移動販売の開業までの5STEP。キッチンカーに必要な資格や営業許可は?開業資金は?
笠岡 はじめ(かさおか はじめ)シニア販売促進士/飲食店コンサルタント
駅前やイベント会場などで出店するのを見かけることも多い、キッチンカー。開業にかかる費用が抑えられることから、注目している人も多いのではないでしょうか。
この記事では、キッチンカーでの移動販売に興味を持っている方に向け、開業するメリットから、必要な資格・費用・手続きや、開業までの5つのSTEPをご紹介。キッチンカーでありがちな失敗例も取り上げながら、移動販売で成功するコツを分かりやすく解説していきます。
この記事の目次
移動販売での開業は資金や人的リソースが潤沢になくても事業を始めやすい
移動販売で開業するメリットとしては、大きく以下のようなものがあります。
1.開業費用を抑えられる
車と設備、商品が揃っていれば始められるのが移動販売。開業にかかる費用は店舗型の半分から3分の1程度(※)と、大きく抑えることができます。
(※)詳細は後述します。こちらをご参照ください。
2.立地・営業時間・店舗の内外装を自由に変更しやすい
移動販売ならではの自由度の高さも大きなメリットです。売れる条件を求めて立地や営業時間を変更できますし、店舗のイメージを変えるような改装も、移動販売車なら自分で手掛けることも可能です。
3.ひとりでも営業できる
調理も販売・接客も、すべてひとりでできることもメリット。人件費を抑えられる上、店内で誰に気を使うこともありません。もちろん、規模によっては複数人で営業することもあります。
移動販売の開業には「保健所の営業許可」と「食品衛生責任者の資格」が必要
移動販売を行うのには、以下2つの許可・資格が必要です。
1.保健所の営業許可
営業許可とは地域にある保健所が行う許可であり、これがなければ移動販売で開業をすることはできません。営業許可は保健所に申請を行う必要があり、その際には「食品衛生責任者の資格」も必要になります。
営業許可を得る際には移動販売の車についても申請する必要があります。車内で調理を行う車は「食品営業自動車」であり、加工済みのものを販売することしかできない「食品移動販売車」と間違えないようにしましょう。
2.食品衛生責任者の資格
食品衛生責任者は調理師や栄養士の資格があれば持っているものですが、無資格の場合には保健所が実施する講習会を受ける必要があります。1日講習で得ることができますので、無資格の方はまず保健所に問い合わせてみるとよいでしょう。
キッチンカーでの移動販売の開業資金は300万円~500万円
キッチンカーでの移動販売を始めるのに、費用はどれくらいかかるのでしょうか?
新車か中古車か、改装の規模など、ケースによっても大幅に変わってきますが、車両代も込みで300万円~500万円がおおよその目安です。
例えば、「中古車を購入し、内装やペイントを自分でやる」などの方法で費用を抑えれば、300万円程度で開業することも可能です。
費用の内訳についても、それぞれ見ていきましょう。
車両取得費用:100~300万円
キッチンカーとして使用する車両を購入する費用です。新車か中古車か、どんな車種を選ぶかによっても異なります。費用を抑えたい人は、中古や軽自動車のキッチンカーを探すのもひとつの方法です。
改装費用:50~200万円
車の外装費や、キッチンスペースなどの内装費です。何を積むかによって大きく変わります。
保健所に営業許可を受けるための様々な基準を満たす必要もあるため、特に飲食業が初めてという方は、条件をきちんと満たした見積もりを、キッチンカーの改装業者に出してもらうと良いでしょう。
参考:東京都福祉保健局「自動車での営業」
【実際の見積もり例】
- ベースボディ(軽トラ荷台の上に乗せるキッチン部分)110万円
- 調理台10万円
厨房機器:30~100万円
冷蔵庫など、キッチンカーの中に搬入する機器の費用で、販売商品によって必要なものが異なります。
【実際の見積もり例】
- 冷凍庫10万円
- 冷蔵庫5万円
- 卓上フライヤー10万円
- 卓上コンロ5万円
その他
項目 | 金額目安 | 詳細 |
---|---|---|
什器備品 | 10~30万円 | フライパンなどの調理器具 |
食材 | 5~20万円 | 食材のほか、テイクアウト用のパッケージや袋(包材)なども用意します |
包材 | 3~10万円 | |
人件費(雇用する場合) | 20~30万円 | ひとりで営業することもできますが、雇用する場合は準備期間で20~30万円はみておきましょう |
販売促進費 | 5~50万円 | ホームページ、POP、タペストリー、ポスター、のぼりなど |
運転資金 | 30~100万円 | 車の維持費、駐車場代、ガソリン代など。 開業してしばらくは利益が出ない期間もあるので、3カ月~半年分は車を維持しながらでも生活できるよう余裕を見ておきましょう |
その他 | – |
など |
キッチンカー開業までの5つのSTEP
キッチンカーを開業するまでに必要な準備のSTEPは下記の通りです。
STEP1.コンセプトを決める
STEP2.商品開発
STEP3.車種選定・購入
STEP4.販売場所の選定・契約
STEP5.納車/営業許可申請
それぞれ、注意点とともに見ていきましょう。
STEP1.コンセプトを決める
何の移動販売をするかを、以下(1)~(9)の項目を決めていきます。
最終的に決める「(9)コンセプト」を考えるために、(1)~(8)を自分で埋めてみましょう。(1)の立地や(2)のターゲットが複数パターンになるケースもありますが、その場合は「複数をカバーする共通するもの(※)」または「一番売上が高いパターン」を優先してコンセプトを明確にしましょう。
(※)例えば、ターゲットが、食べ歩きや会社で食べたい【近隣で働く20~30代の男女】と家に持ち帰って献立のおかずを追加したい【近隣に住む40~50代の主婦】の両方がターゲットだった場合、売上が高いと見込めるターゲットを中心にコンセプトを考えると良いでしょう。
具体的に商品開発してキッチンカーを購入する前に、(1)~(8)の項目を考え抜いて、この時点での「(9)コンセプト」を文書化しておくことが大切です。
(1)立地/出店場所を複数想定する
パターンごとに複数想定します。コンセプトから立地を決めることが多いですが、立地に合わせてメニューのバリエーションを変えて売っていくこともあります。
(例)イベント会場への出店、スーパーや商業施設の駐車場、駅前、公園、商店街、など
(2)立地ごとにターゲットを決める
立地ごとにどんなお客さんが来店しそうかを考慮しながら、ターゲットを決めていきます。
(例)イベント参加者、買い物客、ファミリー、帰りがけの会社員、など
(3)立地とターゲットごとの利用動機を想定する
ターゲットがどんな理由やシチュエーションでお店を利用してくれるかを考えます。
(例)イベント中の食事、テイクアウト、家での夕食、など
(4)主力商品と価格
立地やターゲットを考慮しながら、お店の売りになる主力商品を決めます。同時に主力商品の価格も決めていくのですが、同様の商品についてコンビニなどの他業種も含めて調査して決めると良いでしょう。また、移動販売では注文と提供のスピードが重要なので、釣り銭が少なく計算しやすいように設定するのをおすすめします。
※余裕があれば
キッチンカーは客単価が低いため、売上を上げるための工夫として、保存のきく高単価の商品も設定しておくと良いでしょう。
(5)売り方
まずは、スタッフをひとりだけにするのか、複数人設定するのかを考えましょう。人を雇うと人件費はかかりますが、回転率を上げられ、呼び込み営業など他の仕事も任せられるため、その分売上アップに期待できます。
ここでもう1つ考えておきたいのが会計方法です。レジをどうするか、釣り銭はいくら用意するか、キャッシュレス決済に対応するかなどを決めていきましょう。
(6)店舗イメージ
どんな店舗にしたいかのイメージに合わせて、以下の項目も決めます。遠くからでも、何を売っているお店なのかが分かるように考えていくと良いでしょう。
- 車種
- ベースカラー
- 売り場イメージ
- 販促ツール(タペストリー、ポスター、POP/メニュー)
(7)営業時間
立地に合わせて設定します。移動販売の場合は営業時間「以外」の時間も長いので、そこも考慮する必要があります。
※営業時間「以外」の時間とは
行き帰りの移動時間、積み込みなどの準備時間、片付けの時間、仕込みの時間など
(8)販売促進
お客さんを呼び込むための販促内容を、大きく「店頭販促」「事前告知」に分けて考えていきましょう。
- 店頭販促:POP、ポスター、メニュー、リーフレット、タペストリー、看板、など
- 事前告知:ホームページでの告知、SNSやLINEでの告知、チラシ配布(出店の前日~前々日からおこなうと効果的)など
(9)コンセプト
「誰がやっている、どんなお店なのか」というコンセプトを設定し、それに合った店名を決めます。店名に「●●と●●の店」などショルダーネームをつけるのもおすすめです。
STEP2.商品開発
主力商品(お店のメインとなる商品)、その他の商品それぞれについて、「料理」「包装」に分けて考えます。
◇料理に関して
仕入れからお客さんへの提供までに必要な以下の項目を決めていきましょう。
- 価格
- 原材料
- 原価計算
- 調理工程(車内調理)
- 仕込み工程(車内/仕込み場)
- 仕入れ(食材、包材等)
◇包装に関して
お客さんがテイクアウトするのに必要な包装をメニューごとに設定しましょう。
- パッケージ
- 袋
……など
【ポイント】
キッチンカー内で調理・盛り付けするメニューはあらかじめ絞っておきましょう。例えば、看板商品や、そのバリエーション商品で手間が少ないものはキッチンカー内で調理・盛り付けし、お惣菜やドリンクなどの「ついで買い商品」は事前に作り冷蔵庫などで保存して販売する、など。売り切れたときのために、食材は冷凍で用意しておくのも一つの工夫です。
STEP3.車種選定・購入
大きく「車両を決める」「改装専門業者に依頼する」の2つに分けて進めていきます。
◇車両を決める
ここで、移動販売に必要不可欠な車両を決めていきます。車両はお店にとっての顔のようなものです。コンセプトや商品に合った雰囲気や大きさになっているかを考慮しましょう。また、車種選定から納車まで、3カ月から半年程度は見ておくと良いでしょう。
◇改装専門業者に依頼する
選んだ車両を移動販売の店舗になるよう改装します。基本的には専門業者に依頼することになります。依頼の手順は以下を参考にしてください。
- 仕様・内容の確認
- 図面作成と保健所への確認
- 見積もり・契約
- 設計・制作
- 検査・車両登録
- 納車
STEP4.販売場所の選定・契約
車両の改装と並行し、販売場所の選定・契約を進めます。場所によっては契約から販売開始まで何週間も待つケースもありますので、遅くとも2カ月前には動き始めるようにしましょう。
STEP5.納車/営業許可申請
キッチンカーが納車されたタイミングで、最後に保健所へ営業許可を申請します。食品を取り扱う営業をする際は、必ず保健所から許可を得なければなりません。納車後にしか申請ができず、許可がおりるまでには1~2週間程度かかるため、開業スケジュールに組み込んでおくと良いです。
また、営業許可申請の際は下記のポイントも押さえておきましょう。
- キッチンカーでは「飲食店営業」「菓子製造業」に該当するケースがほとんどだが、保健所に確認を
- 地域の保健所により対応が異なるので、販売場所の地域を管轄している保健所に問合せを
- 販売場所ごとに許可申請が必要
- 食品衛生責任者の資格が必要。未取得の場合は、余裕を持って営業開始の約1カ月前には取得を
- 仕込み場所、商品の保管場所に関しても保健所に許可を取る必要があるので忘れないように。こちらも許可がおりるまでには1~2週間程度かかります
以上5つのSTEPが完了したら、いよいよ営業開始です。
開業前に知っておきたい注意点やよくある失敗事例
移動販売でありがちな失敗例や、キッチンカーならではの注意点を、対処法とともに解説します。
販売場所が見つからない、決まらない
販売場所に申し込んでから実際に営業できるまで、申請手続きなどの関係で2カ月待ち、ということもあります。日数がかかることが多いので、注意しましょう。
■対処法
販売する場所の目星は早めにたてて、その場所への申請なども早めに進めるようにしましょう。
キッチンカーの中が暑すぎる
火や油を使って調理するキッチンカーの中は、非常に暑くなります。夏場は特に注意が必要です。
■対処法
車両内に扇風機を入れるなどしっかり対策しましょう。
お店のオペレーションが回らない
オペレーションが回らないことは売上低下に直結するので避けたいところです。時間当たりの売上が減ってしまいますし、お客さんの待ち時間が増えることで帰られてしまうことで機会損失にもつながります。
■対処法
事前のシミュレーションをしっかりおこないましょう。最初から大きなイベントでの出店などは控え、近場でまずは何カ所か出店して、オペレーションを修正していくのがおすすめです。
大量の販売ロス、食材ロスが出てしまう
キッチンカーならではの失敗例が、車内の食材がなくなり営業終了せざるを得ないケースです。逆に用意した食材が売れず、大量に残ってしまうこともあります。
■対処法
販売ロスや食材ロスを防ぐために、以下のような対策をすると良いでしょう。
- 場所によって売上をある程度予測し、食材や仕込み商品を用意する(同じ場所に何度か出店を重ねることで予測が立てやすくなる)
- 冷凍で持っていけるものがあると調整しやすい。売れてきて足りなくなりそうだったら早めに解凍する
- キッチンカーの同業仲間を作り、場所ごとの売れ行きなどを情報交換する
- 立地ごとの売上記録は欠かさないようにする
拘束時間が長すぎてダウン、人件費がかさむ
キッチンカー販売での拘束時間は、営業時間だけではありません。店舗営業の飲食店にはない「移動時間」を忘れずに考慮しましょう。車の運転には時間も体力も使いますし、人を雇う場合は移動時間にも人件費がかかります。
■対処法
移動時間を考慮して無理のない営業スケジュールを組んだり、移動時間が短い販売場所を選んだりといった対策が考えられます。
仕入れた食材の保管場所がなくて困る
その日に売り切る分の食材だけを仕入れられれば理想ですが、ロットの問題などで、仕込んだものをどこかに保管する必要が出ることもよくあります。食材の保管場所や、保管設備も考えておくのを忘れないようにしましょう。
■対処法
食材の保管場所・保管設備を準備しておくのがベストですが、難しい場合は、その場所での売上を他の出店者に聞いて目処をたてる、仕入れ・出店場所における人通りの量などのデータを取る、などできるだけ適正量を発注できるようにしていきましょう。
まとめ
- 開業費用を抑えられ、自由度が高いのがキッチンカーのメリット
- 移動販売の開業費用は300万円~500万円。中古車を選ぶ・内装を自分でやるなどの工夫で減らせることも
- キッチンカー開業のSTEPは「コンセプトを決める」「商品開発」「車種選定・購入」「販売場所の選定・契約」「納車/営業許可申請」の5つ
- 営業許可申請などで想定よりも時間がかかることもあるので、スケジュールに余裕を持たせつつ、なるべく早めに動き出す
- 商品や営業時間、立地や売り方など開業する前の計画をしっかり立てることが重要
開業費用が抑えられ、新規参入しやすいキッチンカーでの移動販売。自由度が高く、工夫できるポイントがたくさんある一方で、移動時間が意外と長いなどの注意すべき点も。店舗での営業とは異なる、キッチンカー販売ならではの特性やポイントを、しっかり押さえておきましょう。
※この記事は公開時点、または更新時点の情報を元に作成しています。
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この記事を書いた人
古閑 信気(こが としき)編集者・ライター
広告代理店勤務を経て、現在は編集プロダクションにて編集・執筆に従事。旅行、ライフスタイル、恋愛からビジネスまで幅広いジャンルの記事に携わる。「読者が記事を読んだ後に、刺激を受けて行動に移すこと」を目指してコンテンツ制作に取り組んでいます。
笠岡 はじめ(かさおか はじめ)シニア販売促進士/飲食店コンサルタント
飲食店販売促進コンサルタント「販売促進士」を育成する一般社団法人販売促進士日本フードアドバイザー協会代表理事。同協会にて飲食店販売促進コンサルタント「販売促進士」の資格講座を提供している。
また、年間3桁の飲食店の売上アップのコンサルティングや開業支援、業態開発などを行う飲食店専門コンサルティング会社「飲食店繁盛会」の代表も務める。
著書に『売れまくるメニューブックの作り方(日経BP社)』等。セミナー・研修は年間約100本。メディア掲載も多数。
●販売促進士日本フードアドバイザー協会
https://spfaaj.or.jp/
●飲食店繁盛会
https://hanjoukai.com/
●Instagram『1日1分で学べる販促&メニュー戦略』でノウハウ共有中
https://www.instagram.com/hansokushi/