までに居住した場合は、11~13年目も控除が受けられます。ただし、控除額の計算方法が変わりますので、「すまい給付金 住宅ローン減税制度の概要」(国土交通省)でご確認ください。消費税のかからない、個人間の売買の中古住宅の場合は、控除期間は従来の10年間です。
(6)副業で赤字が発生している場合の事業所得の損益通算
副業で赤字がでた場合、本業の給与所得と損益通算(他の所得の赤字と合算して所得額を減少させる事)することが出来ます。損益通算の対象は、不動産所得、事業所得、譲渡所得、山林所得になりますので、マンション経営をしている、もしくは他の事業を行っている場合に赤字が生じれば還付金が発生することがあります。
(7)株取引で赤字が発生している場合の譲渡所得の損益通算
株取引などを、証券会社の「源泉徴収あり」の口座で取引していると、配当金を受け取る時も20.315%(所得税15.315%、住民税5%)源泉徴収されます。株式の売買で出た赤字(譲渡損失)は、給与所得などとは損益通算できませんが、配当所得などと損益通算することが可能です。その結果、配当金から源泉徴収された分を、還付金として取り戻すことができます。
また、通算しきれなかった損失については、確定申告で最大3年間繰り越すこともできますので、翌年以降の株取引により生じた利益から控除して計算することができます。
(参考)退社して年内に再就職しなかった場合
再就職をしないと年末調整も受けられません。また、給与所得に関する源泉徴収の性質上、月額の報酬から年収を想定していることから、年の途中から給与が発生しない場合には、大幅に想定年収を下回ることになります。そのため、この場合には還付金が発生することが多いので、ぜひ確定申告により還付請求するようにしてください。
還付金の計算方法
総所得金額から所得控除額を差し引いた課税所得額に一定の税率をかけて税額を算出します。そして税額控除がある場合にはこの税額から税額控除を差し引き、納付すべき所得税額を導き出し、すでに源泉徴収されている源泉所得税と所得税額との差額を計算して還付金を算出します。以下専門用語が多いので内容を記載します。
- 総所得金額(給与所得や不動産所得、事業所得 など)
- 所得控除額(医療費控除、寄付金控除、社会保険料控除 など)
- 税額控除(住宅借入金特別控除等 など)
具体的な計算について、以下の事例で説明します。
<設定> 扶養家族のいない給与所得者
- 給与所得:500万円(社会保険料控除60万円、源泉徴収額は10.7万円)
- 不動産所得 :▲50万円(赤字)
- 支払った医療費:33万円
- ふるさと納税 :2.2万円
- 住宅借入金特別控除等:10万円
<還付金の計算> 2020年度以降適用される制度で試算
- 総所得金額:450万円(500万円―50万円)
- 所得控除額:277万円
(所得控除の内訳)
給与所得控除 :144万円※1
基礎控除 : 48万円(これは必ず控除されるものです)
社会保険料控除: 60万円
医療費控除 : 23万円(計算は前述参考)
寄付金控除 : 2万円(計算は前述参考) - 課税所得 :173万円(総所得金額450万円―所得控除額277万円)
- 算出税額 : 8.83万円(所得税8.65万円+復興所得税0.18万円)※2
- 税額控除 : 10万円(住宅借入金特別控除等)
- 所得税額 : 0円
- 既納付税額: 10.7万円(源泉徴収額)
- 還付金 : 10.7万円(源泉徴収額の全額)
上記の設定では、還付金は10.7万円になります。なお、算出税額から控除しきれない住宅借入金特別控除等は住民税から控除されます。
※1 給与所得控除の計算:国税庁「タックスアンサー No.1410 給与所得控除」
※2 算出税額に使う早見表:国税庁「タックスアンサー No.2260 所得税の税率」
(税額は100円未満切捨て、算出された税額に2.1%の復興特別所得税がかかります)
まとめ
- 還付金に関する知識を押さえよう
- 還付金を受け取れる場合は必要書類を揃えて確定申告しよう
- 還付金の申告については5年前まで可能
年末調整により還付を受けるのみであれば手続きは簡単ですが、年末調整だけでは対応しきれない場合、確定申告が必要になることがあります。 また、特別な所得控除、税額控除を受けるためには書類の準備も必要になりますが、恩恵が大きいので、還付金を受け取れるケースに該当する場合には、ぜひ確定申告をしましょう。
※この記事は公開時点、または更新時点の情報を元に作成しています。
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この記事を書いた人
福島 悠(ふくしま ゆう)経営コンサルタント/公認会計士
公認会計士、税理士。経営改革支援認定機関/SOLA公認会計士事務所 所長。
上場企業の顧客向け税書類の監修や経営コンサルティング、個人事業の事業戦略支援と実行支援まで幅広く対応。顧客収益最大化を理念に掲げ起業家を徹底サポート。多種多様な企業の税務顧問と年間約30件の戦略立案を行っている。