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事業主貸とは?生活費を引き出したら何と記帳する?

福島 悠(ふくしま ゆう)公認会計士

事業主貸や事業主借はどのようなときに使うのでしょうか。事業主貸や事業主借は、収入や経費の勘定科目ではありません。それではなぜこのような科目が存在するのか、その理由を詳細に説明すると共に具体的事例を踏まえて解説します。

この記事の目次

事業主貸とは?

事業主貸とは、生活費など事業とは関係のないお金を「事業が個人事業主に貸したお金」として扱い、その仕訳で使う個人事業主のための勘定科目を言います(法人は使用不可)。反対に、事業の運転資金など「事業が事業主から借りたお金」の仕訳には、事業主借を使います。いずれも、経費科目でも資産負債科目でもありません(計算の便宜上借方、貸方は区別)。また、個人事業主は「会社等を設立せずに事業を行っている人」を指します。
個人事業主は事業と事業以外などと明確に区別できない取引が多く、通帳にも生活費などが混在しているケースがよくあります。そこで、事業主貸や事業主借は、会計帳簿を作成する際に「事業に関係する取引」と「そうでない取引」とを分類するために用いられます。

事業主貸、事業主借はなぜ必要なのか

事業主貸や事業主借は、税金計算を正確に行うために必要です。確定申告の際に、その性質に応じて所得を10の区分に分けますが、これらはそれぞれ計算方法が異なっています。事業主貸や事業主借は、事業所得以外の所得が事業所得に含まれないようにするために使います。
例えば、居住用の不動産売買による代金が振り込まれていて、本来であれば譲渡所得に区分されるべき所得が、事業所得に含まれて計算してしまうと税金の計算結果が大きく異なる場合があります(居住用不動産の売却特例を使った場合には税金が0円のはずが、事業所得として申告したために税金を払っていた等)。

(参考)10種類の所得区分と所得の例

  • 利子所得:銀行から受け取る利息
  • 配当所得:保有している株式から生じた配当金
  • 不動産所得:賃貸用不動産から受け取る賃貸収入
  • 事業所得:自身が営む事業により生じた収入
  • 給与所得:勤め先などから受け取る収入
  • 退職所得:退職により勤務先から受け取る退職金
  • 山林所得:山林を伐採して譲渡した場合に生じる収入
  • 譲渡所得:自己が保有する資産を売却した際に生じる収入
  • 一時所得:生命保険の一時金や満期返戻金と言った一時の所得
  • 雑所得:上記9区分以外の所得

事業主貸、事業主借は事業主に対する取引で考える

事業主貸や事業主借は、「事業から(個人)事業主にお金を貸したか、もしくは借りたか」のように、事業主に対してどうしたかで考えると理解しやすくなります。つまり、「事業が事業主にお金を貸した(個人から見た場合は収入)」場合には「事業主貸」、反対に「事業が事業主からお金を借りた(個人から見た場合は支出)」場合には「事業主借」という勘定科目を用います。
一方で、会社を設立して事業を行う場合には、社長と会社は明確に区分され、事業主貸や事業主借という勘定科目は使いません。会社が社長にお金を貸したのであれば「貸付金」という勘定科目を用い、その逆に会社が社長からお金を借りたのであれば「借入金」という勘定科目を用います。
なお、個人事業主であっても、事業が事業主以外(例えば従業員等)の第三者へ貸付をした場合には「貸付金」を用い、金融機関等から借入をした場合には「借入金」を用います。

貸付金、借入金と事業主貸、事業主借の違い

法人の場合は、前述の通り会社が社長に貸付をすれば、社長は将来的に会社に借りたお金を返済する義務があります。またその逆に会社が社長から借入をした場合には、会社は社長にお金を返済しなければいけません。これらの金銭的なやり取りについては「金銭消費貸借契約」も結ぶ必要があり、契約書に記載された利息か利息相場分の金利取引(会社が借りていた場合には支払利息、会社が貸していた場合には受取利息)も発生します。
この点、個人事業主が用いる「事業主貸や事業主借」については、個人内での取引であるため、実際にお金の貸し借りは生まれていません。そのため、金銭消費貸借契約の締結や金利部分の取引について考える必要はありません。

生活費や家族の給与はどうすればいいのか

個人事業主の中でも「個人の通帳と事業の通帳を分けている方」と「個人と事業の通帳を分けていない方」の2つのケースがあります。前者の場合には、入金された売上から給与相当分を個人の通帳に移動する取引のみが事業用の通帳に記帳されますが、後者の場合、事業用の支出と事業と関係のない生活費等の支出が混在してしまいます。生活費は事業に関係のない支出のため経費にはなりませんので、「事業主貸」という勘定科目を用いて、事業用経費とそれ以外を分類していく必要があります。

なぜ生活費は経費にならないのか

事業所得は、「事業収入から必要経費」を差し引いて計算します。事業収入について、ご自身が行う事業との関連性から総合的に判断して、関連性が薄い場合には他の所得に分類して税金を計算する事になっています。この場合に、他の所得として分類される取引(例えば通帳に記帳された利息や役所からもらった児童手当等)については「事業主貸」を用います。
必要経費についても、事業との関連性を総合的に判断します。
「生活費」は事業との関連性が薄いことが多いため、必要経費として処理することは認められていませんが、事業との関連性が認められる生活費(自宅で作業をする場合の家賃や通信費、光熱費)については「家事按分」を用いる事で一部経費に入れることが出来ます。そしてこの家事按分によって必要経費とその他の支出で分けた場合に、「その他の支出」に当たる部分について「事業主貸」を用います。

(参考)
家事按分についての考え方や注意点と税務的な取り扱いを徹底解説
国税庁 事業所得の課税のしくみ(事業所得)

(参考)課税の公平性について
「生活費も支出だから、事業所得以外の所得から控除してもいいのではないか?」という意見も耳にしますが、生活費は人それぞれの趣味趣向によって金額が大きく異なります。例えば、贅沢をしたい人と倹約家の人では同じ収入でも毎月の支出額が大きく異なります。もし生活費も経費として認めるという制度であった場合、倹約家の方々が、贅沢をしたい方々と比べ多くの税金を納めなくてはいけなくなります。そのため、生活費は他の所得からも控除されません。

家族の給与はどうするべきか

基本的に、同一世帯の中での給与は必要経費として認められていませんが、事業に専ら従事していることが認められる家族への給与は、必要経費として認められます。事業に専ら従事している家族への給与については「専従者給与」をいう勘定科目を用いて、経費として差し引くことができます。

(参考)
専従者給与ってなに?家族を従業員にするメリットは?わかりやすく解説

一方で他に勤務している会社がある場合や、アルバイトをしている家族の場合には、「専ら従事している」と言い難いことがあります。たまに手伝う、ぐらいの家族に対して支払う給与については、生活費と同様に「事業主貸」を用いる必要があります。

事業主貸・事業主借の間違いやすい使用例

事業主貸や事業主借について、よくある間違いとその解決方法をQ&A形式でまとめました。なお、事業収入や必要経費については、各個人が行う事業の内容を総合的に判断して決めるため、「絶対にこれが正しい」という訳ではない事をご理解ください。

Q1.自分の給与は事業所得から控除して給与所得にしてもいいのでしょうか?
ご自身に関する給与相当額については、その支払い金額に対して「事業主貸」を用いる必要があります。給与所得には「給与所得控除」という制度があります。この給与所得控除にはみなし経費分も含まれているため、所得全体を少なくすることが出来ます。しかし、「事業収入から必要経費分」を控除して事業所得を計算している以上、さらに「みなし経費分」を控除するのは経費を二重で控除することになるため、ご自身の給与は「事業主貸」を用いてください。
(参考)国税庁 給与所得控除

Q2.住民税や個人事業主税、国民健康保険料や国民年金、生命保険等を支払いました。これらの支出は必要経費として処理して問題ないでしょうか?
この中で必要経費として認められているのは、「個人事業主税」のみです。個人事業主税は「事業所得の金額」に応じて計算されていて、事業との関連性が強いことから租税公課を用いて必要経費として処理します。その他の税金や保険料については「事業主貸」を用います。住民税や国民健康保険料は「所得に応じて課税する」ものですが、事業ではなく「個人所得」に対して課税するもので、事業所得以外に所得があった場合にも変動します。なお、税金などで必要経費となる候補として事業用車両の自動車税や自宅兼事務所の固定資産税等※があります。
※自宅について、将来的に売却を考えている方は事業用経費として一部を経費処理している場合、売却時の特例(3,000万円の特別控除)が使えない事がありますので注意してください。
Q3.飲食店を経営しているのですが、最近FXを始めました。このFXについての収入と経費を事業所得として処理しても問題ないでしょうか?
事業所得に区分するかどうかは、取引の事業性の有無を判断する必要があります。事業性は、営利性・有償性、継続性・反復性、リスク負担、取引に関する精神的・肉体的労力、人的・物的設備、取引の目的、職歴・社会的地位・生活状況等を総合的に判断して決定します。多くの場合には副業に分類され「雑所得」として区分することになります。たとえば、事業としても使う口座からFXを購入する個人的な資金が支払われていた場合、この経費は「事業主貸(事業に関係のない支出として事業主にお金を貸した)」とし、一方でFXの利益が同じ口座に入金されていれば、この収入には「事業主借(事業に関係ない入金として事業主から借りた)」を用います。
ただし、FX取引を反復継続的に行っていて、リスク負担もかなり高く、それだけでも生活し得る利益が認められる場合には、事業所得として処理しても差し支えありません。
所得区分について疑義がある場合には、税務調査時の争点にもなるため、しっかりと検討してください。

まとめ

  • 事業主貸・事業主借は個人事業主特有の勘定科目
  • 事業主貸・事業主借は事業に関係のない取引に対して用いる
  • 事業性の判断基準はやや複雑で総合的に判断する必要がある

事業主貸や事業主借は、事業に関係のない取引と事業取引とを区別するために用いますが、事業性の判断は非常に難しく、ご自身だけでは判断が難しいかもしれません。専門家の知恵を借りながら、しっかりと事業性の判断を行い、事業主貸や事業主借を使いこなしましょう。

※この記事は公開時点、または更新時点の情報を元に作成しています。

この記事を書いた人

福島 悠(ふくしま ゆう)公認会計士

公認会計士、税理士。経営改革支援認定機関/SOLA公認会計士事務所 所長。

上場企業の顧客向け税書類の監修や経営コンサルティング、個人事業の事業戦略支援と実行支援まで幅広く対応。顧客収益最大化を理念に掲げ起業家を徹底サポート。多種多様な企業の税務顧問と年間約30件の戦略立案を行っている。

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